7 / 30
07 選り好み
しおりを挟む
佳寿美と夜に会うのは半年に一度くらいの頻度だ。彼女はすでに結婚していて、お子さんもいる。だから、こちらから夜の食事に誘うのはなんとなく遠慮してしまう。誘うのはもっぱら平日の代休や有給休暇をとったときのランチが多い。
珍しく今回は佳寿美のほうからのディナーのお誘いだった。彼女はほとんどお酒が飲めないので、食事メインのカジュアルなイタリアンレストランにした。パスタとピザのディナーコースをそれぞれ注文し、その他に、彼女はジンジャーエール、私は手頃な白のグラスワインを追加した。
今日の佳寿美は、シンプルなデザインの水色のワンピースにオフホワイトのカーディガンを合わせていた。白金のイヤリングとネックレスもお揃いで、髪は肩のあたりで綺麗に内巻きに整えているオシャレな奥さまだ。左薬指の結婚指輪は、ミニダイヤが所々埋め込まれている人気ブランドのものだと聞いている。
片や私は通勤用の七分袖のブラウスとパンツスタイル。色気も何も無い無難なそれに慣れてしまって、最近ではワンピースなるものに袖を通していないし、着ること自体忘れてしまっている。クローゼットにそれがあるかどうかも覚えていない。以前アクセのひとつもしないと老けるわよと、佳寿美に指摘されたので、今日は彼女に以前プレゼントされたシルバーのネックレスを着けて来た。
佳寿美は結婚して十年になる。毎日パートもしながら主婦として忙しく暮らしている中で、燻っていることがあるらしい。
次々出てくる愚痴を聞くと、結婚もしたらしたで、大変そうに思える。彼女は三十歳の時、二歳年上の男性と職場結婚した。ふたりだけの生活で幸せで楽しいと思えるのは二年くらいで、特に子どもができると相手の違った面も見えて来るという。それは良い所ばかりではない。
子ども中心の生活になるのは当たり前、そして家庭を持てば、家事や仕事の他にお付き合いがとにかく増えるらしい。お互いの両親、兄弟、その子どもたち、親戚、町内会、子ども関係のママ友、幼稚園や学校に入れば先生、役員、子ども会、その役員。仕事が忙しい旦那さまだと、それをすべて妻が背負うことになる。佳寿美は、まさにそんな頑張っているスーパー主婦だ。それができてしまうから、それらが簡単なことで、簡単に出来ているように旦那さまから思われていて、それが当たり前だと思われているのが癪に障るらしい。
彼女の旦那さまはとにかく仕事が忙し過ぎて、毎日遅く疲れて帰って来るので、家事の協力が全くと言っていいほど無いらしい。休みの日は、疲れを取る日とのことで、寝てるか子どもと少し遊ぶか。家のことやお付き合いはすべて自分がするしかない。
こんな話を独身の私にしたら、結婚に夢も希望もなくなるよね、と私を気遣いながらも、蓄積された鬱憤を聞いてもらいたかったようだ。
「あーあ、ひとりでのんびりできる時間が欲しいよ。仕事が休みの日も貯まった家事をするからゆっくり休めないしね。自由な葉摘がちょっと羨ましい。葉摘は? 悩みは無い?」
「私は……、今の所無い、かな。会社で少し気に触ること言われるくらいだよ。慣れてるから、なんてことないかな」
佳寿美の大変さに比べたら、私の職場でのその場限りの嫌味など、取るに足らないことに思えてくる。
それぞれ注文したパスタとピザを分け合って、美味しく食べた。ひとり暮らしの私には、食事をする相手がいるだけで嬉しかったりする。グラスワインは、あっさりしていて口当たりも良く、つい二杯めも注文してしまっていた。
食後のドルチェとエスプレッソが運ばれてきて、八時を過ぎる頃になると、佳寿美がソワソワし始めた。家のことが心配になって来たらしい。頻繁にL○NEも来始める。旦那さまと小学生のお子さんだけのお留守番て、そんなに安心できないのだろうか。
そして、
「ごめんね、話中に何度もL○NEとか。葉摘は、誰か良い人はまだいないの?」
という、佳寿美のお決まりのセリフがそろそろお開きの合図。
またそれ。もう、聞き飽きている。
「それが、いないのよね。もう出会いも結婚も半分くらい諦めてるよ」
「なに言ってるの? まだまだでしょ。私の職場の四十三歳の先輩なんて、よく行くスーパーで四十五歳の男性から声をかけられて結婚したんだよ。しかも二人とも初婚だよ!」
「え……」
それは、すごいかも。でも、かなり勇気がいる。
佳寿美に矢坂さんのことは、話したことはない。きっと、もっと現実的な相手に目を向けた方が良いとか、そういった忠告を受けるだけだと思うから。
「葉摘、選り好みしてるんじゃないの?」
「!? ……してないよ」
していないことくらい、友達ならわかって欲しかった。
【選り好み】、その大したことないと思われる言葉は、独身者をかなり抉る。よく知らない人に言われるのと、親友に言われるのとでは、深さが違う。平然とした顔をしてるけど、胸の内はつらくて仕方がない。
とうとう佳寿美のスマホに着信があって、旦那さまとお子さんが店の近くまで車で迎えに来たそうだ。
「私がいないとダメな家族でホント困るわ。葉摘、アパートまで送って行くよ」
「いいよ。私は別のお店でもう少し酔いを覚ましてから帰るから、遠慮する」
「そう?」
店の外で、迎えに来た優しそうな旦那さまに軽く会釈して、車の後部座席の窓から顔を出した彼女の愛娘である小学生の凛ちゃんに手を振る。
「ママっ!」
「もう、凛たら、パパと待てなかったの?」
「だって、パパはテレビばっかり観てて遊んでくれないんだもん。つまんない」
「そうー。あ、葉摘、またね」
そこには、幸せそうな家族の姿があった。
それを、笑顔で見送る。
佳寿美は学生のころは考え方も感じ方も似ていて一緒にいて楽しくて、気を遣わない相手だった。
いつの頃からか少しずつその関係も変化をとげた。環境が変わると自然とそうなるのかもしれない。
私は、フラフラと引き寄せられるように〈サン・ルイ〉に向っていた。
確か営業時間は九時までだったはず。ラストオーダーに間に合えば良いけど。
もう行かないと決めていたのに……、心が体が足が勝手に向かうのだから仕方がない。
出窓から、ステンドグラスの暖かい七色の灯りが見えてホッとした。暗い中に浮かび上がるそれは、迷い子を迎え入れてくれる優しい目印。
矢坂さんの笑顔が見たい。
ただそれだけしか、考えていなかった。
〈サン・ルイ〉のドアを力無く開ける。
「こんばんは……」
「いらっしゃいませ! あっ、小宮山さん!!」
「?」
瑠伊さんがカウンターから、飛び出て来た。
矢坂さんの姿を探したが、彼はいない。
こんな、ささやかな望みすら叶えられないの?
出窓の席にいた黒縁眼鏡のコウさん。
こんな遅い時間にもいるんだ。彼も何故か釣られたように立ち上がった。
なに? どうしたの?
瑠伊さんに、手を取られた。
「もう、いらしていただけないんじゃないかと、心配していたんです。あの、大丈夫ですか? かなり酔ってるんじゃないですか?」
そして心配そうに顔を覗きこまれた。
ああ、ワインのせいだ。頭は何ともないのに、ワインを二杯以上飲むと目が悪酔いしてるみたいに充血する。
「全然、酔ってないんです。お酒を飲むとこんな酷い目つきになっちゃって、すみません、もう閉店ですか? それなら、また……」
「いえ、まだですよ。ブレンドで良いですか?」
「はい。それをいただいたらすぐに帰りますから」
私は努めて平静を装いながら話す。
矢坂さんはいないんだ。
「まだ全然閉める時間じゃないですし、ごゆっくりなさっていって下さいね」
瑠伊さんが、手を握ってどこまでも優しく微笑みかけてくれる。
お店の中には、瑠伊さんとコウさんの他には誰もいない。
私はすぐ帰るという意思表示のため、テーブル席ではなくカウンター席に軽く腰掛けた。
ガーガーというコーヒー豆を轢く音が店内に響く。そして、漂う私の好きな香り。
ようやく気持ちが落ち着いてきた。
「先日は、すみませんでした」
すぐそばで、コウさんの穏やかな声がして、その気配を感じた。
何に対して謝ってるの? 謝られるようなことはされていないと思うけど。
「弟が本当にすみません、お悩み相談の名刺をお渡しして。うちのお客さまへの営業は禁止してたんですけど、まさか小宮山さんに差し上げたなんて。それで嫌な思いをされて、お店にいらっしゃらなくなっちゃったんじゃないかと心配してたんです。あの、コウちゃんのことはお気になさらないで、お店にはいらして下さいね。失礼な弟で、本当に申し訳ありません」
瑠伊さんが必死に謝っている。姉というのはいくつになっても姉で、弟は弟で姉にその話をしたんだ。仲の良い姉弟なのかもしれない。
コウさんの名刺。捨てられずに私のカバンに後生大事にしまってある。
それに書いてあった文章が唐突に思い出された。
淋しいあなたに。
相談すれば、カウンセラーのコウさんに話せば、この心の中の空虚な感じが少しでも温かな何かで埋まるのだろうか。
淋しさが緩和される? 本当に?
それは矢坂さんの笑顔と同じくらい癒しの効果があるの?
私は顔を上げた。
そこには、少し眉を寄せ、困ったような表情で静かに佇むコウさんがいた。
「あの、悩み相談、申し込みます。話を聞いてくださるんですよね」
私のその言葉に、コウさんが眼鏡の奥で驚きを隠すことなく目を見開いたのがわかった。
そして、動きを止めポカンとする瑠伊さん。
その場の、目には見えない時の流れが一瞬止まったかのように感じた。
珍しく今回は佳寿美のほうからのディナーのお誘いだった。彼女はほとんどお酒が飲めないので、食事メインのカジュアルなイタリアンレストランにした。パスタとピザのディナーコースをそれぞれ注文し、その他に、彼女はジンジャーエール、私は手頃な白のグラスワインを追加した。
今日の佳寿美は、シンプルなデザインの水色のワンピースにオフホワイトのカーディガンを合わせていた。白金のイヤリングとネックレスもお揃いで、髪は肩のあたりで綺麗に内巻きに整えているオシャレな奥さまだ。左薬指の結婚指輪は、ミニダイヤが所々埋め込まれている人気ブランドのものだと聞いている。
片や私は通勤用の七分袖のブラウスとパンツスタイル。色気も何も無い無難なそれに慣れてしまって、最近ではワンピースなるものに袖を通していないし、着ること自体忘れてしまっている。クローゼットにそれがあるかどうかも覚えていない。以前アクセのひとつもしないと老けるわよと、佳寿美に指摘されたので、今日は彼女に以前プレゼントされたシルバーのネックレスを着けて来た。
佳寿美は結婚して十年になる。毎日パートもしながら主婦として忙しく暮らしている中で、燻っていることがあるらしい。
次々出てくる愚痴を聞くと、結婚もしたらしたで、大変そうに思える。彼女は三十歳の時、二歳年上の男性と職場結婚した。ふたりだけの生活で幸せで楽しいと思えるのは二年くらいで、特に子どもができると相手の違った面も見えて来るという。それは良い所ばかりではない。
子ども中心の生活になるのは当たり前、そして家庭を持てば、家事や仕事の他にお付き合いがとにかく増えるらしい。お互いの両親、兄弟、その子どもたち、親戚、町内会、子ども関係のママ友、幼稚園や学校に入れば先生、役員、子ども会、その役員。仕事が忙しい旦那さまだと、それをすべて妻が背負うことになる。佳寿美は、まさにそんな頑張っているスーパー主婦だ。それができてしまうから、それらが簡単なことで、簡単に出来ているように旦那さまから思われていて、それが当たり前だと思われているのが癪に障るらしい。
彼女の旦那さまはとにかく仕事が忙し過ぎて、毎日遅く疲れて帰って来るので、家事の協力が全くと言っていいほど無いらしい。休みの日は、疲れを取る日とのことで、寝てるか子どもと少し遊ぶか。家のことやお付き合いはすべて自分がするしかない。
こんな話を独身の私にしたら、結婚に夢も希望もなくなるよね、と私を気遣いながらも、蓄積された鬱憤を聞いてもらいたかったようだ。
「あーあ、ひとりでのんびりできる時間が欲しいよ。仕事が休みの日も貯まった家事をするからゆっくり休めないしね。自由な葉摘がちょっと羨ましい。葉摘は? 悩みは無い?」
「私は……、今の所無い、かな。会社で少し気に触ること言われるくらいだよ。慣れてるから、なんてことないかな」
佳寿美の大変さに比べたら、私の職場でのその場限りの嫌味など、取るに足らないことに思えてくる。
それぞれ注文したパスタとピザを分け合って、美味しく食べた。ひとり暮らしの私には、食事をする相手がいるだけで嬉しかったりする。グラスワインは、あっさりしていて口当たりも良く、つい二杯めも注文してしまっていた。
食後のドルチェとエスプレッソが運ばれてきて、八時を過ぎる頃になると、佳寿美がソワソワし始めた。家のことが心配になって来たらしい。頻繁にL○NEも来始める。旦那さまと小学生のお子さんだけのお留守番て、そんなに安心できないのだろうか。
そして、
「ごめんね、話中に何度もL○NEとか。葉摘は、誰か良い人はまだいないの?」
という、佳寿美のお決まりのセリフがそろそろお開きの合図。
またそれ。もう、聞き飽きている。
「それが、いないのよね。もう出会いも結婚も半分くらい諦めてるよ」
「なに言ってるの? まだまだでしょ。私の職場の四十三歳の先輩なんて、よく行くスーパーで四十五歳の男性から声をかけられて結婚したんだよ。しかも二人とも初婚だよ!」
「え……」
それは、すごいかも。でも、かなり勇気がいる。
佳寿美に矢坂さんのことは、話したことはない。きっと、もっと現実的な相手に目を向けた方が良いとか、そういった忠告を受けるだけだと思うから。
「葉摘、選り好みしてるんじゃないの?」
「!? ……してないよ」
していないことくらい、友達ならわかって欲しかった。
【選り好み】、その大したことないと思われる言葉は、独身者をかなり抉る。よく知らない人に言われるのと、親友に言われるのとでは、深さが違う。平然とした顔をしてるけど、胸の内はつらくて仕方がない。
とうとう佳寿美のスマホに着信があって、旦那さまとお子さんが店の近くまで車で迎えに来たそうだ。
「私がいないとダメな家族でホント困るわ。葉摘、アパートまで送って行くよ」
「いいよ。私は別のお店でもう少し酔いを覚ましてから帰るから、遠慮する」
「そう?」
店の外で、迎えに来た優しそうな旦那さまに軽く会釈して、車の後部座席の窓から顔を出した彼女の愛娘である小学生の凛ちゃんに手を振る。
「ママっ!」
「もう、凛たら、パパと待てなかったの?」
「だって、パパはテレビばっかり観てて遊んでくれないんだもん。つまんない」
「そうー。あ、葉摘、またね」
そこには、幸せそうな家族の姿があった。
それを、笑顔で見送る。
佳寿美は学生のころは考え方も感じ方も似ていて一緒にいて楽しくて、気を遣わない相手だった。
いつの頃からか少しずつその関係も変化をとげた。環境が変わると自然とそうなるのかもしれない。
私は、フラフラと引き寄せられるように〈サン・ルイ〉に向っていた。
確か営業時間は九時までだったはず。ラストオーダーに間に合えば良いけど。
もう行かないと決めていたのに……、心が体が足が勝手に向かうのだから仕方がない。
出窓から、ステンドグラスの暖かい七色の灯りが見えてホッとした。暗い中に浮かび上がるそれは、迷い子を迎え入れてくれる優しい目印。
矢坂さんの笑顔が見たい。
ただそれだけしか、考えていなかった。
〈サン・ルイ〉のドアを力無く開ける。
「こんばんは……」
「いらっしゃいませ! あっ、小宮山さん!!」
「?」
瑠伊さんがカウンターから、飛び出て来た。
矢坂さんの姿を探したが、彼はいない。
こんな、ささやかな望みすら叶えられないの?
出窓の席にいた黒縁眼鏡のコウさん。
こんな遅い時間にもいるんだ。彼も何故か釣られたように立ち上がった。
なに? どうしたの?
瑠伊さんに、手を取られた。
「もう、いらしていただけないんじゃないかと、心配していたんです。あの、大丈夫ですか? かなり酔ってるんじゃないですか?」
そして心配そうに顔を覗きこまれた。
ああ、ワインのせいだ。頭は何ともないのに、ワインを二杯以上飲むと目が悪酔いしてるみたいに充血する。
「全然、酔ってないんです。お酒を飲むとこんな酷い目つきになっちゃって、すみません、もう閉店ですか? それなら、また……」
「いえ、まだですよ。ブレンドで良いですか?」
「はい。それをいただいたらすぐに帰りますから」
私は努めて平静を装いながら話す。
矢坂さんはいないんだ。
「まだ全然閉める時間じゃないですし、ごゆっくりなさっていって下さいね」
瑠伊さんが、手を握ってどこまでも優しく微笑みかけてくれる。
お店の中には、瑠伊さんとコウさんの他には誰もいない。
私はすぐ帰るという意思表示のため、テーブル席ではなくカウンター席に軽く腰掛けた。
ガーガーというコーヒー豆を轢く音が店内に響く。そして、漂う私の好きな香り。
ようやく気持ちが落ち着いてきた。
「先日は、すみませんでした」
すぐそばで、コウさんの穏やかな声がして、その気配を感じた。
何に対して謝ってるの? 謝られるようなことはされていないと思うけど。
「弟が本当にすみません、お悩み相談の名刺をお渡しして。うちのお客さまへの営業は禁止してたんですけど、まさか小宮山さんに差し上げたなんて。それで嫌な思いをされて、お店にいらっしゃらなくなっちゃったんじゃないかと心配してたんです。あの、コウちゃんのことはお気になさらないで、お店にはいらして下さいね。失礼な弟で、本当に申し訳ありません」
瑠伊さんが必死に謝っている。姉というのはいくつになっても姉で、弟は弟で姉にその話をしたんだ。仲の良い姉弟なのかもしれない。
コウさんの名刺。捨てられずに私のカバンに後生大事にしまってある。
それに書いてあった文章が唐突に思い出された。
淋しいあなたに。
相談すれば、カウンセラーのコウさんに話せば、この心の中の空虚な感じが少しでも温かな何かで埋まるのだろうか。
淋しさが緩和される? 本当に?
それは矢坂さんの笑顔と同じくらい癒しの効果があるの?
私は顔を上げた。
そこには、少し眉を寄せ、困ったような表情で静かに佇むコウさんがいた。
「あの、悩み相談、申し込みます。話を聞いてくださるんですよね」
私のその言葉に、コウさんが眼鏡の奥で驚きを隠すことなく目を見開いたのがわかった。
そして、動きを止めポカンとする瑠伊さん。
その場の、目には見えない時の流れが一瞬止まったかのように感じた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる