連戦 ~新田義貞の鎌倉攻め~

四谷軒

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急 分倍河原の戦い

12 決戦

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「三浦が味方すると?」
 北条泰家は、腹心の横溝八郎からの報告に一抹の疑念を抱いた。が、当の三浦の大多和義勝が来て、新田の尾羽打ち枯らす様に感服した云々言い出すと、それを信ずることにした。
 別の腹心である安保入道の何故という視線を受け、泰家はささやいた。
「何、つまるところ、勝ち馬に乗りたいのであろう」
 だが配慮は必要と考えた泰家は、三浦衆を幕府軍から離れた場所に待機させることにした。
 そうこうしているうちに日が暮れ、泰家は全軍に休息を命じた。
今宵こよいは休め。明日、総攻めじゃ」

 こうして幕府軍は、運命の日、元弘三年五月十六日の早朝を迎える。



 馬のいななきが聞こえた。おめき声も。
「奇襲か!」
 北条泰家が太刀を持って、寝所を飛び出る。
「……霧?」
 深い霧。
 まるでこれからの乱世を暗示するような濃霧の中で、どこからともなく刀槍の衝突音、悲鳴、断末魔が響く。
 五月の早朝、多摩川には川霧が出ていた。
 これが新田義貞が脇屋義助に頼んで調べさせていたことであり、それは――義貞の奇襲に最大限の効果を与えていた。
 泰家の耳に、横溝八郎の声が届く。
「新田のみにあらず! 三浦の方も!」
 そしてここで三浦の大多和義勝の加勢がいてくる。一定の距離を置いてはいたが、三浦が、新田と逆の方から襲いかかってきた。
 つまり、幕府軍は霧の中、奇襲による挟み撃ちを受けていた。それは幕府軍を、大混乱におとしいれた。
「何だと!」
 泰家も含め、幕府軍はろくに甲冑もつけずに迎え撃つことになった。
 しかし、完全に虚を突かれたかたちの幕府軍は、誰からともなく散り散りになりつつあった。
 それでも泰家は抵抗しようとしたが、そこへ新田義貞が吶喊とっかんする。
「われこそは新田小太郎義貞! 北条泰家、いざ尋常に勝負!」
「……くっ」
 もし泰家に、もう少し合戦の経験があれば、義貞の策を看破できたかもしれない。しかし、千早の戦いに参陣し、小手指原、久米川と戦い抜いてきた義貞に一日の長があった。そしてその差は、今、大きく泰家と義貞の間を隔てていた。
「お逃げを!」
 横溝八郎が、義貞と泰家の間に割って入る。
「すまぬ!」
 泰家はついに己の不利を悟り、全軍に霞ノ関かすみのせきへの撤退を命じた。

 元弘三年五月十六日。
 世に言う分倍河原の戦いは、新田軍の勝利に終わった。
 北条泰家は霞ノ関にて最後の戦いを挑むも、撃破される。

「いざ鎌倉!」

 そして元弘三年五月二十二日、新田義貞は鎌倉をおとす。
 そのため、この一連の戦いをこう称する。
 新田義貞の鎌倉攻め、と。

【了】
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