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おわりに
あとがき
しおりを挟むまず、ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
お疲れ様でございます。
三十万字近く、百話近くのこの物語、読まれるには、相当のものだったのではないかと思います。
重ねて、御礼申し上げます。
さて、拙作を最初に書くきっかけは、カクヨムの自主企画「同題異話」の令和4年5月のお題「叫んで五月雨、金の雨。」でした(この時の企画主は、おくとりょうさんです)。
最初は、「五月」、「雨」で連想して、具体的にはWikipediaで五月の出来事を調べているうちに、「桶狭間の戦い」が出て来て、そういえばこの戦いは雨の日で、織田信長からすると、雨は「金の雨」、すなわち今川義元に見つからないように進軍できたから、それこそ快哉を「叫んだ」ことだろう、と思ったのです。
それで「桶狭間の戦い」を調べていくうちに、今川義元が例の「輿」に乗ってやって来た理由について、次のような考察を発見しました。
つまり、尾張においては、尾張本来の国主である斯波義銀の斯波氏でないと「輿」に乗れないことになっている。
その斯波義銀は、「桶狭間の戦い」の前に、信長によって追放されている。
そこを義元は敢えて「輿」に乗って尾張に入り(桶狭間は尾張知多郡)、「自分こそが斯波氏、斯波義銀に代わる尾張国主だ」とアピールするため、という考察です。
これだ、と思いました。
この考察をきっかけにして、思いついたのです。
今川義元は、本来は――「織田信長に追放された斯波義銀を尾張の国主に戻す」という名目で、尾張を攻めた、という設定を思いついたのです。
だから、今川軍の中の輿の上には斯波義銀がいた――輿上の敵は、斯波義銀だった。そこを信長は義銀を討ち取って、今川軍の尾張攻めの名目を潰してやろうと目論んでいた。
ところが、今川義元が沓掛城で落馬したことにより、斯波義銀を輿から下ろして、その輿に乗った。乗ったところを、信長が急襲して、首を取ってしまった――という筋書きです。
これを思いついた時、この設定、この筋書きなら公募も通るのではないか、とつい考えてしまい、短編で書き、応募しました。同題異話には、実は金の雨でもうひとつ思いついた題材がありましたので、そちらで書いて参加しました。
しかし悪いことはできないもので、この短編は見事に落選しました。
でも書いた当時は受かるものだと思って(書いたあとはいつも気が大きくなりますので)、同じ設定で、長編を書けば、複数同時応募にはならないだろうと目論んで、当時募集していた「角川つばさ文庫小説賞」に応募することにしました。
そして、つばさ文庫、つまり少年少女向けで、歴史ものとなると、姫が主役の話が目立っていると判じた私は、濃姫を主役に据えて書き始めました。
拙作において、何かと濃姫が目立っているのは、そういう理由です。
でも――気がついたら、字数オーバーになっていました。
濃姫主役だと、どうしても輿入れあたりがふさわしいオープニングになるので、そこから桶狭間に至るまでが、こんなにも長くなるなんて、思いもしなかったのです。
これだからろくにプロットも立てずに書くのは駄目なんだ――と後悔しつつも、この濃姫輿入れ、織田信秀の死、そして尾張統一戦開始という「はじまり」は、そしてそこから桶狭間まで書くというのは、やはり正しかったんだな、と今なら思います。
このあたりからスタートしていくことにより、織田信長がどう伸びていったのか、今川義元はいかなることを企んでいたのか、が想像できるようになったからです。
その最たるものが、「双頭の蛇」です。
短編の方の執筆当初、私は桶狭間の時点では、まだ斎藤道三は生きているものと勘違いしていました。何となく、桶狭間が終わって美濃攻略戦という流れで把握しており、そのあたりで誤認していたと思います。
道三が生きているのなら、信長は援軍を要請できるし、最悪、那古野城の後詰めに入ってもらえると、もはや妄想の域に達していた私。
でも調べると、斎藤道三は死んでいて、「息子」の一色義龍になっている――これは駄目だ、と感じました。
そして思いました。
これでは――織田信長は、今川義元と一色義龍にはさみ撃ちされるじゃないか、と。
こう思った時、うわっと叫びそうになりました。
はさみ撃ち、すなわち「双頭の蛇」。
今川義元は、かつて、その策を使ったことがあるじゃないか、と。
奇しくも――その策を使った戦い、「河越夜戦」を私は書いたことがありました。いちおう。
何だか運命めいたものを感じ、同時にこれを描くには長編だな、と思いました。
説明というか前提を述べるのが長くなりますし、じゃあ「双頭の蛇」の美濃の「頭」と、海路の「胴体」を、どう始末をつけるのか、「正史」に影響が出ない範囲で……という問題がありましたので。
……そうこうするうちに、美濃の方は、国譲り状から始まって、竹中半兵衛へ至り、最後には真田幸綱も登場するという話を思いつき、これもう長編当確だよね、という諦めを感じました。
じゃあ海路の方はどうするの、というところで、三国同盟の一角、北条氏康が攻め、それを受けるのが毛利元就というドリームマッチを思いついてしまいました。
そして日本三大奇襲の立役者三人がそろい踏みという、この思いつきを書きたいという誘惑に耐えられず、またこの物語が長くなるという破目に……。
これだからプロットをろくに立てないのは駄目だと痛感するんですけど、同時にこのライブ感というか、ひらめきが浮かんでくるのが楽しくて書いているので、自業自得というところでしょう。
*
長々と述べてきましたが、これ以上申し上げるのも無粋というものでしょう。
そもそも、あとがき自体が無粋ともいえますが、そこはご容赦ください。
それではそろそろ、この長きに渡る物語も、筆を置きたいと思います。
ここまで読んでくれたあなたに、感謝を。
そして、読んだことにより、何がしかの気づきや、得るものがありましたら、筆者としてこれに勝る喜びはございません。
ありがとうございました。
令和5年9月7日
四谷軒 拝
【参考資料】
「国盗り物語」 司馬遼太郎 新潮社
「地図と読む 現代語訳 信長公記」 太田牛一 著・中川太古 訳 KADOKAWA
東浦町観光協会ホームページ
Wikipedia
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