12 / 39
序の章 裏切られた明智光秀 ──本能寺の変──
12 長浜の行く末は
しおりを挟む騎士は悲しみと苦痛が入り交じった表情を見せ、ゆっくりと項垂れる。
「あのー、石を譲るのは無理なんだけどさ……騎士さんとオレで協力プレイするってのはどう?」
あんまりにも打ちひしがれた様子が気の毒になって、オレはとっさに思いつきの提案を口に出してしまった。
「……協力だと?」
騎士は凜々しい眉の間に深い皺を寄せて顔を上げる。オレは顎に手をやって考えながら話し出した。
「そう。オレの願いは、絶対アンタには譲れないけど、すごく個人的な小さいお願い事なんだ。アンタの願い事も、恋人を自由にしてやりたいってだけだろ? どちらも大それた願い事じゃない。オレの持ってる命願石は特別製みたいだから、小さなお願いなら、二つを同時に叶える方法があるかも知れないじゃん?」
「まさか! 二つの望みを同時に叶えるなど、聞いたことが無い」
騎士は馬鹿にしたように吐き捨てたけど、オレは割と真剣だった。
「石を譲れって言うけどさ、アンタはこの石に触れないだろ。触ろうとしたら、さっきみたいに電撃で追い払われる。どうやって持ち運ぶんだよ? オレを殺したら奪うことはできるかも知れないけど、オレの死と同時に石が効力を失う可能性もあるよ。アンタが望みを叶えるには、オレに協力するしかなくない?」
オレの指摘に、騎士は思いきり舌打ちしてそっぽを向いた。オレは気にせず続ける。
「オレはオレで、この世界のことをほとんど知らない。一人で冒険に出ても、他の巡礼者を出し抜けるとはとても思えない。滅石を一番多く集めないと願いが叶わないんだから、協力するのが一番望みに近いんじゃないかと思うんだけど……」
そこまでオレの考えを話すと、騎士は考え込むように顎に手を当て、
「……お前の叶えたい望みとは、なんだ」
と聞いてきた。
「うっ……!」
オレは思わず言葉に詰まる。
そりゃ聞かれるよな。目的が何か分からない人間とは協力したくないもんな。
でも、このシリアスな雰囲気の中、ちんちんつけて欲しいだけですとはとても言い出せない。
「それは……言えない。とても個人的なことだから」
騎士は忌々しげに舌打ちし、
「お前の望みが分からないなら、協力することなど出来ないだろうが!」
と怒鳴った。
「それはそうなんだけど……! でもオレはそっちの望みを知ってるから、両方叶える方法はオレが考えれば良いじゃん! オレだってフィオレラには幸せになって欲しいし!」
オレも後に退けなくて騎士と額を付き合わせる勢いで怒鳴り返す。
「お前のような下郎に、大聖女の名を呼ぶ資格はない!」
「怒るとこソコかよ!? いや、オレはアンタとフィオレラ様の恋路を邪魔する気は無いから。冷静に考えよう」
オレはエロゲ愛好家だが性癖はいたってノーマルなので、NTR(寝取られ)やBSS(僕が先に好きだったのに)には興味ない。正ヒロインは主人公とくっついてくれて良い。むしろフィオレラはゲームで攻略済みなので、残ったフリーの女の子に会って攻略したい気持ちが強い。というか、攻略する前に願いを叶えてちんちんを取り戻さねばならないのだ!
騎士はオレから少し距離を取って立ち上がり、顎に手を当てて考え込んだ。オレも立ち上がって握りしめていた石をポケットにしまい直し、ずっと黙ったまま横にいたカレルの存在をようやく思い出した。
「……カレルはどうする……?」
なんとなく後ろめたい気持ちでひげもじゃの顔を見上げると、カレルは
「どうもしない。アキオがそこの騎士と旅に出るなら、オレは自分の仕事に戻るだけだ」
と首を振る。それにオレが言葉を返す前に、騎士が割り込んできた。
「それは認められんな。お前にはスパイ容疑がかかっている。ここを出れば、私の手の者がお前を捕らえて再び投獄する手はずになっている。逃げられると思うなよ」
「は、タダの人間風情が偉そうに」
剣呑な二人の目線がぶつかり合い、見えない火花が散るようだ。オレはその間に立って、二人を交互に睨み、大声で言った。
「やーめーろーよー! どうせならカレルにも協力してもらった方がいいよ! せっかく知り合ったんだから、仲良くしよう!」
「協力!? この混ざり者とか? はっ、とんでもない話だ」
「オレはファタリタの人間と手を結ぶ気は無い」
「もおお~! カレルの仕事は命願教の秘密を探ることだよな? そんで、騎士さんは命願教の教義に反して大聖女を役目から解放したいんだろ? どっちも鍵になるのは命願教の秘密だ。だったら協力した方が効率が良いと思わないか!?」
オレは二人に指を突きつける。カレルはしばらく騎士の方を睨んでいたが、ふと表情を緩めて
「分かった。オレはアキオに協力する。アキオはファタリタの人間だが、命願教の毒におかされていないようだから」
とオレにだけ頷いて見せた。
騎士はしばらく苦虫を噛みつぶしたような顔で地面を睨んでいたが、
「……ちっ、分かった。そちらに有利すぎる気がするが、私には他に手がない。お前の言うとおりにしよう」
と、呟いた。
「よーし、じゃ、これから協力して頑張っていこーぜ!」
ようやくなんとか話がまとまった。オレは二人に向かって手を差し出したが、握ってくれたのはカレルだけだった。
初期パーティーはひげもじゃの熊男と、元主役のイケメン騎士、レベル1モブのオレ。本来なら美少女と度に出るはずなのに、何故か男ばかりで残念だけど、ようやくこれからオレの異世界での冒険が始まるんだ!
1
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
前夜 ~敵は本能寺にあり~
四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】
織田信忠は、本能寺の変の前夜、父・信長を訪れていた。そして信長から、織田家の――信忠の今後と、明智光秀の今後についての考えを聞く。それを知った光秀は……。
【表紙画像・挿絵画像】
「きまぐれアフター」様より
待庵(たいあん)
四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】
千宗易(後の利休)は、山崎の戦いに臨む羽柴秀吉から、二畳の茶室を作るよう命じられる。この時代、茶室は三畳半ぐらいが常識だった。それよりも狭い茶室を作れと言われ、宗易はいろいろと考える。そして、秀吉の弟・羽柴秀長や、秀吉の正室・ねねに会い、語り、宗易はやがて茶室について「作ったる」と明言する。言葉どおり完成した茶室で、宗易は茶を点て、客を待つ。やって来た客は……。
【表紙画像】
「ぐったりにゃんこのホームページ」様より
実はこれ実話なんですよ
tomoharu
恋愛
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!1年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎ智伝説&夢物語】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎ智久伝説&夢物語】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【智久】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
織田家の人々 ~太陽と月~
四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】
(第一章 太陽の音を忘れない ~神戸信孝一代記~)
神戸信孝は織田信長の三男として知られる。彼は、庶子でありながら、嫡出である信忠・信雄についだ格付けを得るまでにのし上がっていた。
その最たるものが四国征伐であり、信孝はその将として、今、まさに四国への渡海を目前としており、その成功は約束されていた――本能寺の変が、起こるまでは。
(第二章 月を飛ぶ蝶のように ~有楽~)
織田有楽、あるいは織田有楽斎として知られる人物は、織田信長の弟として生まれた。信行という兄の死を知り、信忠という甥と死に別れ、そして淀君という姪の最期を……晩年に京にしつらえた茶室、如庵にて有楽は何を想い、感じるのか。それはさながら月を飛ぶ蝶のような、己の生涯か。
【表紙画像】
歌川国芳, Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で
剣客逓信 ―明治剣戟郵便録―
三條すずしろ
歴史・時代
【第9回歴史・時代小説大賞:痛快! エンタメ剣客賞受賞】
明治6年、警察より早くピストルを装備したのは郵便配達員だった――。
維新の動乱で届くことのなかった手紙や小包。そんな残された思いを配達する「御留郵便御用」の若者と老剣士が、時に不穏な明治の初めをひた走る。
密書や金品を狙う賊を退け大切なものを届ける特命郵便配達人、通称「剣客逓信(けんかくていしん)」。
武装する必要があるほど危険にさらされた初期の郵便時代、二人はやがてさらに大きな動乱に巻き込まれ――。
※エブリスタでも連載中
加藤虎之助(後の清正、15歳)、姉さん女房をもらいました!
野松 彦秋
歴史・時代
加藤虎之助15歳、山崎シノ17歳
一族の出世頭、又従弟秀吉に翻弄(祝福?)されながら、
二人は夫婦としてやっていけるのか、身分が違う二人が真の夫婦になるまでの物語。
若い虎之助とシノの新婚生活を温かく包む羽柴家の人々。しかし身分違いの二人の祝言が、織田信長の耳に入り、まさかの展開に。少年加藤虎之助が加藤清正になるまでのモノカタリである。
日日晴朗 ―異性装娘お助け日記―
優木悠
歴史・時代
―男装の助け人、江戸を駈ける!―
栗栖小源太が女であることを隠し、兄の消息を追って江戸に出てきたのは慶安二年の暮れのこと。
それから三カ月、助っ人稼業で糊口をしのぎながら兄をさがす小源太であったが、やがて由井正雪一党の陰謀に巻き込まれてゆく。
月の後半のみ、毎日10時頃更新しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる