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小学校編
結婚六カ年計画 30-11 from 2016.07
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2016年7月18日 月曜日。 20時00分。
夕食を食べてお風呂も借り、孤児院の借りた部屋に戻る。
後は眠るだけだが、こんな早い時間にベッドの上で横になる事も久し振りである。
それにしても、大変な2週間だったと思う。
こんな事は初めてだ。
初めてパドス孤児院で商談をして、商談自体はトントン拍子が決まったけど孤児院の子が反社まがいの解体業者に攫われて、その子を命懸けで助けて……本当に大変だったが、結果的に大団円で納まった。
明日休み、明後日からわたぬき商事で再びいつも通りに働き始める。
だいぶ早いが今日はもう、寝てしまおうか。
コンコン。
扉を2回叩く音がした。
「はい、起きてますよー」
僕が扉に向かって伝えると、ゆっくりと開く。
「夜分申し訳ありません、左右さん」
水色の薄いパジャマを着た梨杏ちゃんが申し訳なさそうな表情で僕を見上げていた。
「梨杏ちゃん……」
僕は彼女を招き、二人でベッドに腰かけた。
「どうしたの?」
僕は怖がらせない様に優しく尋ねる。
「そ、その……お話があります」
梨杏ちゃんは隣で視線を自分の膝元に向け、落ち着かないのか指を動かしもじもじしている。伝えづらい事なのだろうか。
「分かった。大丈夫だから落ち着いて話してね」
「は、はいっ」
この子は僕がイメージする「こども」よりずっと大人びていて、頭が良い。
本人は否定しているが、武田を投げる前に金城の指を噛みついて気を引いてくれたのはこの子の機転である。
そんな彼女が僕なんかを前にもじもじしたり顔を赤くしたりするのもおかしいが、どんな事を伝えたいのかなと興味があった。
明日でお別れでもある。
僕は、せわしなく動く少女の手を両手で握り、再び囁いた。
「梨杏ちゃん。僕は君の味方だから大丈夫だよ。安心して」
「…………」
触れた瞬間、梨杏ちゃんはびくりと反応するがようやく僕を向く。
不用意に触れてしまったために驚かせてしまい申し訳ないなと思いながらも彼女はその綺麗な青い瞳で僕をじっと見つめていた。
話す準備が出来た様だった。
「左右さん。私のパパになって頂けませんか?」
「えっ……ええっ?!」
予想外の言葉。
僕は驚いてついて声を出してしまった。
確かにこの子はいつか、養子として巣立たなければいけない筈だけど、まさか僕なんかに……。
「申し訳御座いません。突然、ご迷惑だと思いますがこの気持ちをお伝えしたくて尋ねさせて頂きました。でも私、今回助けて頂いた事もありましたが、初めてお会いした時に感覚的にこの方だと思ったのです」
本当にうちの真田よりも丁寧な言葉遣いだなぁと感心しながらも、その理由に妙に納得してしまう。僕も梨杏ちゃんと会った時、ピンとくるものがあったからだ。
理屈ではなく、説明が難しい何か。
でも僕は冷静に考える。
梨杏ちゃんを引き取ったとして、市内のマンションで一緒に暮らして、学校は白藤小へ通う事になるかな。子供……ましてや女の子なんて育てた事が無いし、どう接すればいいか分からない。
何より、僕は彼女を幸せにしてあげられるのだろうか。
今度は、僕が焦り言葉が詰まってしまった。
「……申し訳ありません。やはり、無理ですよね」
梨杏ちゃんは俯き、そのまま黙ってしまう。
直後、梨杏ちゃんの手に重ねている僕の手の甲に、ぽたぽたと温かい液体が落ちる。涙だ。
「うぅ……ごめんなさい、左右さんを困らせてしまって…………」
「ああっ、ご、ごめんそんなつもりじゃ――――」
泣かせてしまった。
同時に胸が締め付けられ殴られて骨折した時よりも苦しくなる。
はっ、と僕は気付く。
つい先日、殺されかける位に無理をしてまで僕は、この子を救いたいと思ったんだ。
今だってとても居た堪れない気持ちだ。
でも、この胸の痛みがきっと答えなのだと僕は気付いたのだ。
「……本当に僕で、良いの?」
梨杏ちゃんは見上げ、再び僕の顔を見る。
綺麗な顔が涙に濡れ、目が兎の様に赤い。
慌てて僕はハンカチを取り出し、梨杏ちゃんの涙を拭いた。
「僕は兄弟が男しか居ないから女の子の扱いだってよく分からないんだ。普段は仕事をしているから寂しい思いだってさせてしまいそうだし父親として期待に応えられないと思うけど、それでも梨杏ちゃんは、僕の娘になってくれるの?」
梨杏ちゃんの目に気持ちが籠る。
そして、彼女ははっきりと僕に言った。
「私、左右さんと家族になりたいです」
僕は梨杏ちゃんの頬を撫でる。今度は頬が赤くなった。
「僕も、梨杏ちゃんと家族になりたいな」
「……嬉しいです」
彼女は僕に抱き着き、暫くの間離れなかった。
夕食を食べてお風呂も借り、孤児院の借りた部屋に戻る。
後は眠るだけだが、こんな早い時間にベッドの上で横になる事も久し振りである。
それにしても、大変な2週間だったと思う。
こんな事は初めてだ。
初めてパドス孤児院で商談をして、商談自体はトントン拍子が決まったけど孤児院の子が反社まがいの解体業者に攫われて、その子を命懸けで助けて……本当に大変だったが、結果的に大団円で納まった。
明日休み、明後日からわたぬき商事で再びいつも通りに働き始める。
だいぶ早いが今日はもう、寝てしまおうか。
コンコン。
扉を2回叩く音がした。
「はい、起きてますよー」
僕が扉に向かって伝えると、ゆっくりと開く。
「夜分申し訳ありません、左右さん」
水色の薄いパジャマを着た梨杏ちゃんが申し訳なさそうな表情で僕を見上げていた。
「梨杏ちゃん……」
僕は彼女を招き、二人でベッドに腰かけた。
「どうしたの?」
僕は怖がらせない様に優しく尋ねる。
「そ、その……お話があります」
梨杏ちゃんは隣で視線を自分の膝元に向け、落ち着かないのか指を動かしもじもじしている。伝えづらい事なのだろうか。
「分かった。大丈夫だから落ち着いて話してね」
「は、はいっ」
この子は僕がイメージする「こども」よりずっと大人びていて、頭が良い。
本人は否定しているが、武田を投げる前に金城の指を噛みついて気を引いてくれたのはこの子の機転である。
そんな彼女が僕なんかを前にもじもじしたり顔を赤くしたりするのもおかしいが、どんな事を伝えたいのかなと興味があった。
明日でお別れでもある。
僕は、せわしなく動く少女の手を両手で握り、再び囁いた。
「梨杏ちゃん。僕は君の味方だから大丈夫だよ。安心して」
「…………」
触れた瞬間、梨杏ちゃんはびくりと反応するがようやく僕を向く。
不用意に触れてしまったために驚かせてしまい申し訳ないなと思いながらも彼女はその綺麗な青い瞳で僕をじっと見つめていた。
話す準備が出来た様だった。
「左右さん。私のパパになって頂けませんか?」
「えっ……ええっ?!」
予想外の言葉。
僕は驚いてついて声を出してしまった。
確かにこの子はいつか、養子として巣立たなければいけない筈だけど、まさか僕なんかに……。
「申し訳御座いません。突然、ご迷惑だと思いますがこの気持ちをお伝えしたくて尋ねさせて頂きました。でも私、今回助けて頂いた事もありましたが、初めてお会いした時に感覚的にこの方だと思ったのです」
本当にうちの真田よりも丁寧な言葉遣いだなぁと感心しながらも、その理由に妙に納得してしまう。僕も梨杏ちゃんと会った時、ピンとくるものがあったからだ。
理屈ではなく、説明が難しい何か。
でも僕は冷静に考える。
梨杏ちゃんを引き取ったとして、市内のマンションで一緒に暮らして、学校は白藤小へ通う事になるかな。子供……ましてや女の子なんて育てた事が無いし、どう接すればいいか分からない。
何より、僕は彼女を幸せにしてあげられるのだろうか。
今度は、僕が焦り言葉が詰まってしまった。
「……申し訳ありません。やはり、無理ですよね」
梨杏ちゃんは俯き、そのまま黙ってしまう。
直後、梨杏ちゃんの手に重ねている僕の手の甲に、ぽたぽたと温かい液体が落ちる。涙だ。
「うぅ……ごめんなさい、左右さんを困らせてしまって…………」
「ああっ、ご、ごめんそんなつもりじゃ――――」
泣かせてしまった。
同時に胸が締め付けられ殴られて骨折した時よりも苦しくなる。
はっ、と僕は気付く。
つい先日、殺されかける位に無理をしてまで僕は、この子を救いたいと思ったんだ。
今だってとても居た堪れない気持ちだ。
でも、この胸の痛みがきっと答えなのだと僕は気付いたのだ。
「……本当に僕で、良いの?」
梨杏ちゃんは見上げ、再び僕の顔を見る。
綺麗な顔が涙に濡れ、目が兎の様に赤い。
慌てて僕はハンカチを取り出し、梨杏ちゃんの涙を拭いた。
「僕は兄弟が男しか居ないから女の子の扱いだってよく分からないんだ。普段は仕事をしているから寂しい思いだってさせてしまいそうだし父親として期待に応えられないと思うけど、それでも梨杏ちゃんは、僕の娘になってくれるの?」
梨杏ちゃんの目に気持ちが籠る。
そして、彼女ははっきりと僕に言った。
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僕は梨杏ちゃんの頬を撫でる。今度は頬が赤くなった。
「僕も、梨杏ちゃんと家族になりたいな」
「……嬉しいです」
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