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小学校編
結婚六カ年計画 30-3 from 2016.07
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2016年7月7日 水曜日。 9時30分。
勤務先のわたぬき商事から社用車で斯波の孤児院へ向かう。
まだ梅雨の最中で今にも雨が降りそうである。
約束の10時前に孤児院へ到着した。
が、様子がおかしい。何故か門が締まっている。
僕は院長先生に電話を掛けた。先生はすぐ出た。
「……華燭さん。申し訳ございません、本日お見積もりを持参して頂く予定でしたよね。今、門を開けます」
「ええ、宜しくお願いします」
通話が切れる。先生の声は明らかに落ち込んでいる様で、先日話した際の聡明さが感じられない。
何か、あってしまったのか。
程無くして門が開き、僕は敷地に入り建物の打ち合わせ室に通された。
「……おはようございます、華燭さん」
相変わらず美しい院長先生。
が、三日前とは違い今日はどこか疲れ切った表情を浮かべ、体に力が入っていない様にも見える。思わず僕は聞いた。
「リースさん、どうしたんですか?」
先生は俯き、声が詰まる。
彼女の返事の前に、大きな瞳からぽろぽろと涙が零れ始めた。
まさか、と渉の話が頭を過る。嫌な予感がする。
「孤児院の子供が一人、居なくなったんです」
「ええっ?」
金城組とは関係無さそうだが事件が起きていた様だ。
すぐさま僕も探しますと院長先生に伝える。
が、もっと複雑の様だ。
「庭で読書をしている時に、黒いベンツから降りてきた大柄の男性が手を引いて連れて行ってしまったそうです。恐らく――」
「――金城組ですか? 三日前のあいつ等ですね!」
「は、はい。ご存知でしたか?」
結局、渉が危惧していた通りになってしまったか。
取り敢えずあいつに連絡し、県警に対応して貰うのが良さそうだ。
が、先生の次の一言で僕は冷静さを失う。
「リアン、お願い、無事で居て」
「…………!」
あの子が?
たった数回話しただけなのに、どう言う訳か急に怒りが込み上げてくる。
それも殺意に近い強さだ。
最後僕に見せた笑顔が歪むコトなんて絶対に起きてはいけないと強く思った。
「先生、僕が行ってきます」
「華燭さん、危険です」
当然先生は静止する。
が、僕は怒りながらも冷静にどう対処するか頭を回転させながら考えた。
先ずは渉に連絡をし、会社には飛び込み営業に行くと報告して――。
大丈夫。きっと上手く行く。
「大丈夫です、リースさん。僕が必ず梨杏ちゃんを助けます。
県警の友人に通報しますし無理はしません」
「……この前、あの子と話したのですね」
「はい」
僕は頷くと先生も涙が止まり、頷く。彼女も覚悟した様である。
先生はゆっくりと口を開いた。
「以前からもいやがらせを受けていたのですが……三日前にここへ来た時、この場所を出ろと言われました。それが出来なければリアンを養子にさせろ、と」
「なんて奴なんだ」
怒りが更に増す。先生は首を軽く縦に振り再び話を続けた。
「彼女は聞いていたのでしょう。それで私に悟られない様に金城さんに電話をかけて自分を迎えに来て貰った。そうだとしか思えません。
あの子は生まれてすぐ両親が亡くなり、5年近く前に唯一の肉親だった祖母がお亡くなりになり縁があり私が引き取りました。
皆が養子になりココを去っていく所をあの子は残り、同じ孤児達の面倒を見てくれる優しい子なんです。
だから――」
再び、院長先生の頬から涙が零れ落ちた。
勤務先のわたぬき商事から社用車で斯波の孤児院へ向かう。
まだ梅雨の最中で今にも雨が降りそうである。
約束の10時前に孤児院へ到着した。
が、様子がおかしい。何故か門が締まっている。
僕は院長先生に電話を掛けた。先生はすぐ出た。
「……華燭さん。申し訳ございません、本日お見積もりを持参して頂く予定でしたよね。今、門を開けます」
「ええ、宜しくお願いします」
通話が切れる。先生の声は明らかに落ち込んでいる様で、先日話した際の聡明さが感じられない。
何か、あってしまったのか。
程無くして門が開き、僕は敷地に入り建物の打ち合わせ室に通された。
「……おはようございます、華燭さん」
相変わらず美しい院長先生。
が、三日前とは違い今日はどこか疲れ切った表情を浮かべ、体に力が入っていない様にも見える。思わず僕は聞いた。
「リースさん、どうしたんですか?」
先生は俯き、声が詰まる。
彼女の返事の前に、大きな瞳からぽろぽろと涙が零れ始めた。
まさか、と渉の話が頭を過る。嫌な予感がする。
「孤児院の子供が一人、居なくなったんです」
「ええっ?」
金城組とは関係無さそうだが事件が起きていた様だ。
すぐさま僕も探しますと院長先生に伝える。
が、もっと複雑の様だ。
「庭で読書をしている時に、黒いベンツから降りてきた大柄の男性が手を引いて連れて行ってしまったそうです。恐らく――」
「――金城組ですか? 三日前のあいつ等ですね!」
「は、はい。ご存知でしたか?」
結局、渉が危惧していた通りになってしまったか。
取り敢えずあいつに連絡し、県警に対応して貰うのが良さそうだ。
が、先生の次の一言で僕は冷静さを失う。
「リアン、お願い、無事で居て」
「…………!」
あの子が?
たった数回話しただけなのに、どう言う訳か急に怒りが込み上げてくる。
それも殺意に近い強さだ。
最後僕に見せた笑顔が歪むコトなんて絶対に起きてはいけないと強く思った。
「先生、僕が行ってきます」
「華燭さん、危険です」
当然先生は静止する。
が、僕は怒りながらも冷静にどう対処するか頭を回転させながら考えた。
先ずは渉に連絡をし、会社には飛び込み営業に行くと報告して――。
大丈夫。きっと上手く行く。
「大丈夫です、リースさん。僕が必ず梨杏ちゃんを助けます。
県警の友人に通報しますし無理はしません」
「……この前、あの子と話したのですね」
「はい」
僕は頷くと先生も涙が止まり、頷く。彼女も覚悟した様である。
先生はゆっくりと口を開いた。
「以前からもいやがらせを受けていたのですが……三日前にここへ来た時、この場所を出ろと言われました。それが出来なければリアンを養子にさせろ、と」
「なんて奴なんだ」
怒りが更に増す。先生は首を軽く縦に振り再び話を続けた。
「彼女は聞いていたのでしょう。それで私に悟られない様に金城さんに電話をかけて自分を迎えに来て貰った。そうだとしか思えません。
あの子は生まれてすぐ両親が亡くなり、5年近く前に唯一の肉親だった祖母がお亡くなりになり縁があり私が引き取りました。
皆が養子になりココを去っていく所をあの子は残り、同じ孤児達の面倒を見てくれる優しい子なんです。
だから――」
再び、院長先生の頬から涙が零れ落ちた。
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