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膀胱圧迫面接敗北やぶれかぶれ飲み会(下心あります)
ホテルにて。
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二人は、どのホテルがいいかなどと話する事もなく、目に入ったホテルに、誘蛾灯の放つ光に抗う事ができないように、吸い込まれていった。
「入っちゃったね」
「うん」
里乃の問いに、はにかんだ笑顔で答える彩。
「汚れてしまったし、シャワー浴びる?」
「ん、いい。今はこのままでいるのが気分かも」
「実は私も同じ。あ、このソファ、フェイクレザーみたいな素材だし、座っても問題なさそうじゃない?」
そう言いつつ、備え付けのソファに腰を下ろし、身体を沈める里乃。そのまま、彩においでおいでの仕草をする。それに応じ、彩は里乃の隣にちょこんと座った。
「楽しかったけど、疲れもしたなあ……。いろいろ迷惑もかけちゃったし」
里乃は長い息を吐きながら、今日一日を振り返っているようだった。
「確かにね。面接でつまずいてからというもの、失敗続き過ぎて、逆に笑ってしまうね」
彩は、チェックインしてからの、リラックスして話をする時間が好きだった。入ってしまったからには、する事はするのだろうし、こういう時はいつも、駆け引きが終わって、次へと続く、導入時間のようなものだと思っていた。
「お約束だったけれど、エレベーター・キス、何度経験してもいいものだなあ」
「分かる。個室で二人きりというのは少し違うのが、どきどきしちゃう。降りる階まで舌絡め合って夢中になって、ドアが開いた時に鉢合わせになってさ。慌てて取り繕ってみたりして、後でその事で揶揄ったり揶揄われたり」
「彩はモテるだろうからなあ……そういう経験豊富そうだけど、飽きないものなんだね」
「ぜんっぜん! 経験豊富なんかじゃないから。んー……声かけられる事は多いのかな、多いのかもしれないけど、コミュニケーション能力あまりないし、無視するのが楽って思っちゃうからなあ」
「でも何故か、私達は〝ここにいる〟よね……」
「すごく不思議だけど、こうなっちゃった」
「あ。そういえば、彩のエピソードは披露してもらったけど、私の番のままだったね。聞く?」
「うん。里乃のも聞かせて? もしよかったら」
彩は身体を斜めにして、聞く体勢になった。
「ちょっと大規模なレジャー施設に行ってね。休日だからもう、それはそれは大混雑で……。プールで遊ぼうっていう話だったんだけど、そこも本当、芋を洗うよう、って言葉がぴったりってくらいに混んでて」
「暑い日とか、家族連れとかカップルが集中しちゃうよねぇ……。混んでるの分かってても水浴びしたい! って気持ちになる日、あるからね」
彩にも経験があるようだった。友達同士でも、予定が合う日は休日しかなく、仕方なく行く、みたいな事があったのかもしれない。
「恋人が煙草を吸う人だったんだけどね、プールから上がったら一服するのが最高だって言ってて」
「あー。なんかひと区切り、みたいな時に時間ができると、火を付けてぼけーっとするのが好きって人、多いかもね。吸う人自体はかなり減ってきてるけど」
「さっきの話でもそうだったけど、水の中って異様におしっこしたくなるじゃん。で、こっそりともらしちゃおうかなって思っていた所に、一旦上がるよって言われて」
「わ、滅茶苦茶に人いる中だったら、プールでもらしても誰かに気づかれちゃうかもだし、かといってプールから上がったら、すぐには出せない!」
「プールの中でおしっこしてくればまだ目立たなかったのに、その時はタイミング悪くて、」
里乃は溜めを作った。
吸い寄せられるように、彩は里乃の言葉を待ち受けている。瞳は大きくなっていて、きらきらと期待を膨らませているようだった。
「しちゃったの……? 里乃」
「うん。上がったばかりなら水が多少垂れてても誰も見てないでしょ、と思って、しれっとした顔して全部出しちゃった」
「プールの中じゃなくて、プールサイドで? 里乃、エッチだ……」
「人でごった返しているし、目の前には恋人がいるし、でも絶対にトイレには行きたくなくて」
「プールで出せなかった? ふふ、ほんとに~?」
彩は、端から信じていないようだった。里乃を下から、いたずらっぽい目つきで見上げる。
「マメに出すようにしてれば、いいんだろうけど……ほら、おしがま中って、変に気持ちいいじゃない? だから粘っちゃってたの。彩が疑ってるのは、こうでしょ。おしっこもらしちゃうとこ、見られたがってた、そう言いたいんでしょ」
「里乃、分かってるじゃん。ふふふ~、実際よかったんでしょう?」
「……よかった。すごく」
里乃も彩も、性癖を開けっぴろげにして話すのが楽しかった。彩は、まだこの道に入って間もないから、里乃のことを「この子、結構エグい」と思っていた。そして里乃のように〝エグく〟なりたいなと願った。
「ああいう施設、トイレが大行列になっていたりするけど、沢山人が使うし、汚れが酷いよね。だから、使いたくないって気持ち、分かるよ」
「実際、プールの水の成分のうち、かなりの部分をおしっこが占めてると思うよ。でね?」
「聞く!」
里乃の語尾に被せる勢いで、彩が身を乗り出してきた。
「がっついちゃって、彩ったらもう。そんなに大したオチは付かないよ~?」
「何言われても里乃なら納得だし、驚かない気がする。でも気になるっ」
驚かない、と里乃が言っているにも関わらず、彩の目は、爛々としていた。
「水着着けたままするのは慣れてるし、なるべく平常心でやってしまえばと思ってたけど、纏わり付くような視線感じてさ」
「はらはら! もしかしてバレちゃってたとか!」
「瞳の感じが潤んでる、ってほどでもなかったけど、なんとも言えない表情してて。見た! 見ちゃった……! みたいなね。こっちが視線合わせたらすぐに目を逸らされたけど、あれは多分『同好の士』だったね」
「目が合ったら心臓どっくんしちゃうのは分かるけど、性癖持ちなのかまで見分ける力は、私にはまだないなあ。里乃は格が違う~」
「彩はゆっくりおいで、こっちの世界にね。急いじゃうと背徳感の味わい方とか、間違えそうになるしね」
「うん……。でも成長したいよ」
「まあね~。この子我慢してるのかな、とか分かるようになるし、分かってしまうとめちゃくちゃ意識するじゃない? 自分を当てはめて考えたらどきどきしてきちゃって。バレたっぽかった時は、声かけたらよかったかな、とか考えちゃったな。恋人の目の前で、無理だったけどさ……」
「出会いの機会だったかもしれなかったんだ。惜しい~」
「あ! あとね、ウォータースライダーもやったんだけど、ものすごい行列で」
里乃の脳裏には、その時の様子が詳細に描かれていった。
「わーお、そんなの、私達にとっては自殺行為♡」
「スタッフが大声で『ただいま大変な混雑となっております! 今からお並びいただきますと、九〇分程お待ちいただくことになります!』って言ってて」
「ほんとに? そんなの、下腹が冷えてるのにどうなっちゃうの……」
彩も想像するのは簡単だったようで、尿意に耐えきるのは不可能に近いと感じていた。
「行列に並ぶ前に、プールサイドでおしっこ済ませたんだけどね」
「里乃、割と堂々というか、開けっぴろげに変態ちっくなことするのすき」
「私もすきよ、彩のこと。それと変態度が上がっていくのを見守るのがねっ」
そう言いながら、里乃は、彩の背中に腕を回した。彩はそれを受けて、里乃の肩に頭を預けた。
「はあ、落ち着く。もう付き合ってるんじゃないの? 私達」
「そう……なるのかな」
「里乃のキスはおしっこの匂いがした♡」
「えー? 口から⁇」
「ふふ、正しくは漂ってた、か」
彩が、ぺろりと舌を出して笑う。
「おしっこの、むせぶような甘い香りに包まれて、私達はくちづけを交わしたのだった。それはあまりに唐突で、簡素とも言えるものだったけれど、二人のお互いへの想いを確かめる手段としては、十分だったのである。まる」
「あはは、意味わかんないよ、里乃。……私と付き合って欲しい」
「私が言うはずだったのにな……喜んで」
「ありがとう♡」
「彩ー♡♡」
「里乃。抱いて?」
「私が先に好きになったはずなのになあ、おかしいなあ……」
「そんなのわかんないもん。しゅきっ」
「しゅきぃ……ちゅっ。で、さっきの話の続きなんだけどね?」
「もうっ、聞くからベッドいこ? 里乃」
座ったままの里乃に、彩は自分の膝上に手をついて、もう片手は里乃に手を差し伸べている。里乃は、この瞬間を横からのアングルで切り取ってくれる人が誰かいないか、真剣に考えてしまった。それくらいに尊い光景だろうと思った。
彩が里乃の手を引っ張って、グイン! と引き寄せた。そのままベッドへダイブ。
彩は両手で里乃の頬を挟み、一気に里乃の唇を奪った。里乃は、キスを受け入れるための唇の形を、作る暇すら与えられなかった。
「んんっ、ちゅ……ん、あむっ……ちゅぅぅ……れろっ、ちゅぱ……てろてろ…………ぷはぁっ……」
「はぁ……やば、彩ってバリタチじゃん……」
「どうなんだろう、誘いネコちゃんだったりもするかもよ?」
「そっかあ……彩は完ビなんだね」
「そだよ。ノンケだと思ってた?」
完ビとは、完全なレズビアン。真性ビアンとも言う。恋愛対象は女性のみ、男性はまったく相手にしない。もちろん、恋愛的な意味で、であって、コミュニケーションを持たないという事ではない。
「うん。だから彩の事、一目惚れするくらいには好きだったけど、お友達くらいでもいいから、繋がりたいなって」
「出会いってなかなかない世界だからね、自分からガンガンいかないと。同性愛者って割と肉食っぽいかもね~。繋がれてよかったね。というか、よかったよ、里乃」
「彩のおしっこの匂い嗅いでると、どきどきする……」
シャワーを浴びず、中華料理店で汚したままだったから、二人の鼻腔を二人のおしっこの匂いが刺激し続けていた。
「里乃に、こっちの趣味は、完全に感化されちゃったなぁ、いい匂い」
「あ、ウォータースライダーの話」
「うふふ……。どうぞ?」
彩はもう、いつでも里乃とセックスできると思って、肩の力を抜いたようだった。
「高い所から滑り降りる訳じゃない? ウォータースライダーって。だから、階段を登りながら待つ事になるんだけど」
「なんかエッチかも。前にいる人の下半身とか、どうしても見ちゃうよね」
「そうそれ。待ってるうちに、だんだんおしっこがしたくなってきちゃって」
「もぞもぞしてる所だけじゃなくって、うっかりおちびりなんてしちゃうと……その雫が後ろの人の目の前で垂れちゃう」
「絶対に私だけじゃないはずって、その時は言い訳してたな、じわじわおちびりしながら」
「そうだと思うよ? 一時間半でしょ? もらしながら待つ子もいるよ」
「大きな波がきちゃって、ぶわっと出ちゃった時は、終わった……って思った」
「里乃はその道の人だから、羞恥と興奮が混じっちゃって変になってたんだろうなって思うー」
「ばれてる」
「へへっ」
「それでね、やっと自分たちの番が回ってきた時には、もう本当に限界で」
「その場でプシャアって出しちゃったの? 恥ずかしいね」
「ううん、スライダーを滑り降りる時、恋人に後ろから抱きついてたんだけど、どさくさに紛れてもらしちゃった」
「うわ、気持ちよさそう……」
「すっごく……すっごくよかった。体位的には、おぶってもらいながらおもらしするようなものだし」
「恋人もおしっこで濡らしながら、気持ちよくなるなんて素敵だったね」
「お尻のあたりが温かかったみたいで、『もしかして里乃、おしっこした? なんとなく落ち着きなかったし、我慢してたでしょ』って!」
「「バレてた~!」」
「水に流すって言葉もあるじゃない。きゃーきゃー言いながら大放出! もう我慢できる訳がないもんっ」
「ふぅ~、笑った笑ったぁ~。満々だった筈の性欲、迷子になっちゃったじゃん……」
彩は、まだ腹筋をぴくぴく痙攣させて、くつくつと笑っているようだった。
「私がなんとかしようか? さすがにこの短時間で乾いちゃった、なんて事はないだろうし」
里乃は変なところで責任を感じていた。なんというか、こう、急接近して一気に高め合った時は、絶対にセックスしなければならない……何も無かったでは、虚しさばかりが残る。後々後悔するだろう、と。
「じゃあ私の、お墓まで持って行くつもりだった、恥ずかしいエピソードを、里乃にだけ教えるねっ」
「お墓までって。そんな機密情報を簡単に言っちゃうの? 彩」
彩のあまりに軽い調子に、里乃は、不自然なものを感じ、そこまでしなくても、と思った。
「私だけが深刻に捉えてるだけで、里乃が聞いても期待外れって事になるかもだし、まあ軽く聞いておいてよ」
「多分エッチなネタだと思うから、触りながら聞いてよっかな……」
好きな人の隣でオナニーするというシチュエーション、里乃は割と好きだった。同棲していて、朝の性欲処理、どうしよっか、という話になったときに、それぞれが自分の性器と対話する時間が、そこはかとなく変態チックで楽しかった。隣に性的対象がいるのに、自分を慰めるという、セックスできなくてもオナニーで性欲を鎮める強引さがたまらない。
里乃も彩も、濡れたデニムパンツを脱ぎ捨て、下着姿になって、ベッドに横になった。中にこもっていたおしっこの匂いがむわぁっ……と広がる。
「オナニーするなら、一緒にしたいかも。ねえ里乃、後ろから抱きついててもいい? 抱きつきながら、もう片手でするから」
彩はそういいながら、早くも体勢を整えつつあった。
「後ろから乳揉まれたり、あそこ弄られるの好きだから、ちょっとどきどきするかも」
「里乃のクリ、かわいいね。ちょっと大きめだから感じそう。そう、優しく撫でて……」
「……ん、彩の……おしっこの匂いが後ろから流れて……あ、興奮しちゃう……きもちい……」
「じゃあ、聞いてね、里乃。私、言い寄られても、あまり相手にしないタイプだっていったでしょ。でも性欲はないという事はなくて、むしろ強い方なの」
「あん、耳、弱いから……は、普通に話してるだけなのに、ぞくって、んん……なる……」
「ふふ、里乃は感度高そうだなあ……攻め甲斐がありそ、んっ……」
「あ、彩も始めたのね……はぁ、しあわせ。一緒にぃ……きもちくなろうね」
「うんんっ……里乃。わかったぁ」
「あ、あはっ、続き、きかせてえ」
「あのね、お気に入りのオナサポ音声作品があって、お世話になりまくっていた時期があったんだけど」
異性愛者なら好みの異性の声優に、同性愛者なら同性に、耳元で淫らな事を囁かれて、心身共に支配されていって、最後には絶頂までサポートしてくれる。それが、一般的なオナサポ音声だと思う。
「い、いいっ、意外だな。彩が、ああっ、そんなの聴く、なん、てぇ……」
「陰キャですから……一人だときもちい事、はぁはっ、ぜんぶぅ……知ってる訳だし……刺さる声とかぁ、シチュに巡り会うと……あ、ああっ、里乃ぉ……同じ音声ばっかりぃ……聴いちゃうのぉ…………」
「新鮮さはぁ……ないかも、んっ、だけどぉ……どこから高めて、くれるのか、とか、あ……聞き込めば分かるから……使い勝手が、んふっ、よくなって,……あああっ、いくんだよ、ね……」
里乃もお気に入りのオナサポボイスは、いくつか持っているから、彩の言いたい事はよく分かる。最初に通して聴いて、導入から話の流れを把握して、メインディッシュの持って行かれ方を頭に入れておく。予習しておいたほうが、初見でわくわくするよりも、気持ちよさでは上かもしれない。初見は、当たりなのかどうかすら、分からないからだ。
「弟に借りていた……はぁ、はぁ、ワイヤレスヘッドホン、……が、高級モデルだったらしい……あっあっあはあっ……」
「彩かわいい……思い出しオナニー、はまってる……追いつかなきゃ、やん♡」
里乃を抱き寄せていた指が、いつの間にか、乳首に迫っていて、彩はカリカリ、カリカリと刺激を与え始めた。
「びっくんてなった。里乃、乳首めっちゃよわいじゃん」
「耳のすぐ傍で話しかけられながら、乳首なんて、ああん……だめっ、やめて……」
「すきよ、里乃。聞いてて。それで、そのヘッドフォンの、あん♡ 外から聞こえてくる音を遮断する、の、ノイズキャンセリング性能も、ぎっ、業界トップと言われていて……はぁ……んんっ、作品を聴く時の没入感がああ……凄くてえ……。」
「外音をシャットアウトして、んっ……それいいよお……彩ぁ……。そのうえ、推しの声にオナサポっ、されちゃうの……もうその声しか聞こえないし、完全に飲み込まれてしまうっ……あ、乳首それえ……♡」
「私は、ん、オナニーするときのお供に使うのはあ、電マが多いんだけどっ、はっ」彩は急に周囲をキョロキョロと見渡す。「あ♡ あったあ電マ♡♡ うちで使ってるのと同じモデル……」
ブウウウウウウウ……
彩が電マのスイッチを入れたみたいだった。結構大きな音……。地響きを連想させるような、静粛性を無視した音量だった。
「結構大きな音……これうちで使ったら壁ドン、んん……され、そ、おっ♡」
「そう、音が漏れちゃう……ああっ、から……使うのは時間を選ばなきゃいけなく、てえ……ああっこれきもちいっ。で、でもそのヘッドホンは、遮音性がほんとに高くて、その電マの音まで…………あああ……やばいやばい里乃ぉ……♡ ほとんど聞こえなくなる位だったのおおお♡」
「彩、いきそうなの? その時の事が頭に蘇って、おかしくなってるの?」
「作品のお……中にぃ、完全に埋もれきって、楽しんで果てる事ができたんだけど、あ、ああっは、はああ……い、いきっ。はぁ、はぁ……」
「まって彩、最後まで聞かせて、いくの、私もいくのおっ、待つからあ……」
「あとで弟に、ヘッドフォンを返す時にぃぃぃぃっ♡ 『おねえ、まあ年頃だし、そういうの俺もするからいんだけどさ、ノイズキャンセリングは外音を遮断するだけで、他の人にはまる聞こえになるんだからな? まったく、実の姉だというのに変な気起こしそうになったわ』そうっ、言われたのっ、あだめいくっ、里乃いく、いくぅ……あああいきゅ♡ はぁああっっ」
「彩、あやあ、ずるい一人でえ、突っ走っちゃってずるい。それ貸して。私もお、電マイキ、キメるからあ……」
ヴィィィィィィィィ……‼
「お、おおっ、おぉぉ……な、なにこれ、あああああもってかれるうううう、いっく、ああっ、いくうううううっ♡♡♡」
「はぁ、はぁ、はぁ…………えへ、かわいいね、里乃。弟がしてるのはそれはもう、しょっちゅう遭遇しちゃって、あーはいはい♡ って笑ってたけど、姉がやってるのを目撃されちゃうのはねえ……流石に……」
「ふう~…………。弟さんは、どんなオナニーしてたの? あ、いや生物学的な興味というか、その……」
「あはは、取り繕わなくてもいいよ、里乃。あなたバイでしょう? 気を遣わせてしまっていたけど、お話の内容から、大体想像はついてた。付き合ってた人の事を『恋人』とはあまり呼ばないし……」
「バイセクシャルって、節操ないイメージない? ぶっちゃけ。だから完ビさんは付き合っていても、『好きな男がいつ現れても不思議じゃない』って不安がるし。でもね、さっきも言ったけど私は一途なんだよ? 不安になんてさせない。信じてね、彩」
「もちろんだよ、里乃。いま、一緒にいけたから、幸せ溢れてるし。信じてるから、こんなに気持ちよくなれるんだよ? 分かってるよね……里乃♡ あ、弟の、それはそれはおぞましいオナニーの話の続きだったね」
「無理矢理掘り起こしてこなくてもいいよ? 彩。トラウマとかならなおさら」
「大丈夫! そりゃさ、女装してアナニーして雌の顔になって蕩けてるのとか目撃しちゃうと、衝撃的。『ふーん? あんたそんな趣味あるんだね』とか、『好きねえ。でも家族も同居してるんだから、多少は気を遣ってくれなきゃ困っちゃうぞ』、くらいは言うよ? 完ビでも女装には惹かれるものがあるんだよね。いつの間に? ってくらいお化粧上手になってたし、つけまもカラコンも、それにウィッグまで用意して。弟、ほっそいからなんでも似合ってしまうし、SNSでも大手みたい……。」
「姉弟ともに目撃されたというのが逆によかったんじゃないかなあ。仲良くお墓まで持っていけばいいんだよ♡」
✧ ✧ ✧
――朝。
結局一戦も交えないまま、相互オナニーで疲れ果ててしまい、二人は朝までぐっすりと眠ってしまったのだった。
目が覚めた時にはチェックアウトの時間目前で、朝セックスする時間すら与えられなかった。里乃と彩は、まだおしっこの湿り気が残るデニムパンツを穿き直し、ホテルを後にした。
「あー楽しかった! 好きな人できたし。今日はルンルンな気持ちで過ごせそう~」
彩は自分をよく表現してくれる。
心を開くと決めた相手にだけ、見せてくれる顔なのだとしたら、里乃にとっては本当に嬉しい限りだった。
「あ、ここから歩いてすぐの所に、朝もやってるラーメン屋さんがあってね、結構美味しいの。寄ってかない?」
この一帯は彩の庭なのだろうか、いろいろと詳しかった。
「ちょっと匂うかもだけど、ラーメン屋さんの方が強いよね、独特な匂いが」
「シミはあるけど、ホテルは乾燥しているし、不快感はほぼないから大丈夫っしょ。入りましょ! 朝は空いてるから、席を選べば大丈夫!」
「行くかあ!」
二人は腕を組みながら、ラーメン店まで歩いた。
暖簾をくぐると、マスターと思しき人が、一人であくせくと動き回っていた。
「へい、いらっしゃい!」
「いつもので、二ついただけますか?」
「あいよ!」
ロングヘアの彩は、鞄からピンク色のフリフリシュシュを取り出して、髪を後ろでまとめ、〝ラーメンヘア〟に変身した。
片肘をついて、里乃はしばし見蕩れていた。
「彩って本当、造形の美だよね。何やっても絵になるんだもん。こんな人を連れ回してる私、すごくね? みたいになる~」
「里乃……鈍感だもんなぁ、ガン見してても気づいてくれないもん……しゅん。てね、あはっ♡」
「そういえばなんだけどさ」里乃は服屋でのぞき見した時の事を思い出して、切り出した。「私、彩の事気になっていたからさ、どんなインナー着けてるか気になっちゃって、覗いちゃったの。ごめんね?」
「え、そうなの? 全然気がつかなかったよ」
「ちょっとの間だけ、見たんだけどね。太ももにシュシュ付けてて。脱いだら可愛いんだけど、スーツだったし、なんでだったのかなって不思議で」
「あ、それ見たんだ。ポニテにする時とかに使うじゃない? それで身に着けてるのはみんなと同じだよ。私の場合は、腕に付けているとなんだかワシャワシャして、気になっちゃうの。だから太ももにつけてて、髪をまとめるときはトイレの個室とかでやってるの」
「そういうことかあ! 納得。片膝ついて太ももに隠し持ったシュシュを取り出す、みたいなスパイ的行動には出ないのね」
「なんなの、その発想! ははっ、笑う~。 シュシュに固定しておいた隠し拳銃をスッと抜き出して……! みたいにするには、シュシュはふにふに過ぎるし~」
「想像力が乏しくてごめん♡」
「いえいえ♡」
「……あのね彩、就職が決まってさ。私、職場に住み込みになるんだよね……」
それを聞いた彩の表情が曇るのも仕方がないだろう。
「そっか、そうだよねそういえば。連絡先交換しよ? アプリでやり取りできるといいな」
「OKOK! 家に用事があるだとかでもお休みは貰えるし、定期的にお屋敷から出る事はできるから、その時は絶対に会おうね」
「やった。それなら平気。毎日切ないオナニーに明け暮れて待ってる♡」
「切ないのはお互い様だよう。私も隠れて、彩で毎日する♡」
「「指切りげんまん……」」
「さてと。ごろごろとは言ってたけど、今日は勤務に備えていろいろ準備で時間取られそうだし……」
「私も、滑り止めで、今日も面接入れてるの。だから行かなきゃ」
「鬼メッセージするからね」
「望むところだよん♡」
「じゃ」
「またね」
里乃と彩はぐっと抱きしめ合って、名残惜しさを顔に出さないよう、あくまでも明るい表情で、キスをかわした。
二人は踵を返し、それぞれの目的を果たすべく歩き、今日という日を始めた。
里乃も彩も、途中で足を止め、振り返るという事はなかった。それは、お互いが相手を深く信頼している事を、証明するものかもしれなかった。
「入っちゃったね」
「うん」
里乃の問いに、はにかんだ笑顔で答える彩。
「汚れてしまったし、シャワー浴びる?」
「ん、いい。今はこのままでいるのが気分かも」
「実は私も同じ。あ、このソファ、フェイクレザーみたいな素材だし、座っても問題なさそうじゃない?」
そう言いつつ、備え付けのソファに腰を下ろし、身体を沈める里乃。そのまま、彩においでおいでの仕草をする。それに応じ、彩は里乃の隣にちょこんと座った。
「楽しかったけど、疲れもしたなあ……。いろいろ迷惑もかけちゃったし」
里乃は長い息を吐きながら、今日一日を振り返っているようだった。
「確かにね。面接でつまずいてからというもの、失敗続き過ぎて、逆に笑ってしまうね」
彩は、チェックインしてからの、リラックスして話をする時間が好きだった。入ってしまったからには、する事はするのだろうし、こういう時はいつも、駆け引きが終わって、次へと続く、導入時間のようなものだと思っていた。
「お約束だったけれど、エレベーター・キス、何度経験してもいいものだなあ」
「分かる。個室で二人きりというのは少し違うのが、どきどきしちゃう。降りる階まで舌絡め合って夢中になって、ドアが開いた時に鉢合わせになってさ。慌てて取り繕ってみたりして、後でその事で揶揄ったり揶揄われたり」
「彩はモテるだろうからなあ……そういう経験豊富そうだけど、飽きないものなんだね」
「ぜんっぜん! 経験豊富なんかじゃないから。んー……声かけられる事は多いのかな、多いのかもしれないけど、コミュニケーション能力あまりないし、無視するのが楽って思っちゃうからなあ」
「でも何故か、私達は〝ここにいる〟よね……」
「すごく不思議だけど、こうなっちゃった」
「あ。そういえば、彩のエピソードは披露してもらったけど、私の番のままだったね。聞く?」
「うん。里乃のも聞かせて? もしよかったら」
彩は身体を斜めにして、聞く体勢になった。
「ちょっと大規模なレジャー施設に行ってね。休日だからもう、それはそれは大混雑で……。プールで遊ぼうっていう話だったんだけど、そこも本当、芋を洗うよう、って言葉がぴったりってくらいに混んでて」
「暑い日とか、家族連れとかカップルが集中しちゃうよねぇ……。混んでるの分かってても水浴びしたい! って気持ちになる日、あるからね」
彩にも経験があるようだった。友達同士でも、予定が合う日は休日しかなく、仕方なく行く、みたいな事があったのかもしれない。
「恋人が煙草を吸う人だったんだけどね、プールから上がったら一服するのが最高だって言ってて」
「あー。なんかひと区切り、みたいな時に時間ができると、火を付けてぼけーっとするのが好きって人、多いかもね。吸う人自体はかなり減ってきてるけど」
「さっきの話でもそうだったけど、水の中って異様におしっこしたくなるじゃん。で、こっそりともらしちゃおうかなって思っていた所に、一旦上がるよって言われて」
「わ、滅茶苦茶に人いる中だったら、プールでもらしても誰かに気づかれちゃうかもだし、かといってプールから上がったら、すぐには出せない!」
「プールの中でおしっこしてくればまだ目立たなかったのに、その時はタイミング悪くて、」
里乃は溜めを作った。
吸い寄せられるように、彩は里乃の言葉を待ち受けている。瞳は大きくなっていて、きらきらと期待を膨らませているようだった。
「しちゃったの……? 里乃」
「うん。上がったばかりなら水が多少垂れてても誰も見てないでしょ、と思って、しれっとした顔して全部出しちゃった」
「プールの中じゃなくて、プールサイドで? 里乃、エッチだ……」
「人でごった返しているし、目の前には恋人がいるし、でも絶対にトイレには行きたくなくて」
「プールで出せなかった? ふふ、ほんとに~?」
彩は、端から信じていないようだった。里乃を下から、いたずらっぽい目つきで見上げる。
「マメに出すようにしてれば、いいんだろうけど……ほら、おしがま中って、変に気持ちいいじゃない? だから粘っちゃってたの。彩が疑ってるのは、こうでしょ。おしっこもらしちゃうとこ、見られたがってた、そう言いたいんでしょ」
「里乃、分かってるじゃん。ふふふ~、実際よかったんでしょう?」
「……よかった。すごく」
里乃も彩も、性癖を開けっぴろげにして話すのが楽しかった。彩は、まだこの道に入って間もないから、里乃のことを「この子、結構エグい」と思っていた。そして里乃のように〝エグく〟なりたいなと願った。
「ああいう施設、トイレが大行列になっていたりするけど、沢山人が使うし、汚れが酷いよね。だから、使いたくないって気持ち、分かるよ」
「実際、プールの水の成分のうち、かなりの部分をおしっこが占めてると思うよ。でね?」
「聞く!」
里乃の語尾に被せる勢いで、彩が身を乗り出してきた。
「がっついちゃって、彩ったらもう。そんなに大したオチは付かないよ~?」
「何言われても里乃なら納得だし、驚かない気がする。でも気になるっ」
驚かない、と里乃が言っているにも関わらず、彩の目は、爛々としていた。
「水着着けたままするのは慣れてるし、なるべく平常心でやってしまえばと思ってたけど、纏わり付くような視線感じてさ」
「はらはら! もしかしてバレちゃってたとか!」
「瞳の感じが潤んでる、ってほどでもなかったけど、なんとも言えない表情してて。見た! 見ちゃった……! みたいなね。こっちが視線合わせたらすぐに目を逸らされたけど、あれは多分『同好の士』だったね」
「目が合ったら心臓どっくんしちゃうのは分かるけど、性癖持ちなのかまで見分ける力は、私にはまだないなあ。里乃は格が違う~」
「彩はゆっくりおいで、こっちの世界にね。急いじゃうと背徳感の味わい方とか、間違えそうになるしね」
「うん……。でも成長したいよ」
「まあね~。この子我慢してるのかな、とか分かるようになるし、分かってしまうとめちゃくちゃ意識するじゃない? 自分を当てはめて考えたらどきどきしてきちゃって。バレたっぽかった時は、声かけたらよかったかな、とか考えちゃったな。恋人の目の前で、無理だったけどさ……」
「出会いの機会だったかもしれなかったんだ。惜しい~」
「あ! あとね、ウォータースライダーもやったんだけど、ものすごい行列で」
里乃の脳裏には、その時の様子が詳細に描かれていった。
「わーお、そんなの、私達にとっては自殺行為♡」
「スタッフが大声で『ただいま大変な混雑となっております! 今からお並びいただきますと、九〇分程お待ちいただくことになります!』って言ってて」
「ほんとに? そんなの、下腹が冷えてるのにどうなっちゃうの……」
彩も想像するのは簡単だったようで、尿意に耐えきるのは不可能に近いと感じていた。
「行列に並ぶ前に、プールサイドでおしっこ済ませたんだけどね」
「里乃、割と堂々というか、開けっぴろげに変態ちっくなことするのすき」
「私もすきよ、彩のこと。それと変態度が上がっていくのを見守るのがねっ」
そう言いながら、里乃は、彩の背中に腕を回した。彩はそれを受けて、里乃の肩に頭を預けた。
「はあ、落ち着く。もう付き合ってるんじゃないの? 私達」
「そう……なるのかな」
「里乃のキスはおしっこの匂いがした♡」
「えー? 口から⁇」
「ふふ、正しくは漂ってた、か」
彩が、ぺろりと舌を出して笑う。
「おしっこの、むせぶような甘い香りに包まれて、私達はくちづけを交わしたのだった。それはあまりに唐突で、簡素とも言えるものだったけれど、二人のお互いへの想いを確かめる手段としては、十分だったのである。まる」
「あはは、意味わかんないよ、里乃。……私と付き合って欲しい」
「私が言うはずだったのにな……喜んで」
「ありがとう♡」
「彩ー♡♡」
「里乃。抱いて?」
「私が先に好きになったはずなのになあ、おかしいなあ……」
「そんなのわかんないもん。しゅきっ」
「しゅきぃ……ちゅっ。で、さっきの話の続きなんだけどね?」
「もうっ、聞くからベッドいこ? 里乃」
座ったままの里乃に、彩は自分の膝上に手をついて、もう片手は里乃に手を差し伸べている。里乃は、この瞬間を横からのアングルで切り取ってくれる人が誰かいないか、真剣に考えてしまった。それくらいに尊い光景だろうと思った。
彩が里乃の手を引っ張って、グイン! と引き寄せた。そのままベッドへダイブ。
彩は両手で里乃の頬を挟み、一気に里乃の唇を奪った。里乃は、キスを受け入れるための唇の形を、作る暇すら与えられなかった。
「んんっ、ちゅ……ん、あむっ……ちゅぅぅ……れろっ、ちゅぱ……てろてろ…………ぷはぁっ……」
「はぁ……やば、彩ってバリタチじゃん……」
「どうなんだろう、誘いネコちゃんだったりもするかもよ?」
「そっかあ……彩は完ビなんだね」
「そだよ。ノンケだと思ってた?」
完ビとは、完全なレズビアン。真性ビアンとも言う。恋愛対象は女性のみ、男性はまったく相手にしない。もちろん、恋愛的な意味で、であって、コミュニケーションを持たないという事ではない。
「うん。だから彩の事、一目惚れするくらいには好きだったけど、お友達くらいでもいいから、繋がりたいなって」
「出会いってなかなかない世界だからね、自分からガンガンいかないと。同性愛者って割と肉食っぽいかもね~。繋がれてよかったね。というか、よかったよ、里乃」
「彩のおしっこの匂い嗅いでると、どきどきする……」
シャワーを浴びず、中華料理店で汚したままだったから、二人の鼻腔を二人のおしっこの匂いが刺激し続けていた。
「里乃に、こっちの趣味は、完全に感化されちゃったなぁ、いい匂い」
「あ、ウォータースライダーの話」
「うふふ……。どうぞ?」
彩はもう、いつでも里乃とセックスできると思って、肩の力を抜いたようだった。
「高い所から滑り降りる訳じゃない? ウォータースライダーって。だから、階段を登りながら待つ事になるんだけど」
「なんかエッチかも。前にいる人の下半身とか、どうしても見ちゃうよね」
「そうそれ。待ってるうちに、だんだんおしっこがしたくなってきちゃって」
「もぞもぞしてる所だけじゃなくって、うっかりおちびりなんてしちゃうと……その雫が後ろの人の目の前で垂れちゃう」
「絶対に私だけじゃないはずって、その時は言い訳してたな、じわじわおちびりしながら」
「そうだと思うよ? 一時間半でしょ? もらしながら待つ子もいるよ」
「大きな波がきちゃって、ぶわっと出ちゃった時は、終わった……って思った」
「里乃はその道の人だから、羞恥と興奮が混じっちゃって変になってたんだろうなって思うー」
「ばれてる」
「へへっ」
「それでね、やっと自分たちの番が回ってきた時には、もう本当に限界で」
「その場でプシャアって出しちゃったの? 恥ずかしいね」
「ううん、スライダーを滑り降りる時、恋人に後ろから抱きついてたんだけど、どさくさに紛れてもらしちゃった」
「うわ、気持ちよさそう……」
「すっごく……すっごくよかった。体位的には、おぶってもらいながらおもらしするようなものだし」
「恋人もおしっこで濡らしながら、気持ちよくなるなんて素敵だったね」
「お尻のあたりが温かかったみたいで、『もしかして里乃、おしっこした? なんとなく落ち着きなかったし、我慢してたでしょ』って!」
「「バレてた~!」」
「水に流すって言葉もあるじゃない。きゃーきゃー言いながら大放出! もう我慢できる訳がないもんっ」
「ふぅ~、笑った笑ったぁ~。満々だった筈の性欲、迷子になっちゃったじゃん……」
彩は、まだ腹筋をぴくぴく痙攣させて、くつくつと笑っているようだった。
「私がなんとかしようか? さすがにこの短時間で乾いちゃった、なんて事はないだろうし」
里乃は変なところで責任を感じていた。なんというか、こう、急接近して一気に高め合った時は、絶対にセックスしなければならない……何も無かったでは、虚しさばかりが残る。後々後悔するだろう、と。
「じゃあ私の、お墓まで持って行くつもりだった、恥ずかしいエピソードを、里乃にだけ教えるねっ」
「お墓までって。そんな機密情報を簡単に言っちゃうの? 彩」
彩のあまりに軽い調子に、里乃は、不自然なものを感じ、そこまでしなくても、と思った。
「私だけが深刻に捉えてるだけで、里乃が聞いても期待外れって事になるかもだし、まあ軽く聞いておいてよ」
「多分エッチなネタだと思うから、触りながら聞いてよっかな……」
好きな人の隣でオナニーするというシチュエーション、里乃は割と好きだった。同棲していて、朝の性欲処理、どうしよっか、という話になったときに、それぞれが自分の性器と対話する時間が、そこはかとなく変態チックで楽しかった。隣に性的対象がいるのに、自分を慰めるという、セックスできなくてもオナニーで性欲を鎮める強引さがたまらない。
里乃も彩も、濡れたデニムパンツを脱ぎ捨て、下着姿になって、ベッドに横になった。中にこもっていたおしっこの匂いがむわぁっ……と広がる。
「オナニーするなら、一緒にしたいかも。ねえ里乃、後ろから抱きついててもいい? 抱きつきながら、もう片手でするから」
彩はそういいながら、早くも体勢を整えつつあった。
「後ろから乳揉まれたり、あそこ弄られるの好きだから、ちょっとどきどきするかも」
「里乃のクリ、かわいいね。ちょっと大きめだから感じそう。そう、優しく撫でて……」
「……ん、彩の……おしっこの匂いが後ろから流れて……あ、興奮しちゃう……きもちい……」
「じゃあ、聞いてね、里乃。私、言い寄られても、あまり相手にしないタイプだっていったでしょ。でも性欲はないという事はなくて、むしろ強い方なの」
「あん、耳、弱いから……は、普通に話してるだけなのに、ぞくって、んん……なる……」
「ふふ、里乃は感度高そうだなあ……攻め甲斐がありそ、んっ……」
「あ、彩も始めたのね……はぁ、しあわせ。一緒にぃ……きもちくなろうね」
「うんんっ……里乃。わかったぁ」
「あ、あはっ、続き、きかせてえ」
「あのね、お気に入りのオナサポ音声作品があって、お世話になりまくっていた時期があったんだけど」
異性愛者なら好みの異性の声優に、同性愛者なら同性に、耳元で淫らな事を囁かれて、心身共に支配されていって、最後には絶頂までサポートしてくれる。それが、一般的なオナサポ音声だと思う。
「い、いいっ、意外だな。彩が、ああっ、そんなの聴く、なん、てぇ……」
「陰キャですから……一人だときもちい事、はぁはっ、ぜんぶぅ……知ってる訳だし……刺さる声とかぁ、シチュに巡り会うと……あ、ああっ、里乃ぉ……同じ音声ばっかりぃ……聴いちゃうのぉ…………」
「新鮮さはぁ……ないかも、んっ、だけどぉ……どこから高めて、くれるのか、とか、あ……聞き込めば分かるから……使い勝手が、んふっ、よくなって,……あああっ、いくんだよ、ね……」
里乃もお気に入りのオナサポボイスは、いくつか持っているから、彩の言いたい事はよく分かる。最初に通して聴いて、導入から話の流れを把握して、メインディッシュの持って行かれ方を頭に入れておく。予習しておいたほうが、初見でわくわくするよりも、気持ちよさでは上かもしれない。初見は、当たりなのかどうかすら、分からないからだ。
「弟に借りていた……はぁ、はぁ、ワイヤレスヘッドホン、……が、高級モデルだったらしい……あっあっあはあっ……」
「彩かわいい……思い出しオナニー、はまってる……追いつかなきゃ、やん♡」
里乃を抱き寄せていた指が、いつの間にか、乳首に迫っていて、彩はカリカリ、カリカリと刺激を与え始めた。
「びっくんてなった。里乃、乳首めっちゃよわいじゃん」
「耳のすぐ傍で話しかけられながら、乳首なんて、ああん……だめっ、やめて……」
「すきよ、里乃。聞いてて。それで、そのヘッドフォンの、あん♡ 外から聞こえてくる音を遮断する、の、ノイズキャンセリング性能も、ぎっ、業界トップと言われていて……はぁ……んんっ、作品を聴く時の没入感がああ……凄くてえ……。」
「外音をシャットアウトして、んっ……それいいよお……彩ぁ……。そのうえ、推しの声にオナサポっ、されちゃうの……もうその声しか聞こえないし、完全に飲み込まれてしまうっ……あ、乳首それえ……♡」
「私は、ん、オナニーするときのお供に使うのはあ、電マが多いんだけどっ、はっ」彩は急に周囲をキョロキョロと見渡す。「あ♡ あったあ電マ♡♡ うちで使ってるのと同じモデル……」
ブウウウウウウウ……
彩が電マのスイッチを入れたみたいだった。結構大きな音……。地響きを連想させるような、静粛性を無視した音量だった。
「結構大きな音……これうちで使ったら壁ドン、んん……され、そ、おっ♡」
「そう、音が漏れちゃう……ああっ、から……使うのは時間を選ばなきゃいけなく、てえ……ああっこれきもちいっ。で、でもそのヘッドホンは、遮音性がほんとに高くて、その電マの音まで…………あああ……やばいやばい里乃ぉ……♡ ほとんど聞こえなくなる位だったのおおお♡」
「彩、いきそうなの? その時の事が頭に蘇って、おかしくなってるの?」
「作品のお……中にぃ、完全に埋もれきって、楽しんで果てる事ができたんだけど、あ、ああっは、はああ……い、いきっ。はぁ、はぁ……」
「まって彩、最後まで聞かせて、いくの、私もいくのおっ、待つからあ……」
「あとで弟に、ヘッドフォンを返す時にぃぃぃぃっ♡ 『おねえ、まあ年頃だし、そういうの俺もするからいんだけどさ、ノイズキャンセリングは外音を遮断するだけで、他の人にはまる聞こえになるんだからな? まったく、実の姉だというのに変な気起こしそうになったわ』そうっ、言われたのっ、あだめいくっ、里乃いく、いくぅ……あああいきゅ♡ はぁああっっ」
「彩、あやあ、ずるい一人でえ、突っ走っちゃってずるい。それ貸して。私もお、電マイキ、キメるからあ……」
ヴィィィィィィィィ……‼
「お、おおっ、おぉぉ……な、なにこれ、あああああもってかれるうううう、いっく、ああっ、いくうううううっ♡♡♡」
「はぁ、はぁ、はぁ…………えへ、かわいいね、里乃。弟がしてるのはそれはもう、しょっちゅう遭遇しちゃって、あーはいはい♡ って笑ってたけど、姉がやってるのを目撃されちゃうのはねえ……流石に……」
「ふう~…………。弟さんは、どんなオナニーしてたの? あ、いや生物学的な興味というか、その……」
「あはは、取り繕わなくてもいいよ、里乃。あなたバイでしょう? 気を遣わせてしまっていたけど、お話の内容から、大体想像はついてた。付き合ってた人の事を『恋人』とはあまり呼ばないし……」
「バイセクシャルって、節操ないイメージない? ぶっちゃけ。だから完ビさんは付き合っていても、『好きな男がいつ現れても不思議じゃない』って不安がるし。でもね、さっきも言ったけど私は一途なんだよ? 不安になんてさせない。信じてね、彩」
「もちろんだよ、里乃。いま、一緒にいけたから、幸せ溢れてるし。信じてるから、こんなに気持ちよくなれるんだよ? 分かってるよね……里乃♡ あ、弟の、それはそれはおぞましいオナニーの話の続きだったね」
「無理矢理掘り起こしてこなくてもいいよ? 彩。トラウマとかならなおさら」
「大丈夫! そりゃさ、女装してアナニーして雌の顔になって蕩けてるのとか目撃しちゃうと、衝撃的。『ふーん? あんたそんな趣味あるんだね』とか、『好きねえ。でも家族も同居してるんだから、多少は気を遣ってくれなきゃ困っちゃうぞ』、くらいは言うよ? 完ビでも女装には惹かれるものがあるんだよね。いつの間に? ってくらいお化粧上手になってたし、つけまもカラコンも、それにウィッグまで用意して。弟、ほっそいからなんでも似合ってしまうし、SNSでも大手みたい……。」
「姉弟ともに目撃されたというのが逆によかったんじゃないかなあ。仲良くお墓まで持っていけばいいんだよ♡」
✧ ✧ ✧
――朝。
結局一戦も交えないまま、相互オナニーで疲れ果ててしまい、二人は朝までぐっすりと眠ってしまったのだった。
目が覚めた時にはチェックアウトの時間目前で、朝セックスする時間すら与えられなかった。里乃と彩は、まだおしっこの湿り気が残るデニムパンツを穿き直し、ホテルを後にした。
「あー楽しかった! 好きな人できたし。今日はルンルンな気持ちで過ごせそう~」
彩は自分をよく表現してくれる。
心を開くと決めた相手にだけ、見せてくれる顔なのだとしたら、里乃にとっては本当に嬉しい限りだった。
「あ、ここから歩いてすぐの所に、朝もやってるラーメン屋さんがあってね、結構美味しいの。寄ってかない?」
この一帯は彩の庭なのだろうか、いろいろと詳しかった。
「ちょっと匂うかもだけど、ラーメン屋さんの方が強いよね、独特な匂いが」
「シミはあるけど、ホテルは乾燥しているし、不快感はほぼないから大丈夫っしょ。入りましょ! 朝は空いてるから、席を選べば大丈夫!」
「行くかあ!」
二人は腕を組みながら、ラーメン店まで歩いた。
暖簾をくぐると、マスターと思しき人が、一人であくせくと動き回っていた。
「へい、いらっしゃい!」
「いつもので、二ついただけますか?」
「あいよ!」
ロングヘアの彩は、鞄からピンク色のフリフリシュシュを取り出して、髪を後ろでまとめ、〝ラーメンヘア〟に変身した。
片肘をついて、里乃はしばし見蕩れていた。
「彩って本当、造形の美だよね。何やっても絵になるんだもん。こんな人を連れ回してる私、すごくね? みたいになる~」
「里乃……鈍感だもんなぁ、ガン見してても気づいてくれないもん……しゅん。てね、あはっ♡」
「そういえばなんだけどさ」里乃は服屋でのぞき見した時の事を思い出して、切り出した。「私、彩の事気になっていたからさ、どんなインナー着けてるか気になっちゃって、覗いちゃったの。ごめんね?」
「え、そうなの? 全然気がつかなかったよ」
「ちょっとの間だけ、見たんだけどね。太ももにシュシュ付けてて。脱いだら可愛いんだけど、スーツだったし、なんでだったのかなって不思議で」
「あ、それ見たんだ。ポニテにする時とかに使うじゃない? それで身に着けてるのはみんなと同じだよ。私の場合は、腕に付けているとなんだかワシャワシャして、気になっちゃうの。だから太ももにつけてて、髪をまとめるときはトイレの個室とかでやってるの」
「そういうことかあ! 納得。片膝ついて太ももに隠し持ったシュシュを取り出す、みたいなスパイ的行動には出ないのね」
「なんなの、その発想! ははっ、笑う~。 シュシュに固定しておいた隠し拳銃をスッと抜き出して……! みたいにするには、シュシュはふにふに過ぎるし~」
「想像力が乏しくてごめん♡」
「いえいえ♡」
「……あのね彩、就職が決まってさ。私、職場に住み込みになるんだよね……」
それを聞いた彩の表情が曇るのも仕方がないだろう。
「そっか、そうだよねそういえば。連絡先交換しよ? アプリでやり取りできるといいな」
「OKOK! 家に用事があるだとかでもお休みは貰えるし、定期的にお屋敷から出る事はできるから、その時は絶対に会おうね」
「やった。それなら平気。毎日切ないオナニーに明け暮れて待ってる♡」
「切ないのはお互い様だよう。私も隠れて、彩で毎日する♡」
「「指切りげんまん……」」
「さてと。ごろごろとは言ってたけど、今日は勤務に備えていろいろ準備で時間取られそうだし……」
「私も、滑り止めで、今日も面接入れてるの。だから行かなきゃ」
「鬼メッセージするからね」
「望むところだよん♡」
「じゃ」
「またね」
里乃と彩はぐっと抱きしめ合って、名残惜しさを顔に出さないよう、あくまでも明るい表情で、キスをかわした。
二人は踵を返し、それぞれの目的を果たすべく歩き、今日という日を始めた。
里乃も彩も、途中で足を止め、振り返るという事はなかった。それは、お互いが相手を深く信頼している事を、証明するものかもしれなかった。
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