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第七章 大激戦、彼は誰時の丘の上
7-2 銀閃
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「……どうもあれは何らかされてるみてぇだな、様子がおかしい。制約、呪詛、暗示、そんなとこか」
尋常ならざる愛弟子を見て、怒気を抑え込んだ勇者の言葉に背後で黒衣が頷く。
「先だっても神官長の言葉で急におかしくなった」
「じゃあそれを解除してやらねぇとな。まぁそれも後回しだ」
小声でやり取りする二人の前で、一瞬にして姫勇者の姿が消え、少し遅れて神官長のローブが風にはためく。
突如、眼前に現れたシルヴァの振り下ろす宝剣を、避けようとしたリューリが脇腹の激痛に呻いた。
アレクの足が翻る。
地面を這うような足払いが姫勇者の足に触れ、体勢を崩す。
振り下ろされた剣はリューリを掠め、衝撃波は地面を抉り、疾走る。
舞い上がる石畳の欠片の中、シルヴァはそのまま前転して離れると、跳ねるように宙に舞い、身を捻って着地し、正対した。
「無理そうか?」
跳ねる姿を目で追いながらの問いに、口惜しげにリューリは答える。
「すまん。正直、今の私ではついていけない。完全に足手まといだな」
「気にするな。シルヴァ相手に本身は向けたくなかったが、言ってられなくなったな。まぁ仕方ねぇ」
言うとアレクは腰後ろに差した短剣を引き抜いた。
柄が長く両手持ちできるほどの奇妙な短剣。
中央に青い宝珠が埋め込まれた鍔も大きい。鍔から斜めに突き出た二本の鉤針が、途中で曲がり刃と並行になっている。
アレクはそれを両手で構えた。
勇者の闘気が膨れ上がる。
その正面で見つめていた少女の体が揺らぐ。
鋭い踏み込みから渾身の一撃。
シルヴァが手にした白銀の宝剣が火花を散らした。
白銀の刃は半透明の青い刀身に阻まれた。
アレクが体の正面にかざした大剣。
鈎針の間に発生した透明の刃が、そう呼ぶにふさわしい長さと幅を備え、本来の剣身を包み込んでいた。
鍔のマナキヴェット宝珠が青い光を放ち、刃をも青く輝かせている。
勇者は力を込め、銀の刃を少女の体ごと跳ね返す。
シルヴァは再び宙に舞った。
「《火球》」
王女の高い声が響き、空中から放たれた炎球が、アレクを目指す。
「《多重層防御壁》」
落ち着いた勇者の声が発生させた防御魔法が自身の周囲に展開され、背後のリューリも包み込む。防御障壁に触れた《火球》が炸裂し、烈火が半球状に膨張した。
視界を埋め尽くす業火。
勇者が右手を柄から離し横に振るうと、爆炎は吹き飛ばされ、目線が通る。
そこに再び銀の宝剣が閃く。
跳躍からの前方回転を利用し、体の勢いそのままに叩きつけられた一撃。
アレクはリューリの前に仁王立ちとなり、風を切り裂く白刃を受け止めた。
渦巻く颶風。
剣風が巻き起こす衝撃波が、アレクの体に叩きつけられ、背後の地面を削り取る。
「《旋風車》か、教えるんじゃなかったぜ、ったぁく。……やっぱこりゃ面倒だな」
着地したシルヴァの怒涛の連撃が開始されていた。
「お次は《閃華》かよ」
白銀のきらめきが、斬り、突き、薙ぎ、縦横無尽に振るわれる。
アレクはその場に立ちふさがり、刃と衝撃波を受け止め続ける。
髪が揺れ、肌が波打ち、火花が宙を舞う。
青い刃は振るわれること無く、一方的に撃ち込まれる銀の刃を弾き続けていた。
反撃が来ないのに気づいたか、嵩にかかって攻め続ける姫勇者。
剣先と髪先が軌道を描き、身にした鎧は薄明の中で輝く。
シルヴァは一塊の銀光と化し、留まるところを知らず乱舞する。
足枷となっているのに気づいたリューリは、歯を食いしばり、痛みを堪え、力を振り絞って跳ぶ。
庇う背後から飛び出し、なるべく遠くに逃れようと。
虚ろのままに敵の隙を探す青い瞳と視線が交錯し、恐怖を感じた瞬間に銀光が走る。
眼前に迫る一撃をアレクが右腕一本で伸ばした青い刃が間一髪受け止めた。
勇者をもってしても止めきれなかった衝撃波の余波が叩きつけられ、リューリを守る《盾》の防殻が軋みをあげ浮かび上がり、抗議するかのように淡い輝きを見せる。
そして無理な姿勢で動きを止めた勇者の隙だらけの右脇腹に、魔鉱銀製のつま先がめり込んだ。
「ぐっ!」
短くうめき、息を吐き出す。
それをごまかすかのように言葉を続けるアレク。
「すげぇな、甘くねぇ。弱ってる方から仕留めに来るとは。非情、的確、容赦なし」
苦笑いのような表情で刃を弾き、シルヴァの体を押し返し、身を入れて再びリューリを背に庇う。
「お前、下手に動かない方が良いみたいだわ。側にいろ」
そう振り向きもせず告げる肌には幾筋かの赤い線。
脇腹にはくっきりと土の跡。
再び舞い踊りだす白銀の剣。
刹那の逢瀬を繰り返す刃達。
空間を埋め尽くす熱い火花。
銀光乱舞の中踏みとどまる背中。
刃と衝撃波になぶられ続けた上着の方々は千切れ、ほつれていた。
上着の肩口が裂けているのを見つめていると、目頭が熱くなってくる。
思わず叫ぶ。
「いくらお前でもそれじゃ無理だっ!」
「舐めてんじゃ、ねぇっ! 楽勝だわっ!」
返す勇者の言葉に一瞬唸りが混ざる。
悲鳴のような絶叫をあげた。
「私に構うな、アレクッ! もうやりたいようにやってくれっ!」
「ずっとやってるだろがっ! 黙って見てろ、怪我人っ!」
頬を涙が伝う。
本当にこんな風に泣けるんだな。
以前、嬉しげに涙を拭っていたエミリアの姿を思い出す。
一瞬思い出に染まった頭を引き戻し、その場にゆっくりと片膝をおろした。
そして言われたとおり、黙って、背中を見つめ続けた。
攻め続けるシルヴァ。
守り続けるアレク。
膠着する様相に、介入してきたのはイェレミアスだった。
「《聖者の従卒》よ、青い剣を持つ男を倒せ」
召喚された漆黒の従卒達は、両手を剣状に変え、次々駆け出していく。
五体目を召喚すると、神官長は荒い息をつき、片膝をつく。
戦線に一体目が到着し、煌めく銀光に黒が加わり、アレクに襲いかかった。
その時、青い剣が初めて振るわれ、迫りくる白銀の刃を弾く。
軌道を変えられたシルヴァの剣が、《聖者の従卒》の脚を薙いだ。
「……!?」
感情の乏しかった青い目が、物言いたげに大きく開かれる。
「《飛燕落》の応用さ、おぼえとけよっ!」
一瞬の驚愕が生んだ隙に、アレクは集中を完了し、魔法を発動させる。
「《追尾する魔法の矢》!」
叫びとともに周囲に発生したエミリア直伝の二十五本の魔法の矢が、五本ずつに分かれて《聖者の従卒》を追尾する。
脚を薙がれて動きが止まっていた個体がまず貫かれ、倒れ伏す。
間近で巻き起こった小爆発を避け、姫勇者は飛び退り、距離を取る。
その間に二十本の魔法の矢が、身をかわそうと跳ね回る四体の《聖者の従卒》を、軌道を変えながら自動追尾していく。
あるものは地上で、あるものは空中で、それぞれの標的を捉える魔法の矢。そして次々起こる小爆発。
刺し貫かれ、吹き飛ばされ、倒れ伏した疑似生命体たちはもう微動だにしなかった。
ギリギリまで力を振り絞って召喚した《聖者の従卒》達が、一瞬で駆逐されるさまにイェレミアスは恐怖の表情を浮かべた。
想像を絶する圧倒的戦闘力。これが勇者アレクの実力か。
充分承知し、評価していると思っていた認識が、なおも甘すぎたことを今更ながらに知り、流れる冷たい汗はとどまることを知らない。
イェレミアスは身を包む敗北感に負け、不可視の何かに圧迫されたかのように後ろによろめき、二歩三歩とたたらを踏んだ。
神官長の絶望など一顧だにせず、アレクは続けて魔法を発動させた。
「《束縛の霧》!」
発生した白い靄のようなものがシルヴァを包み、一瞬まとわりついたあと、淡い光を放って効果を発動させることなく消滅した。
「やっぱり抵抗されるか」
舌打ちをして吐き捨てる。
やはり無傷で済まそうなんて甘すぎるのか。
思いつつも諦めきれず、新たな方法を探すアレクの心中も知らず、抵抗に成功したシルヴァは、対抗するかのように集中を開始した。
「《加速》」
それは個人用の加速魔法。
初級の、発動に要する時間と効果時間が大差ないような、わざわざ使う意味すら怪しい、その程度の魔法。
でもあの時、エミリアは……
あの魔法のあと……
自分がもっと……
アレクは一瞬、回顧し、悔悟した。
散漫になった意識の中、視線の先でシルヴァが加速する。
切っ先が空を穿ち、少女は銀の尾を引く彗星と化した。
煌めく銀剣。
落ちる青剣。
跳ぶ脚。
翻る腕。
飛び込む体。
揺れる背中。
リューリが見つめる先に銀色の剣が突き出た。
血飛沫まみれの衝撃波が《盾》に叩きつけられる。
防殻は軋みをあげ、薄光を伴い姿を浮かび上がらせる。
そして見開かれた黒い瞳の前で、光の破片となり、赤い雫と共に砕け散った。
「アレク……?」
不安げに見つめる黒い双眸の前で、よろめくように勇者の左足が一歩下がる。
「シルヴァ、ごめんな」
胸の中の弟子に向けた、苦しげな師匠の謝罪。
言葉とともに右の脇下に挟まれた白銀の刃が落ち、石畳の上で乾いた音を立てる。
「宝剣のことも、あとで陛下に謝っておいてくれ」
告げると、先程叩きつけた左掌を握り、はね上げた。
少女の顎先を僅かにかすめて裏拳が吹き抜け、頭部がかすかに揺れ動く。一瞬遅れてシルヴァの小柄な体が力を失い、アレクにしなだれかかるように崩れる。
鍔元で折られた剣が手から落ち、再び乾いた音を響かせた。
尋常ならざる愛弟子を見て、怒気を抑え込んだ勇者の言葉に背後で黒衣が頷く。
「先だっても神官長の言葉で急におかしくなった」
「じゃあそれを解除してやらねぇとな。まぁそれも後回しだ」
小声でやり取りする二人の前で、一瞬にして姫勇者の姿が消え、少し遅れて神官長のローブが風にはためく。
突如、眼前に現れたシルヴァの振り下ろす宝剣を、避けようとしたリューリが脇腹の激痛に呻いた。
アレクの足が翻る。
地面を這うような足払いが姫勇者の足に触れ、体勢を崩す。
振り下ろされた剣はリューリを掠め、衝撃波は地面を抉り、疾走る。
舞い上がる石畳の欠片の中、シルヴァはそのまま前転して離れると、跳ねるように宙に舞い、身を捻って着地し、正対した。
「無理そうか?」
跳ねる姿を目で追いながらの問いに、口惜しげにリューリは答える。
「すまん。正直、今の私ではついていけない。完全に足手まといだな」
「気にするな。シルヴァ相手に本身は向けたくなかったが、言ってられなくなったな。まぁ仕方ねぇ」
言うとアレクは腰後ろに差した短剣を引き抜いた。
柄が長く両手持ちできるほどの奇妙な短剣。
中央に青い宝珠が埋め込まれた鍔も大きい。鍔から斜めに突き出た二本の鉤針が、途中で曲がり刃と並行になっている。
アレクはそれを両手で構えた。
勇者の闘気が膨れ上がる。
その正面で見つめていた少女の体が揺らぐ。
鋭い踏み込みから渾身の一撃。
シルヴァが手にした白銀の宝剣が火花を散らした。
白銀の刃は半透明の青い刀身に阻まれた。
アレクが体の正面にかざした大剣。
鈎針の間に発生した透明の刃が、そう呼ぶにふさわしい長さと幅を備え、本来の剣身を包み込んでいた。
鍔のマナキヴェット宝珠が青い光を放ち、刃をも青く輝かせている。
勇者は力を込め、銀の刃を少女の体ごと跳ね返す。
シルヴァは再び宙に舞った。
「《火球》」
王女の高い声が響き、空中から放たれた炎球が、アレクを目指す。
「《多重層防御壁》」
落ち着いた勇者の声が発生させた防御魔法が自身の周囲に展開され、背後のリューリも包み込む。防御障壁に触れた《火球》が炸裂し、烈火が半球状に膨張した。
視界を埋め尽くす業火。
勇者が右手を柄から離し横に振るうと、爆炎は吹き飛ばされ、目線が通る。
そこに再び銀の宝剣が閃く。
跳躍からの前方回転を利用し、体の勢いそのままに叩きつけられた一撃。
アレクはリューリの前に仁王立ちとなり、風を切り裂く白刃を受け止めた。
渦巻く颶風。
剣風が巻き起こす衝撃波が、アレクの体に叩きつけられ、背後の地面を削り取る。
「《旋風車》か、教えるんじゃなかったぜ、ったぁく。……やっぱこりゃ面倒だな」
着地したシルヴァの怒涛の連撃が開始されていた。
「お次は《閃華》かよ」
白銀のきらめきが、斬り、突き、薙ぎ、縦横無尽に振るわれる。
アレクはその場に立ちふさがり、刃と衝撃波を受け止め続ける。
髪が揺れ、肌が波打ち、火花が宙を舞う。
青い刃は振るわれること無く、一方的に撃ち込まれる銀の刃を弾き続けていた。
反撃が来ないのに気づいたか、嵩にかかって攻め続ける姫勇者。
剣先と髪先が軌道を描き、身にした鎧は薄明の中で輝く。
シルヴァは一塊の銀光と化し、留まるところを知らず乱舞する。
足枷となっているのに気づいたリューリは、歯を食いしばり、痛みを堪え、力を振り絞って跳ぶ。
庇う背後から飛び出し、なるべく遠くに逃れようと。
虚ろのままに敵の隙を探す青い瞳と視線が交錯し、恐怖を感じた瞬間に銀光が走る。
眼前に迫る一撃をアレクが右腕一本で伸ばした青い刃が間一髪受け止めた。
勇者をもってしても止めきれなかった衝撃波の余波が叩きつけられ、リューリを守る《盾》の防殻が軋みをあげ浮かび上がり、抗議するかのように淡い輝きを見せる。
そして無理な姿勢で動きを止めた勇者の隙だらけの右脇腹に、魔鉱銀製のつま先がめり込んだ。
「ぐっ!」
短くうめき、息を吐き出す。
それをごまかすかのように言葉を続けるアレク。
「すげぇな、甘くねぇ。弱ってる方から仕留めに来るとは。非情、的確、容赦なし」
苦笑いのような表情で刃を弾き、シルヴァの体を押し返し、身を入れて再びリューリを背に庇う。
「お前、下手に動かない方が良いみたいだわ。側にいろ」
そう振り向きもせず告げる肌には幾筋かの赤い線。
脇腹にはくっきりと土の跡。
再び舞い踊りだす白銀の剣。
刹那の逢瀬を繰り返す刃達。
空間を埋め尽くす熱い火花。
銀光乱舞の中踏みとどまる背中。
刃と衝撃波になぶられ続けた上着の方々は千切れ、ほつれていた。
上着の肩口が裂けているのを見つめていると、目頭が熱くなってくる。
思わず叫ぶ。
「いくらお前でもそれじゃ無理だっ!」
「舐めてんじゃ、ねぇっ! 楽勝だわっ!」
返す勇者の言葉に一瞬唸りが混ざる。
悲鳴のような絶叫をあげた。
「私に構うな、アレクッ! もうやりたいようにやってくれっ!」
「ずっとやってるだろがっ! 黙って見てろ、怪我人っ!」
頬を涙が伝う。
本当にこんな風に泣けるんだな。
以前、嬉しげに涙を拭っていたエミリアの姿を思い出す。
一瞬思い出に染まった頭を引き戻し、その場にゆっくりと片膝をおろした。
そして言われたとおり、黙って、背中を見つめ続けた。
攻め続けるシルヴァ。
守り続けるアレク。
膠着する様相に、介入してきたのはイェレミアスだった。
「《聖者の従卒》よ、青い剣を持つ男を倒せ」
召喚された漆黒の従卒達は、両手を剣状に変え、次々駆け出していく。
五体目を召喚すると、神官長は荒い息をつき、片膝をつく。
戦線に一体目が到着し、煌めく銀光に黒が加わり、アレクに襲いかかった。
その時、青い剣が初めて振るわれ、迫りくる白銀の刃を弾く。
軌道を変えられたシルヴァの剣が、《聖者の従卒》の脚を薙いだ。
「……!?」
感情の乏しかった青い目が、物言いたげに大きく開かれる。
「《飛燕落》の応用さ、おぼえとけよっ!」
一瞬の驚愕が生んだ隙に、アレクは集中を完了し、魔法を発動させる。
「《追尾する魔法の矢》!」
叫びとともに周囲に発生したエミリア直伝の二十五本の魔法の矢が、五本ずつに分かれて《聖者の従卒》を追尾する。
脚を薙がれて動きが止まっていた個体がまず貫かれ、倒れ伏す。
間近で巻き起こった小爆発を避け、姫勇者は飛び退り、距離を取る。
その間に二十本の魔法の矢が、身をかわそうと跳ね回る四体の《聖者の従卒》を、軌道を変えながら自動追尾していく。
あるものは地上で、あるものは空中で、それぞれの標的を捉える魔法の矢。そして次々起こる小爆発。
刺し貫かれ、吹き飛ばされ、倒れ伏した疑似生命体たちはもう微動だにしなかった。
ギリギリまで力を振り絞って召喚した《聖者の従卒》達が、一瞬で駆逐されるさまにイェレミアスは恐怖の表情を浮かべた。
想像を絶する圧倒的戦闘力。これが勇者アレクの実力か。
充分承知し、評価していると思っていた認識が、なおも甘すぎたことを今更ながらに知り、流れる冷たい汗はとどまることを知らない。
イェレミアスは身を包む敗北感に負け、不可視の何かに圧迫されたかのように後ろによろめき、二歩三歩とたたらを踏んだ。
神官長の絶望など一顧だにせず、アレクは続けて魔法を発動させた。
「《束縛の霧》!」
発生した白い靄のようなものがシルヴァを包み、一瞬まとわりついたあと、淡い光を放って効果を発動させることなく消滅した。
「やっぱり抵抗されるか」
舌打ちをして吐き捨てる。
やはり無傷で済まそうなんて甘すぎるのか。
思いつつも諦めきれず、新たな方法を探すアレクの心中も知らず、抵抗に成功したシルヴァは、対抗するかのように集中を開始した。
「《加速》」
それは個人用の加速魔法。
初級の、発動に要する時間と効果時間が大差ないような、わざわざ使う意味すら怪しい、その程度の魔法。
でもあの時、エミリアは……
あの魔法のあと……
自分がもっと……
アレクは一瞬、回顧し、悔悟した。
散漫になった意識の中、視線の先でシルヴァが加速する。
切っ先が空を穿ち、少女は銀の尾を引く彗星と化した。
煌めく銀剣。
落ちる青剣。
跳ぶ脚。
翻る腕。
飛び込む体。
揺れる背中。
リューリが見つめる先に銀色の剣が突き出た。
血飛沫まみれの衝撃波が《盾》に叩きつけられる。
防殻は軋みをあげ、薄光を伴い姿を浮かび上がらせる。
そして見開かれた黒い瞳の前で、光の破片となり、赤い雫と共に砕け散った。
「アレク……?」
不安げに見つめる黒い双眸の前で、よろめくように勇者の左足が一歩下がる。
「シルヴァ、ごめんな」
胸の中の弟子に向けた、苦しげな師匠の謝罪。
言葉とともに右の脇下に挟まれた白銀の刃が落ち、石畳の上で乾いた音を立てる。
「宝剣のことも、あとで陛下に謝っておいてくれ」
告げると、先程叩きつけた左掌を握り、はね上げた。
少女の顎先を僅かにかすめて裏拳が吹き抜け、頭部がかすかに揺れ動く。一瞬遅れてシルヴァの小柄な体が力を失い、アレクにしなだれかかるように崩れる。
鍔元で折られた剣が手から落ち、再び乾いた音を響かせた。
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