いつの日も、あなたと~マイ・ディア・サンタクロース~

名木雪乃

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01 恋人たちのニューイヤー

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 本編【いつの日か、きみとサンタクロースと】の最終話の続きで、ニューイヤーイブからのお話です♪

――――――――――――――――――――――

(まだ、カウントダウンには、時間がたっぷり……あるから……)

 むにゃむにゃ……とリジーの口が動いていたらしい。
 遠のく意識の中で、リジーはくすくすとジョンの笑い声がこぼれるのを聞いた。

「何を笑ってるの?」

 眠りに落ちそうになっている意識を呼び戻す。

「きみが子供みたいにもごもごと可愛く口を動かしてたから、何か食べてる夢でも見てるのかと思って」

 ジョンの返答に、目が一瞬で覚める。

「! ち、違うよ。私、そんなに食いしん坊じゃないし。それに、子供みたいにって!」

(ジョンには私ってそんなに子供っぽく見えるの?)

「ごめん、ごめん」
「ハロウィーンの時だって、嬉しかったけどあんなにお菓子をたくさんくれちゃって、まだ冷蔵庫の中にいっぱい詰まったままだよ!!」

 ソファとジョンの腕にどっぷり沈んでいたリジーは、起きあがって背筋を伸ばした。

「そうなの? もう全部食べたかと思った」
「どれだけ私のこと食いしん坊だと思ってるの? これでもお菓子の食べすぎには注意して、体重には気をつけてるんだから~」

 息巻くリジーに、ジョンの目は細められた。

「そうか、えらいね」

 ジョンが頭を撫でてくる。

「ム……子供扱いしてる~」

 リジーは少しむくれて声をあげ、頭を振った。

「子供扱いなんてしてないよ」

 ジョンの諭すような落ち着いた声に、リジーはおかしな勢いがついてしまった。

 自分のブラウスの前ボタンに手をかけると、肩で息をしながらひとつふたつと上から外していった。三つ目を外したところで、ジョンの手に阻まれた。

「リジー、何してるの!? ごめん、わかったから」

 ジョンが顔を背けている。横顔が少し赤いように見える。

「何がわかったの? 胸は、す、す、少しはジョンが満足するくらいはあるんだからね! スーザンがドロシーの衣装の採寸のときに言ってたから、本当だよ」

 リジーが必死にそう言うと、ジョンがスーザンの名前を呟きながら大きく息を吐いた。

「きみを子供だなんて思ったことない」
「本当に?」
「本当だよ。……わからせてあげる?」
「え?」

「少し……いい?」

 その場でソファに押さえ込まれ、ジョンの右手がブラウスの左襟に伸ばされるのを、リジーは目だけで追っていた。

「……!」

(待って、待って、待って……何!?)

 リジーが心の中でじたばたしているうちに、肩まで襟が開かれてしまっていた。
 あらわになった首筋と肩にジョンが顔を埋めてきた。

「!!!」

 ジョンの唇も髪もくすぐったい。

 リジーは首と肩はかなり弱い……。
 唇で弱いところを攻められ、リジーが身体をよじり、声にならない声を出す。

「首のあたり苦手?」

 ジョンの声が脳に甘く響き、さらに頭に血が上がる。

「首と肩は苦手というか……触られるとすごくくすぐったくてだめなの。だから肩がこっていてもくすぐったいのが我慢できないから他人にはマッサージとかしてもらえないの」

 リジーは言い訳するように慌てて喋っていた。

「いいことを聞いた……」
「ジョン!?」

 焦ってうわずったリジーの声に、ジョンはいたずらがうまくいったような笑みを浮かべている。
 リジーはどきどきして恥ずかしいやら、どこか嬉しいやらで混乱し、頭に血が行き過ぎて血管が破裂するのではないかと思った。

(ジョンにとっては少しでも、私には一杯一杯なんだってば~)

 ジョンの温かい唇はリジーの唇と頬をかすめ、耳に触れて来る。
 耳もかなりくすぐったいと初めて知った。

「子供にはこんな事はしない。わかってくれた?」

 耳にジョンの熱い息がかかり、身体中の力が抜ける感覚に陥る。


「わかった」

 口が渇いて、声が掠れた。

「ごめん……嫌だった?」
「ううん。私が誘った? んだし、慣れてないから緊張しちゃって……」

 リジーは首をかしげながら、自分の言葉でまた熱を上げた。

(さ、誘ったの? 私が? は、恥ずかしすぎる!!!)
 
 ここで初めて自分が大それたことをしたことに気付く。

 これ以上ないくらい熱くなったリジーの頬は、ジョンの指の背に優しく撫でられている。
 そしてその指は、乱れた襟を元に戻すと、ボタンをサッとはめた。
 リジーはされるがままで身動きひとつできなかった。

(19歳にもなって、この程度で火を噴いて硬直するなんて、あきれちゃう。これじゃジョンに子供扱いされても文句は言えないかも……)

 ジョンが片手で簡単そうにボタンをはめたので、手先が器用だと、そんなことも呆けた頭で考えているリジーだった。




 突然<スカラムーシュ>の入り口のドアの開く音がして、リジーはびくりとした。

「おおお~帰って来てたんだな!!?」

 サムの声がして、足音が響く。

 リジーは身構えたが、ジョンはリジーを抱く手に力を入れただけだった。

「おまえたち、なにを悠長に構えてるんだ? 早くしないとカウントダウンと花火に間に合わないぞ。って、お楽しみだったのか?」

 サムが目を見開いている。

「ち、違うから!」

 リジーは、ジョンの拘束にもがきながら声を出した。

「そんな茹蛸ゆでだこみたいな顔で言われてもな」

 すぐにニヤけた顔をされたが、リジーはなすすべもない。

「クロウ、なんでそう余裕綽々よゆうしゃくしゃくなのか疑問だ。早めに行かないと、駐車場も満杯になるし、花火もよく見える場所がとれない」
「そうなのか?」
「おまえ、行ったことなかったんだっけか? 早く車を出してくれ」
「車? オレが?」
「あたりまえだろう、どうせおまえたちも行くんだろうが? 俺たちも行くから効率良いだろ」


「こんばんは。ジョン、リジー」

 サムの背後からアイリーンが恥ずかしそうに顔を出した。

「アイリーン! なんだか、しばらくぶりの感じだね。楽しいクリスマスは過ごせた?」

 リジーは埋もれていたソファとジョンの腕からなんとか離れ、アイリーンに抱きついた。

「ええ、あなたも?」

 アイリーンに天使のように綺麗な微笑みを向けられ、リジーは思わずみとれる。

「うん! 楽しかったよ。アイリーンなんだかきらきらしてる」

 リジーの勘は冴えていた。

「そう? あなたもよ」
「あ……、そうかな?」

 お互い頬を染めながら、含みのある笑みを交わした。






 12月31日。11時59分。ベイエリアではカウントダウンが始まった。
 どこからともなく大勢の人々が集まって来ていた。
 サムの言う通りに早めに出発したおかげで、リジーたちは空も海も見える場所にいた。

 リジーの横にはジョンがいて、守るようにずっと肩を抱いている。
 日中は暖かいハーバーシティも朝晩はかなり冷えるので、ジョンの温もりは嬉しかった。



 10、・・・・・・3、2、1

 ハッピーニューイヤー!!!



 そして、暗い夜空に大きな音と共に花火が打ち上げられ、歓声が沸き起こった。
 周りの人々が新年を喜ぶ声をあげながら、抱き合ったり、笑いあったり、肩を寄せあったりしている。

 リジーもジョンの首に抱きついた。そのまま持ち上げられ、足が宙に浮いた。

「ハッピーニューイヤー! ジョン!」
「リジー! ハッピーニューイヤー」

 笑いながら新年を迎えることができて幸せだと、ふたりは同時に思った。

 その横でサムとアイリーンは熱いキスを交わしていた。

 キスが終わると、今度は4人で抱き合った。


 ――ハッピーニューイヤー!――


 大きな光の花を咲かせる花火が次々と上がる。
 海面にも鮮やかな光が映し出され、リジーはその美しさに息をのむ。

 花火を見ながら、リジーとアイリーンを挟む形で、ジョンとサムが自然に肩を組んだ。

「今年もよろしくな、ジョン」
「こっちこそ、よろしく。サム」

 男ふたりは力強い視線を交わし、頷きあった。




 少し時間を置いてから、リジーたちは海に突き出た桟橋に向かった。
 店の多い沿岸は明るかったが、海のほうは暗い。
 暗闇の海に向かって長く伸びる光の道、たくさんの電球に飾られた桟橋は、幻想的だった。

「わあ、綺麗!! まるでおとぎの国の入り口に続いているみたい」

 はしゃぐリジーの手を、ジョンはずっとしっかり握ったままだ。

「ジョン? そんなにきつく握らなくても大丈夫だよ」
「この暗い中、海に落ちたら大変だ」
「広いし、真ん中歩いてるもん。さすがに落ちないよ~」
「油断できないから……」


♢♢♢


「てな、会話をしながら歩いてんだぜ、きっと。前を行くバカップルはさあ。俺たちはスマートに行こうぜ。アイリーン!」

 サムは手を繋いで静かに横を歩いているアイリーンを抱き寄せ、額に軽くキスを落とした。
 目を逸らさずに自分を見つめてくる、アイリーンの美しい緑の瞳をいつまでも見ていたいとサムは思った。


♢♢♢



 リジーは歩きながら、繋いでいたジョンの手をぎゅっと握ってみた。
 見上げると、ジョンからは優しく深い眼差しで微笑みを返される。
 ジョンは少し眉をあげ、どうしたのかと尋ねているように見える。

「ううん、なんでもない」

 リジーは、幸せだった。


 これからも、いつまでも、いつの日も、あなたとともに――――――

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