結婚六カ年計画

魂祭 朱夏

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小学校編

結婚六カ年計画 30-2 from 2016.07

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 2016年7月4日 月曜日。 10時25分。


 大きく青い瞳は、驚きを隠せぬ表情を浮かべたまま、僕をじっと見る。
 もしかして怖がらせてしまったかな?
 すぐ謝ろうとすると突然風が吹き、少女が被っている麦わら帽子がふわりと浮かび上がる。
 すかさず僕は帽子をキャッチし、少女に再び被せてあげた。

「あ、ありがとうございます……」
 か細く消え入りそうな声お礼を言う少女。
 やはり急におじさんが迫ってきたら当然怖いだろうし、少女に申し訳なく思った。
「ご、ごめんね。驚かせちゃって……熱中症にならない程度、読書、楽しんでね」
「はい、有難う御座います」
 熱中症って言葉は難しかったかな? と思いながらもしっかりとした口調で、しかも敬語で話す礼儀正しい女の子だなぁと思いながらも僕はリースさんの所に戻ろうとする。
 歩き出し始めてから、後ろから少し声を張り上げた少女の声が聞こてきた。

 
「あ、あのう、お名前をお聞きしても構いませんか?」
「僕? 華燭 左右(かしょく さすけ)だよ。君は?」
 名乗ると少女は頬を赤く染め、はにかんだ笑顔を見せる。
 ヘンな事は言ってないよなと思っていると彼女も名乗ってくれた。
「向山 梨杏(こうやま りあん)です」
「名前も可愛いなぁ。宜しくね、梨杏ちゃん」
「は、はいっ」
 何故か胸が温かくなる。
 僕は梨杏ちゃんに手を振ると彼女の頬が緩み、眩しい笑顔を向けてくれた。


 僕は院長先生の所に戻り、会社に帰るため挨拶をして孤児院の門から出ようとする。
 丁度僕が門を出た所、猛スピードで狭い道路を走る黒いベンツが門を潜る。
 乱暴な運転で、危うく轢かれそうになり何事だと孤児院の前に停車したベンツを見ると、後部座席からは小太りで髪の薄い初老の男が。
 運転席からは体の大きなサングラスの男が現れ中に入っていった。いかにもな風貌の二人である。

 少し気になったが、きっと事情があるのだと思い僕はそのまま会社へ戻った。

 
 ******


 同日 20時30分。

 久し振りに同郷の、県警に勤める幼馴染の上杉(かみすぎ)と二人で飲む事になった。相変わらず相手の予定を考えず、急な連絡をしてくる奴だ。

「久しぶりだな、渉(わたる)」
「よう、左右。お前全然変わんねぇな。俺なんて最近白髪が増えた増えた」
「良く言うぜ、サボってばかり居る奴が」

 昔からどうもコイツの前だけではくだけた態度になってしまう。
 保育園から小学校、中学校、高校、はたまた大学まで同じと言う腐れ縁で昔からよく遊んでよく喧嘩もした。
 中学生の時に煙草をくわえながら原付で通学していたこいつが、まさかキャリア組の警察官になるなんて誰も思わなかった。悪には悪の考えがよく理解できると言うコトか。

 今日は夜でも蒸し暑く、兎に角酒だと夜の飲食店が並ぶ精華町で飲む事にした。
 最近の仕事の事、故郷の事、思い出話、互いのプライベートの現状等持ち出してそれなりに盛り上がる。
 それにしても相変わらず女好きで下品な話が好きな奴だ。

 
「ところで、左右よ。年上の美人の知り合いは居ないのか?
 紹介してくれよ」
「はぁ? どうしてお前に紹介しないといけないんだよ。年上なんて心当たり――」
 ふと、孤児院のリース院長先生が頭に浮かぶ。
 20代としか思えぬ容姿に抜群のプロポーション。こいつには勿体ない美人である。
「――居るんだな? お前、嘘吐けないからすぐ分かるぜ」
「ぐっ、居るには居るんだけど……そういえばその人の所に今日仕事の打ち合わせで行ったんだけど、帰り際に変な二人組が乗ったベンツで轢かれそうになったな」

「変な奴?」
 酒で赤面している渉の表情が急に引き締まる。
 心当たりがあるか、何かピンと来た様だ。
「そいつ等、どんな奴等だったんだ?」

 僕は二人の容姿や車のナンバー等を伝える。
 すると急に渉は手帳を取り出し、メモを書き始めた。
 あいつ等……とぼやいた渉に僕は心当たりがあるのかと問う。

「なぁ、左右。もしお前が今取引をしているパトス孤児院とそいつ等がトラブルを起こしそうだったら俺に連絡しろ。いいな?」
「あ、ああ。一体、誰なんだ?」
 渉の言葉が止まる。 多分、言って良いのか悪いのかを考えている。
 が、すぐに切り替えたようで僕に話した。

「お前が見た、ちっこいオヤジが金城って奴だ。あの辺りを牛耳ってる金城組って言う解体業者の社長で、とても顔が利く。
 県庁、土木事務所、水道局、国交省と取り巻きが居る様で甘い汁を吸わせる代わりに好物件の土地があれば住民が居ようが強制的に追い出し、利益を上げているあこぎな奴だ」
「そんなにやばい奴なのか? だったらどうして野放しにしてるんだよ!」
 酒が入っているせいもありやや言葉が強くなる。
「今までは好きにさせていたが今度はそうはいかねぇ。
 それにあくまでも、もしもの話だ。ただ孤児院ってコトは、ある程度好条件の敷地に建てられている可能性が高いから念のため注意した方が良い。
 まぁ、ただの取引先に過ぎないお前には関係ない話かもしれないが、営業の時に奴等を見かけたらそのコトを教えてくれって話だよ」
「わ、分かったよ」


 ******


 その後、少し飲んでから僕達は別れ、家に帰る。
 確かに今日顔を会わせたばかりのイチ顧客であり、もしかしたらあの孤児院は危険な状態なのかも知れないがそれは渉みたいな奴が助ける存在であり、話を聞いたからと言って僕が何を出来るんだと思う。


 でも。
 それでも何故か、眠ろうと目を瞑るとあの少女の姿が脳裏に浮かんだ。
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