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10 リジーの不意打ち
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リジー、ジョン、サム、3人の、ニューイヤーから少し経った後のお話しです。
―――――――――――――――――――――
リジーはひとりで、<スカラムーシュ>の店番をしていた。
最近、仕事が休みの日で暇なときは、<スカラムーシュ>に押しかけては、こまごまと手伝っていることが多い。
古い雑貨や家具の手入れやからぶき、掃除をさせてもらっていた。
お客が来ると、店の奥に引っ込んで大人しくしている。
ジョンからは何も言われないので、特に迷惑がられてはいないはずだと思っていた。
ジョンとは恋人同士になり、堂々とそばにいられることがリジーには嬉しくてたまらなかった。
ふたり揃っての休みの日は、恋人同士らしく一緒に外出し、食事や買い物やドライブ、散歩も楽しんでいた。
ジョンは常に穏やかで優しくて、ふたりで幸せな時間を過ごせていて、そのことには満足していた。
1月末にはジョンの誕生日が来る。
サムとアイリーンも招いて、一緒にジョンの誕生パーティをしたいとリジーは考えていた。
今の悩みといえば、ジョンの誕生日プレゼントの件だった。
本当にジョンが喜ぶものをあげたい。サムに助言をもらうつもりで、連絡もしていた。
ジョンは、たまにコリンズ医師の往診の護衛を頼まれる。
今日はそのために、ジョンは出掛けていた。
コリンズに頼まれるのは、おそらくG地区への往診なのだと想像がついていた。
ジョンに何かあったらと思うと気が気ではない。
コリンズから頼まれると、ジョンは大丈夫だから、とふたつ返事で行ってしまう。
彼だってスーパーマンではない。
銃やナイフが相手では負けてしまうに違いない。
リジーがため息をひとつ吐いたところで、サムが現れた。
「よう! あれ? リジーひとり?」
サムは仕事の休憩中に、毎日のように<スカラムーシュ>に顔を出していて、会えば大概お互いジョンの恋人、親友として、ジョンの話題を口にする。
ジョンは、サムに邪険な態度を取る割には、絶対に無視しない。
そして、常に遠慮のない口調だった。
そんなふたりの関係がリジーには羨ましく感じる時がある。
「サム、こんにちは。ジョンはまたコリンズ先生の往診に付き添ってるの」
「先生もクロウも、色々と放っておけない損なタイプだからな」
そこで心配していたことを思い出して、暗い顔になってしまう。
「まあ、あまり、心配するなって。そんなに危険な場所なら先生自体が行かないだろう。それより、ほら、クロウの誕生日プレゼント、俺に相談したいって言ってただろう?」
「あ、そうなの。ジョンは何だったら喜ぶかな。男の人は何が欲しい?」
「そんなの、はっきり本人に直接聞いたらいいじゃないか」
「前に聞いたときは、いつものクッキーって。それと、その、ハロウィーンの時のドロシーの衣装をまた着てみせてって、たぶんからかわれた……。それと私の写真、とかなんとか言ってたと思うけど」
「ドロシーの衣装? へえ……あいつが。意外と自分の欲望に忠実だな。……てか、欲なんてあったんだ!?」
「え?」
「おめでとう!」
「は? おめでとうって何が?」
「いや~、子リスだとばかり思っていたのに……いつの間にか欲望の対象になったか。まあ、カラス限定だろうがな」
「何?」
「可哀想だから、同盟は解除してやるかな」
「同盟?」
「こっちの話。そろそろ覚悟しておいた方が良いかもね。……捕食対象を着飾って、眺めて、その後剥いて、食べるとか……」
サムがやたらとニヤニヤしながら独り言のように、ブツブツと口を動かしている。
「覚悟って? それから、後半は何言ってるんだか聞き取れなかったんだけど?」
「いや~、なんでもない。聞き取れなくていいのいいの。羨ましいなあ」
「はあ? 変なの」
「俺に相談したとか言うなよ。後が面倒」
「言わないよ。だから、ちゃんとアドバイスお願い」
「自分で考えなよ。リジーからのプレゼントなら、あいつはなんだって泣いて喜ぶだろう。たとえ的外れでもね」
「的外れって、失礼な!」
「あいつの欲……じゃなくて希望通り、写真とクッキーを渡して、ドロシーの服を着てやればいいじゃないか。悩む必要ない」
「だって、何かもっと記念になるものをあげたいの。写真はなんだか照れるし、クッキーだって、私が服着たって何も残らない」
「思い出は残るだろう? あいつは物欲はまるで無いからな」
「あの服、着るの恥ずかしいのに……」
と口にして、リジーははたと思い出した。自分をからかうのが楽しいとも、ジョンが言っていたような気がする。
(そうか、恥ずかしがる私の反応が見たいとか? そういうこと? まさしくサムの影響だよね)
サムをジトっと見て、またため息を吐く。
「ふう、わかったよ」
「え? 何がわかったの? 絶対わかってない顔だよなあ」
♢♢♢
考え込むリジーを見て、サムは自分がかなりにやけ顔をしているに違いないと思った。
リジーの言動でジョンが慌てる姿を想像すると、愉快でたまらない。
脳内は相変わらずのサムだった。
「それにしても、クロウと子リスは、部屋も向かいだし店でもいつでもイチャイチャできていいよなあ」
「な、店ではしてないし!」
「じゃあ、部屋で? イチャイチャし放題……」
「してないから~!!」
「してないの? 愛し合ってるのに?」
「う、別にイチャイチャだけが愛じゃないし」
リジーの表情は、スッキリしない。
「あれ? 急にどうした」
「ジョンが……」
「何か、気になることでもあるのか?」
「なんだか、前と距離感が変わらないっていうか。むしろ遠慮がちっていうか。あの、サムはアイリーンとどういうお付き合いをしてるの?」
「え!?」
リジーから面と向かって問われ、サムは答えに詰まる。
一呼吸おいて、胸をはる。
「う……。そりゃ、俺たちはもう、会ったら熱烈なハグにキスだろ。べったりしてる」
「あとは?」
「あとは……。清い付き合いだ」
そう言って、肩を落とす。
(毎回我慢大会だよ)
「そうなの? 良かった。サムたちもそうならいいの」
「何が良かったって、何がいいんだ? 俺は我慢を……強いられて……? もしかして、あいつ。リジー、距離感て、具体的に言ってみろ」
「具体的って言われると、はっきり言えないけど。恥ずかしがりなのかな。それとも私ってやっぱり子どもっぽい? 女としての魅力、乏しいのかな? サムは、私に欲情する?」
「はあ!?」
さすがのサムもリジーから上目遣いで生々しいセリフを聞かされ、ギョッとなる。
身体は小柄でスレンダーだが、意外と小さくもないリジーの胸元をつい見てしまって焦る。
「ば、馬鹿か、そんな大きな声で……。ジョンに聞かれたら、マジで俺殺される!!」
悪魔は背中に冷気を感じて振り返ったが、魔王はいなかった。
「助かったァ」
「正直に言って」
リジーの至って真剣な表情に、サムは困り果てた。
(どう答えても後で死ぬな……)
よって、サムはその場から退散することにした。
「あっと、俺、休憩時間終わりだから、店に戻る! じゃあな~」
急いで店を飛び出る。
「待ってよ! もう、サムってばぁ!!」
「勘弁してくれ~!!」
サムは背後から掛かるリジーの声を振り切った。
「はははは……」
やけに乾いた笑いが出た。
「あいつ、俺を男だと全く認識してないな。俺に聞くなよ。そうでなくても禁欲生活してる俺に……。子リスに惑わされてどうすんだ!? 俺っ!」
♢♢♢
「ただいま、リジー」
(あれ? ジョン、疲れてる? 声が少し沈んでる)
<スカラムーシュ>の戸口に出かけた時のままの姿で立っているジョンを見て、リジーはひとまず安心した。
「ジョン、おかえりなさい! 大丈夫だった? 怪我はない? 良かった、無事で」
リジーは帰ってきたジョンに、一目散に駆け寄った。
「ただの運転手だし、カバン持ちだから、何も危ないことはないって言っただろう?」
「だって」
「大丈夫だから……」
(ジョン、どうして浮かない顔を?)
ジョンに急に強く引かれて抱き締められ、リジーは驚いて見上げる。
「ジョ……!?」
次の瞬間、唇が素早く塞がれた。
リジーはいつもと違う執拗なジョンの唇に戸惑っていた。
店の営業時間中は、ふたりだけでいても、このように熱を感じるキスはされたことがなかった。
(ジョン、どうしたんだろう。長いし……おかしくなりそう)
リジーの身体はぐらついたが、しっかり支えられている腕があるので倒れることはない。
「ごめん、いきなり」
「う……ん」
リジーは、ボーっとなりトロンとしていたが、ジョンの悩ましげな表情が気になった。
身体はしっかりジョンに抱かれている。
「サムが、来ていたんだね」
「あ、うん。休憩中だって」
「走って帰って行く後ろ姿が見えた。何かあった? 何を話したの?」
「何も、ないよ。私たちが話すのは、いつもだいたいジョンの話題だから」
「僕のいない所で悪口?」
「違うよ。たとえ、サムが悪口っぽいことを言っても、そこには悪意は無くて友愛がある。わかってるでしょ? サムと私はジョンが大好きなの。ジョンの下に集う同志のような関係だから」
リジーはジョンに、曇りの無い気持ちで微笑みかける。
緊張が解けたように、ジョンからこわばっていた目の力が抜けた。
「……敵わないな。きみには……。サムの後ろ姿が見えて、僕は、サムに嫉妬した。きみと何を楽しく話したんだろうかって。僕は、サムみたいに一緒にいて楽しい男じゃない。それは自分でよくわかってる。だから……」
「ストーップ! ジョン、何を言ってるの? サムも私も、そのままのジョンが大好きなの。サムみたいにペラペラ喋るジョンは、ジョンじゃないし。ジョンは、そのままで私たちの間にいて! サムに嫉妬するなんて変だよ。私はこんなにジョンが好きなのに。そりゃ、妬いてくれて、ちょっと嬉しかったけど」
(そうか、今の激しいキスは、そういうことだったんだ。ジョンたら)
「リジー、ごめん」
リジーはジョンにさらに抱え込まれ、頭にキスされたのがわかった。
(話題を変えよう。サムが言ってたみたいに直接もう一度プレゼントのこと聞こう)
「あのね、ジョンに聞きたいことがあるの。誕生日のプレゼントは何が欲しい? 前に聞いた時は、私の写真? とか、いつものクッキーとかドロシーの衣装を着た私って言ってたけど」
「えっ!!?」
ジョンが何やら驚いて固まったようだ。
肩に置かれていた手に微かに力が入ったので、そう感じた。
「あ、あれ? 何か変だった?」
(ジョンが微妙に赤くなってる?)
「あ~、ニュアンスがちょっとね。いや、まあ、合っていると言えば合ってるけど……」
「それでいいの? 何も記念になるものは残らないんだよ」
「僕はきみとの思い出が一番欲しいものなんだ。だから、それでいいんだよ」
(サムの言った通りだった。それにしても、なんでそんな弱り切った顔してるの? 変なジョン)
「本当にきみには敵わないな」
リジーの額に、苦笑するジョンの唇が触れた。
(わ~、今度はおでこにキス~。今日はたくさんキスしてくれた!!)
リジーは嬉しさのあまり、ジョンの首に抱きついた。
魔王を撃沈させたことなど、まるで気が付いていなかった。
―――――――――――――――――――――
リジーの無意識に放ったセリフに、タジタジのジョンとサムでした。
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リジーはひとりで、<スカラムーシュ>の店番をしていた。
最近、仕事が休みの日で暇なときは、<スカラムーシュ>に押しかけては、こまごまと手伝っていることが多い。
古い雑貨や家具の手入れやからぶき、掃除をさせてもらっていた。
お客が来ると、店の奥に引っ込んで大人しくしている。
ジョンからは何も言われないので、特に迷惑がられてはいないはずだと思っていた。
ジョンとは恋人同士になり、堂々とそばにいられることがリジーには嬉しくてたまらなかった。
ふたり揃っての休みの日は、恋人同士らしく一緒に外出し、食事や買い物やドライブ、散歩も楽しんでいた。
ジョンは常に穏やかで優しくて、ふたりで幸せな時間を過ごせていて、そのことには満足していた。
1月末にはジョンの誕生日が来る。
サムとアイリーンも招いて、一緒にジョンの誕生パーティをしたいとリジーは考えていた。
今の悩みといえば、ジョンの誕生日プレゼントの件だった。
本当にジョンが喜ぶものをあげたい。サムに助言をもらうつもりで、連絡もしていた。
ジョンは、たまにコリンズ医師の往診の護衛を頼まれる。
今日はそのために、ジョンは出掛けていた。
コリンズに頼まれるのは、おそらくG地区への往診なのだと想像がついていた。
ジョンに何かあったらと思うと気が気ではない。
コリンズから頼まれると、ジョンは大丈夫だから、とふたつ返事で行ってしまう。
彼だってスーパーマンではない。
銃やナイフが相手では負けてしまうに違いない。
リジーがため息をひとつ吐いたところで、サムが現れた。
「よう! あれ? リジーひとり?」
サムは仕事の休憩中に、毎日のように<スカラムーシュ>に顔を出していて、会えば大概お互いジョンの恋人、親友として、ジョンの話題を口にする。
ジョンは、サムに邪険な態度を取る割には、絶対に無視しない。
そして、常に遠慮のない口調だった。
そんなふたりの関係がリジーには羨ましく感じる時がある。
「サム、こんにちは。ジョンはまたコリンズ先生の往診に付き添ってるの」
「先生もクロウも、色々と放っておけない損なタイプだからな」
そこで心配していたことを思い出して、暗い顔になってしまう。
「まあ、あまり、心配するなって。そんなに危険な場所なら先生自体が行かないだろう。それより、ほら、クロウの誕生日プレゼント、俺に相談したいって言ってただろう?」
「あ、そうなの。ジョンは何だったら喜ぶかな。男の人は何が欲しい?」
「そんなの、はっきり本人に直接聞いたらいいじゃないか」
「前に聞いたときは、いつものクッキーって。それと、その、ハロウィーンの時のドロシーの衣装をまた着てみせてって、たぶんからかわれた……。それと私の写真、とかなんとか言ってたと思うけど」
「ドロシーの衣装? へえ……あいつが。意外と自分の欲望に忠実だな。……てか、欲なんてあったんだ!?」
「え?」
「おめでとう!」
「は? おめでとうって何が?」
「いや~、子リスだとばかり思っていたのに……いつの間にか欲望の対象になったか。まあ、カラス限定だろうがな」
「何?」
「可哀想だから、同盟は解除してやるかな」
「同盟?」
「こっちの話。そろそろ覚悟しておいた方が良いかもね。……捕食対象を着飾って、眺めて、その後剥いて、食べるとか……」
サムがやたらとニヤニヤしながら独り言のように、ブツブツと口を動かしている。
「覚悟って? それから、後半は何言ってるんだか聞き取れなかったんだけど?」
「いや~、なんでもない。聞き取れなくていいのいいの。羨ましいなあ」
「はあ? 変なの」
「俺に相談したとか言うなよ。後が面倒」
「言わないよ。だから、ちゃんとアドバイスお願い」
「自分で考えなよ。リジーからのプレゼントなら、あいつはなんだって泣いて喜ぶだろう。たとえ的外れでもね」
「的外れって、失礼な!」
「あいつの欲……じゃなくて希望通り、写真とクッキーを渡して、ドロシーの服を着てやればいいじゃないか。悩む必要ない」
「だって、何かもっと記念になるものをあげたいの。写真はなんだか照れるし、クッキーだって、私が服着たって何も残らない」
「思い出は残るだろう? あいつは物欲はまるで無いからな」
「あの服、着るの恥ずかしいのに……」
と口にして、リジーははたと思い出した。自分をからかうのが楽しいとも、ジョンが言っていたような気がする。
(そうか、恥ずかしがる私の反応が見たいとか? そういうこと? まさしくサムの影響だよね)
サムをジトっと見て、またため息を吐く。
「ふう、わかったよ」
「え? 何がわかったの? 絶対わかってない顔だよなあ」
♢♢♢
考え込むリジーを見て、サムは自分がかなりにやけ顔をしているに違いないと思った。
リジーの言動でジョンが慌てる姿を想像すると、愉快でたまらない。
脳内は相変わらずのサムだった。
「それにしても、クロウと子リスは、部屋も向かいだし店でもいつでもイチャイチャできていいよなあ」
「な、店ではしてないし!」
「じゃあ、部屋で? イチャイチャし放題……」
「してないから~!!」
「してないの? 愛し合ってるのに?」
「う、別にイチャイチャだけが愛じゃないし」
リジーの表情は、スッキリしない。
「あれ? 急にどうした」
「ジョンが……」
「何か、気になることでもあるのか?」
「なんだか、前と距離感が変わらないっていうか。むしろ遠慮がちっていうか。あの、サムはアイリーンとどういうお付き合いをしてるの?」
「え!?」
リジーから面と向かって問われ、サムは答えに詰まる。
一呼吸おいて、胸をはる。
「う……。そりゃ、俺たちはもう、会ったら熱烈なハグにキスだろ。べったりしてる」
「あとは?」
「あとは……。清い付き合いだ」
そう言って、肩を落とす。
(毎回我慢大会だよ)
「そうなの? 良かった。サムたちもそうならいいの」
「何が良かったって、何がいいんだ? 俺は我慢を……強いられて……? もしかして、あいつ。リジー、距離感て、具体的に言ってみろ」
「具体的って言われると、はっきり言えないけど。恥ずかしがりなのかな。それとも私ってやっぱり子どもっぽい? 女としての魅力、乏しいのかな? サムは、私に欲情する?」
「はあ!?」
さすがのサムもリジーから上目遣いで生々しいセリフを聞かされ、ギョッとなる。
身体は小柄でスレンダーだが、意外と小さくもないリジーの胸元をつい見てしまって焦る。
「ば、馬鹿か、そんな大きな声で……。ジョンに聞かれたら、マジで俺殺される!!」
悪魔は背中に冷気を感じて振り返ったが、魔王はいなかった。
「助かったァ」
「正直に言って」
リジーの至って真剣な表情に、サムは困り果てた。
(どう答えても後で死ぬな……)
よって、サムはその場から退散することにした。
「あっと、俺、休憩時間終わりだから、店に戻る! じゃあな~」
急いで店を飛び出る。
「待ってよ! もう、サムってばぁ!!」
「勘弁してくれ~!!」
サムは背後から掛かるリジーの声を振り切った。
「はははは……」
やけに乾いた笑いが出た。
「あいつ、俺を男だと全く認識してないな。俺に聞くなよ。そうでなくても禁欲生活してる俺に……。子リスに惑わされてどうすんだ!? 俺っ!」
♢♢♢
「ただいま、リジー」
(あれ? ジョン、疲れてる? 声が少し沈んでる)
<スカラムーシュ>の戸口に出かけた時のままの姿で立っているジョンを見て、リジーはひとまず安心した。
「ジョン、おかえりなさい! 大丈夫だった? 怪我はない? 良かった、無事で」
リジーは帰ってきたジョンに、一目散に駆け寄った。
「ただの運転手だし、カバン持ちだから、何も危ないことはないって言っただろう?」
「だって」
「大丈夫だから……」
(ジョン、どうして浮かない顔を?)
ジョンに急に強く引かれて抱き締められ、リジーは驚いて見上げる。
「ジョ……!?」
次の瞬間、唇が素早く塞がれた。
リジーはいつもと違う執拗なジョンの唇に戸惑っていた。
店の営業時間中は、ふたりだけでいても、このように熱を感じるキスはされたことがなかった。
(ジョン、どうしたんだろう。長いし……おかしくなりそう)
リジーの身体はぐらついたが、しっかり支えられている腕があるので倒れることはない。
「ごめん、いきなり」
「う……ん」
リジーは、ボーっとなりトロンとしていたが、ジョンの悩ましげな表情が気になった。
身体はしっかりジョンに抱かれている。
「サムが、来ていたんだね」
「あ、うん。休憩中だって」
「走って帰って行く後ろ姿が見えた。何かあった? 何を話したの?」
「何も、ないよ。私たちが話すのは、いつもだいたいジョンの話題だから」
「僕のいない所で悪口?」
「違うよ。たとえ、サムが悪口っぽいことを言っても、そこには悪意は無くて友愛がある。わかってるでしょ? サムと私はジョンが大好きなの。ジョンの下に集う同志のような関係だから」
リジーはジョンに、曇りの無い気持ちで微笑みかける。
緊張が解けたように、ジョンからこわばっていた目の力が抜けた。
「……敵わないな。きみには……。サムの後ろ姿が見えて、僕は、サムに嫉妬した。きみと何を楽しく話したんだろうかって。僕は、サムみたいに一緒にいて楽しい男じゃない。それは自分でよくわかってる。だから……」
「ストーップ! ジョン、何を言ってるの? サムも私も、そのままのジョンが大好きなの。サムみたいにペラペラ喋るジョンは、ジョンじゃないし。ジョンは、そのままで私たちの間にいて! サムに嫉妬するなんて変だよ。私はこんなにジョンが好きなのに。そりゃ、妬いてくれて、ちょっと嬉しかったけど」
(そうか、今の激しいキスは、そういうことだったんだ。ジョンたら)
「リジー、ごめん」
リジーはジョンにさらに抱え込まれ、頭にキスされたのがわかった。
(話題を変えよう。サムが言ってたみたいに直接もう一度プレゼントのこと聞こう)
「あのね、ジョンに聞きたいことがあるの。誕生日のプレゼントは何が欲しい? 前に聞いた時は、私の写真? とか、いつものクッキーとかドロシーの衣装を着た私って言ってたけど」
「えっ!!?」
ジョンが何やら驚いて固まったようだ。
肩に置かれていた手に微かに力が入ったので、そう感じた。
「あ、あれ? 何か変だった?」
(ジョンが微妙に赤くなってる?)
「あ~、ニュアンスがちょっとね。いや、まあ、合っていると言えば合ってるけど……」
「それでいいの? 何も記念になるものは残らないんだよ」
「僕はきみとの思い出が一番欲しいものなんだ。だから、それでいいんだよ」
(サムの言った通りだった。それにしても、なんでそんな弱り切った顔してるの? 変なジョン)
「本当にきみには敵わないな」
リジーの額に、苦笑するジョンの唇が触れた。
(わ~、今度はおでこにキス~。今日はたくさんキスしてくれた!!)
リジーは嬉しさのあまり、ジョンの首に抱きついた。
魔王を撃沈させたことなど、まるで気が付いていなかった。
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