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序 小手指原の戦い
03 小手指原へ
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足利高氏の策は図に当たった。
だが、誤算が二つあった。
一つは、幕府が新田義貞に多大な戦費を強要したこと。
一つは、義貞が、単なる向こう見ずでなく、用兵に長けていたということである。
義貞は戦費要求の幕府の使いの傲慢さに憤り、斬って捨てた。
そして、かねてからの高氏の策に従い、挙兵。
上野から武蔵への進軍の際、千寿王と合流。
足利家の嫡子を大将としたためか、高師直の事前工作の結果か、軍勢は二十万に膨れ上がった。
千寿王はまだ四歳のため、補佐役の紀五左衛門が、その軍を取り仕切ることに奔走しているうちに。
「新田が、抜け駆け?」
五左衛門は腰を抜かしそうになった。
大軍を以て鎌倉に圧力をかける。
そういう策ではなかったか。
「と、とにかく、疾く返すように言え」
だが時すでに遅く、義貞率いる七千の軍は小手指原に達し、桜田貞国率いる三万の軍に、猛然と襲いかかっているところだった。
*
「矢合わせしない?」
弟の脇屋義助の問いに、新田義貞は鷹揚に頷いた。
矢合わせとは、合戦の前に、互いの軍が鏑矢を交わすという作法である。
「ああ。ンなやり方を合わせちゃ、負ける。そんなことより、颪のように、攻める!」
義貞は、千早の戦いで、楠木正成のやり方を見ていた。
やり方を合わせないというやり方を。
「寡兵で多勢を相手するにゃあ、やり方をこちらのいいようにするのさ」
義貞は全軍に入間川を渡河するように命じた。
「渡れ! 利根川よりは易く渡れるはずだ! 疾く渡るのだ! 一番早く渡った者を、一番槍とする!」
沸き立つ軍を前に、義貞は、まずは手本をと入間川に入った。
「つづけ! 早くしないと、おれが一番槍ぞ!」
新田軍は我先にと渡河を始めた。
その渡河は素早く、幕府軍がまだ布陣をしている最中に終わる。
そして新田軍はそのまま矢合わせもせずに、幕府軍へと突撃した。
「かかれ!」
だが、誤算が二つあった。
一つは、幕府が新田義貞に多大な戦費を強要したこと。
一つは、義貞が、単なる向こう見ずでなく、用兵に長けていたということである。
義貞は戦費要求の幕府の使いの傲慢さに憤り、斬って捨てた。
そして、かねてからの高氏の策に従い、挙兵。
上野から武蔵への進軍の際、千寿王と合流。
足利家の嫡子を大将としたためか、高師直の事前工作の結果か、軍勢は二十万に膨れ上がった。
千寿王はまだ四歳のため、補佐役の紀五左衛門が、その軍を取り仕切ることに奔走しているうちに。
「新田が、抜け駆け?」
五左衛門は腰を抜かしそうになった。
大軍を以て鎌倉に圧力をかける。
そういう策ではなかったか。
「と、とにかく、疾く返すように言え」
だが時すでに遅く、義貞率いる七千の軍は小手指原に達し、桜田貞国率いる三万の軍に、猛然と襲いかかっているところだった。
*
「矢合わせしない?」
弟の脇屋義助の問いに、新田義貞は鷹揚に頷いた。
矢合わせとは、合戦の前に、互いの軍が鏑矢を交わすという作法である。
「ああ。ンなやり方を合わせちゃ、負ける。そんなことより、颪のように、攻める!」
義貞は、千早の戦いで、楠木正成のやり方を見ていた。
やり方を合わせないというやり方を。
「寡兵で多勢を相手するにゃあ、やり方をこちらのいいようにするのさ」
義貞は全軍に入間川を渡河するように命じた。
「渡れ! 利根川よりは易く渡れるはずだ! 疾く渡るのだ! 一番早く渡った者を、一番槍とする!」
沸き立つ軍を前に、義貞は、まずは手本をと入間川に入った。
「つづけ! 早くしないと、おれが一番槍ぞ!」
新田軍は我先にと渡河を始めた。
その渡河は素早く、幕府軍がまだ布陣をしている最中に終わる。
そして新田軍はそのまま矢合わせもせずに、幕府軍へと突撃した。
「かかれ!」
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