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第三章

3-2

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 悲しそうな瞳で僕を見つめる人がいる。
 誰?
 切れ長の瞳に、形のいい眉、堀がありほどよい高さの鼻、厚みのある唇。とても整った顔立ちの男だ。
 知っている人のような気がした。
「よくがんばったよ」
 褒められる資格なんかないのに。
「鈴也」
 自分を呼ぶこの声を、どこかで聞いたことがあった。温かくふわふわとする感覚で心の中が何かで満たされる。気付いたら眠っていた。久しぶりに夢も見ずにゆっくり眠れた気がした。

 はっと目が覚めた時、ここがどこだか一瞬わからなかった。
 見たことのある部屋だと気付き、つい声をあげた。
「託?」
 反応はなかったが、やはり託の家のようだ。体を起こすと、見覚えのあるタンスが見えた。
「起きたの?」
 託が近付いてきて焦った。プレイ中に意識を失ったのだろうか。
 空が明けたばかりで薄暗い。電気はついていなかった。仕事に行かないとと考え、そういえば今日が休みなことに気付き、ほっとする。
「ごめん。帰る」
 言いながら、この口の利き方じゃ怒られると思い、言い直した。
「じゃなくて、ごめんなさい」
 託は怒っているのでもなく、困った顔で僕を見た。
「鈴也」
「た、託様」
「もういいから。そんな呼び方しなくて」
「え、えーと」
 託の様子がおかしかった。何か気に障ることを言っただろうか。いや、意識を失ってしまったせいだろうか。
「ごめんなさい」
「謝らなくていい」
「ごめ。じゃなくて」
 何か気の利いたことを言わないとと思った。
「いい子」
 頭を撫でられた。
「た、託?」
 そんなこと今までされたことなくてびっくりした。
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