結婚六カ年計画

魂祭 朱夏

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小学校編

結婚六カ年計画 30-12 from 2016.07

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 2017年3月26日 日曜日。 9時。


 天気は晴天。
 旅立つのに丁度良い日である。

 
 長かった、と思いながら待ちわびたこの日。
 今日は左右さんの娘として彼の家へ引っ越すのだ。
 同時に、パドス孤児院から出る日でもある。
 昨夜は久しぶりに院長先生の部屋で寄り添いながら眠った。

 
「寂しくなるわ。時々遊びに来るのよ?」
「はいっ。院長先生も遊びに来てください」
 およそ六カ月ずっと考えていた。
 院長先生に気持ちを打ち明けて、どうやって六年後に私が望む結末を得られるかを。
 

「頑張るのよ。もたもたしてたら私が奪い取っちゃうんだから」
「分かってます。でも私、負けません」
 養子に入ったら結婚が出来ないのではないか……と思ったが、深く調べた所クリア出来るコトに気付く。だいぶ運も絡むけど。
 

「梨杏」
「院長先生、どうしましたか?」
 先生の言葉が詰まる。
 でも彼女は、声を湿らせながらも私の頭を撫でて伝えてくれた。
「私だって、あなたのお母さんなのよ」
 彼女の涙腺が崩壊して白い肌を涙が伝う。
 私も言葉が詰まり感動し、もらい泣きした。
 嬉しい時の涙は流していいのだ。

 
「ありがとうございます、ママ。私頑張ります」
 
 暫く二人涙を流していると、左右さんが迎えに来た。
 

 *******


「梨杏ちゃん、大丈夫?」
 
 時間通に孤児院へ迎えに来ると目が赤く腫れたリースさんと梨杏ちゃんが笑顔で迎えてくれた。
 多分、別れを惜しんで泣いていたのかなと思う。
「市内は久しぶりです。時々院長先生と買い物に行ってましたが楽しみですっ」
 行儀良く助手席に座り、いつもの様ににこにこする少女。
 僕に気を遣ってるし少しでも早く寂しさを紛らわせてあげたい。
 作り笑いなんてさせない様に、これからは僕がしっかりしないといけないのだ。

「梨杏ちゃん。これからは僕の事をパパって呼んで良いからね。敬語も不要だよ?」
「パパ、ってお呼びしても宜しいのですか?」
 彼女の大きな目がきらきらと輝く。
 内心、気持ち悪いと思われないか心配だったけど思い切って言って良かった。
「うん。君はもう僕の娘だからね」
「はいっ。私はもうパパのものです」
 ん? と思いながらも梨杏ちゃんが本心から喜んでいる様で良かった。


 孤児院から30分程走り、中心部のマンションへ到着。
 休日なので人も多い。
 
 駐車場で梨杏ちゃんの大きなキャリーバックを降ろし、引きながらエレベーターで12階まで移動し、僕が住む部屋の玄関まで帰ってきた。
「着いたよ、移動お疲れ様」
 鍵を開け先に中へ入る。早起きして掃除は済ませておいたので変な物は落ちてないだろうとは思うけど、正直不安だ。
「お邪魔します。凄く部屋が広いし綺麗に片付いてますね」
 良く言えば整頓されていて、悪く言えば殺風景な家。
 小次郎兄さんからはまるでミニマリストの部屋だと言われた事もある、空っぽだった僕の様な室内である。
 でも、これからは梨杏ちゃんが居る。
「梨杏ちゃんの部屋はココだよ。ベッドや机、家具は僕が勝手に買っちゃったけど大丈夫だったかな」
「あ、有難う御座います。私なんか為にココまでして頂いて嬉しいです」
 僕は首を横に振った。

 
「なんか、じゃないよ」
 梨杏ちゃんの小さな背中に軽く手を当てる。
 
 
「戸籍上も僕達は本物の親子になったんだから、僕に何も遠慮しなくて良いんだからね」
「は、はいっ、パパ」
 きっと彼女の事だからどうしても萎縮してしまうだろう。
 少しずつ、時間をかけてもその距離を縮めていきたいと僕は強く思った。
 敬語は少し時間がかかりそうかなぁ。



 ******


 結婚六カ年計画。
 同棲開始と言う『はじめの計画』から始まり、凡そ6年かけて私が左右さんのお嫁さんになるための壮大な計画である。
 好きなだけでは上手く行かないと思うけど、今は期待で胸が一杯だ。



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