結婚六カ年計画

魂祭 朱夏

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小学校編

結婚六カ年計画 24

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 2017年8月16日 水曜日。11時。

 
 左右さんと一緒に故郷の斯波に到着。
 今日は両親、祖父母のお墓参り。
 左右さんに、私の家族を紹介する為に連れて来て貰ったのだ。
 
 おじいちゃんは私が生まれる前に亡くなり、
 お父さんとお母さんは私が2歳の頃に亡くなり、
 おばあちゃんは私が5歳の頃に亡くなり、親戚は居ない。


 田園風景の中にぽつりとあるお寺と墓地。
 線香とお菓子、お墓を磨く為の清掃用具を持ち家族が眠る墓前に辿り着いた。
 四人の名前が書かれている。

「パパ、御紹介致します。私の両親とおばあちゃんです。おじいちゃんとはお会いしたコトがありません」
 
 向山 翔(こうやま かける) 2009年6月21日 享年30歳
 向山 Emma(こうやま エマ) 2009年6月21日 享年30歳
 向山 優子(こうやま ゆうこ) 2012年12月10日 享年56歳
 向山 茂(こうやま しげる) 2005年7月19日 享年49歳

 両親は海外で死亡しており、祖母が現地へ行って二人の左手薬指の骨と結婚指輪を持ち帰りここに眠っている。
 お母さんはフランス人でリース院長先生と親友である。

 左右さんが墓前で両手を合わせた。


「梨杏ちゃんのご両親様、ご祖父母様。
 皆様の大切な忘れ形見であるこの子を預からせて頂いている華燭左右と申します。
 若輩者でまだまだ未熟では御座いますが、梨杏ちゃんの幸せの為に奮闘を……いいえ、僕の生涯を賭けて彼女を幸せにする事を此処で誓います。
 なので、どうか僕達を御見守りください」

 真剣な表情で墓前に語る左右さん。
 まるで娘の両親に結婚の挨拶の言葉を伝えている男性の様な言葉に思わず私は照れてしまう。
 最近この手の発言が多いので、本当に私と結婚を意識しているではと期待しそうになる。
 心の中で私は家族に「私、この人と結婚して幸せになります」と語り、私も墓前に両手を合わせた。


「……梨杏?」
 真白なワンピースを身に纏った院長先生が線香と花束を持っていた。
「院長先生、こんにちは」
「こんにちは、梨杏。左右さんもお元気そうで何よりです」
「ワンピースがとてもお似合いです。リースさんもお墓参りで?」
 相変わらずお上手ですね、と先生は左右さんに返す。
 パパと院長先生の大人同士の接し方に憧れを感じつつも少し嫉妬心も芽生えた。

「リースさんも今日、お墓参りに?」
「はい。友人が此処に眠っているので時々来てるんです。
 梨杏の母のエマと私は幼馴染なんです」
 左右さんは驚きを隠せずにいる。
「私とエマはパリで産まれ育ち、共にこの日本の首都である中都大学へ留学しました。私は経済学、エマは医学を学ぶために。
 在学中、エマは同じ医学部だった翔さんと出会い、後に梨杏が生まれたのです」
 私は両親の出会いについて院長先生から聞いていたので特段思うところはなかったが、左右さんは衝撃的だったらしい。
 一応この日本で最も偏差値が高く、入学が難解ではある大学だからだろう。
 正直な所、今すぐ入試を受けたとしてもほぼ確実に私は満点に近い点数で入学が可能である。

「ご両親はとても優秀な方だったんですね。リースさんも中都大学なんですか、凄いです。僕は陸宮大出身で……。梨杏ちゃんは飛びぬけて優秀なので納得しました」
 左右さんに褒められ頬が熱くなる。直前まで先生との大人のやり取りを見てやきもちを焼いていたのに、自分はつくづく弱いなぁと感じた。
 因みに、陸宮大学も中都大と並び旧帝国大のひとつに数えられているので入学するのに努力は必要である。やはり左右さんは素敵だ。

 
 ******


 お墓を後にして院長先生を連れ、三人で昼食を食べに行く。その後は孤児院へ院長先生を送り、後は帰る予定だ。
 孤児院前で院長先生にお別れの挨拶をして左右さんが車に戻った直後、先生に手を引かれ戻るのを止められる。
 先生は左右さんに聞こえない様な小さな声で私に言った。

「左右さんと、上手く行っている様ね」
「はいっ、先程おばあちゃん達の前で『生涯をかけて私を幸せにする』って誓って頂いて……」
 とろけそうになりながら私が話すと、院長先生は不敵な笑みを浮かべて言った。
 
「じゃあ、そろそろ先生も本気出そうかしら」
 えっ、と返すと先生は笑顔で手を振り、またねとだけ答えた。
  
 ☆新規計画達成項目
 ・2017年8月16日 左右さんに家族を紹介した。
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