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第九章

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 鮫島は僕を犬のように調教した。
 四つんばいで部屋の隅から隅まで歩かせたり、四つんばいのまま投げたものを取りに行かせたり。
 しゃべるのも「サッシュ」と言われ、止められた。代わりにワンと言わせるのだから、たちが悪い。
 鮫島はSubを犬だとしか思っていないのだろう。ところどころ馬鹿にしたように笑った。
 もちろん褒めることもない。

 託も最初は褒めてくれなかったけど、決して嫌ではなかった。Subとして満たされずドロップしてしまったのは悲しいが、託になら何をされても良かったのだ。
 だから、鮫島にされることは嫌で嫌でたまらなかった。
 脱げと言われなかっただけが救いだった。こんな男に裸を見られたくない。

「舐めろよ」
 とホテルに備え付けのスリッパごと足を差し出された時には絶句した。
 汚い。嫌だ。なのに従うしかない自分。僕はSubであることが心底嫌になった。

 その途中で、開くはずがないドアが開いた。
 託だと気付いた時、僕はもう鮫島など見てはいなかった。

「何、あんた」
 託はぞっとするような冷たい目で鮫島を見た。
「何だよお前。どうやって入った」
「友達がレイプされそうになってるって言ったらキー貸してくれたよ」

「レイプ?」
「Subを無理矢理プレイさせるののどこがレイプじゃないの?」
 託はものすごく怒ってるみたいだった。
 途端に自分のせいかもしれないと思ってつらくなった。
「託、ごめん。あっ」
「鈴也は黙ってて」

 グレアは注がれてないけど、何も言えなくなってしまった。

「パートナーでもないくせに、しゃしゃり出てくんなよ」
 パートナーという単語に僕は顔をしかめた。確かに託と契約クライムは結んでいない。

「言いたいことはそれだけ?」
 託は鮫島を蹴り上げた。
 さすがにそれはまずいと思って僕は慌てた。
「いてっ。ふざけんな」
「身の程知らずが」
 託がもう一度鮫島を蹴ると、鼻血を出したのが見えた。

「託、やめて」
「やられたのは鈴也だよ」
「わかってる。でも」
 託のこんな姿は見たくなかった。
「大丈夫だから」
「そんな顔してないけど」
 鮫島などどうでもいいから、僕は一刻も早くここを出たかった。
「早く帰りたい」
「鈴也」

 託は鮫島の胸ぐらを掴み、「次は死んでもないから」
 と言って放り投げた。

 鮫島は託に射すくめられ、
「そんなに大事なら首輪しとけよ」
 と捨て台詞を吐いて去って行った。

 僕は鮫島が出て行ってほっとしたが、震えは止まらなかった。嫌々プレイさせられたせいだろうか。
 月曜日にどんな仕打ちが待ってるのかと思うと体がこわばった。
「鈴也、大丈夫だから」
 託に支えられながらタクシーで託の家に連れて行かれる間も、ずっと震えが止まらなかった。
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