結婚六カ年計画

魂祭 朱夏

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小学校編

結婚六カ年計画 21-2

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 2017年8月6日 日曜日。11時40分。


 相田先生を含めた左右さんと三人で再び七夕祭りの出店やイベントを巡り始める。
 市役所の前の広場で行われている出し物を眺めたり、その後は県内の各地から来た牛肉や帆立等のフードブースで昼食をとり、そのまま中央公園方向へ歩きながら路上を彩る七夕飾りを眺めて移動した。
 公園では昨夜Ruiちゃんが立っていたステージ上では、時折テレビで出演している地元出身の芸人と俳優がトークショーを行っている。
 俳優は顔が整っているとは思うが、左右さんの方がかっこいい。
 
「梨杏ちゃんもモデルのお仕事で、イケメンの芸能人と会ったりするの?」
 先生が私に聞く。
「はい。守秘義務があるので詳しくは言えませんが、映画やドラマのエキストラ役もしてますので」
 いいなぁ、うらやましいなぁと先生が言う横で何故か左右さんが驚いた表情を浮かべていた。
「パパ、どうしましたか?」
(梨杏ちゃん、まだ左右さんに敬語なのね……)

「ま、まだ梨杏ちゃん恋愛は早いからね?! ダメだよ??」
 不安そうに目を細める左右さん。
 恋愛は貴方と今、しているつもりです。
 でもなんだか左右さんが可愛く見えてつい笑ってしまいそうになる。

「大丈夫ですよ。私が好きなのはパパだけですから」

 本当の意味では伝わらない告白。
 でも初めて左右さん好きと言った瞬間だった。時計を見ると12時51分。
 大人である先生も左右さんもきっと、私を冗談が言える小学5年生程度にしか見てないだろう。
 それでも左右さんは満更でもない様で、表情を甘く崩しながら私の肩を撫でた。
「ありがとう、梨杏ちゃん。本当に嬉しいよ」
 相田先生も「梨杏ちゃんは可愛いわね」と目を細めて話すため、私は無言でほほ笑んだ。
 
 
 *******


 更に市内中心部を歩き続けること、14時過ぎ。
 もう大体の七夕飾りは見尽くしたのではないのかと思う程歩いたけど左右さんがずっと手を引いてくれたため、そこまで疲れはしてない。
 一方で先生は口では大丈夫と言いながらも肩で息を吐いていたので、左右さんがそろそろ帰ろうかと切り出した。

「相田先生、今日は僕達と一緒に七夕を観て回って頂きありがとうございました」
「わっ、私の方こそ独りだったのにお二人のお陰でいい思い出になりました。そ、その――」
 先生の言葉が途切れる。そして彼女は息を大きく吸った。
「――また、私と遊んで頂けませんか?」
 先生から左右さんへのデートの申し込みだ。
 思わずダメと叫びたくなるが我慢する。
 代わりに、左右さんが握る手に力が入ってしまった。

「勿論です。僕で良ければいつでも」
 先生の笑顔が花開く様に広がる。
 私は一気に不安になる。
 でも、それは一瞬ですぐ安堵した。

 私が左右さんの手を強く握ってしまった時、左右さんがその手を握り返してくれたからだ。
 先生には酷だが恐らく、恋愛に発展するコトは無い。


 *******


 15時頃。
 相田先生と別れ、昨夜出店で左右さんが掬ってくれた二匹の金魚のエジソンとモーツァルトを飼うための水槽を買って家に帰った後、一息つく。
 孤児院で金魚を飼っていたので少し懐かしい気分だ。可愛い。
 射的で落としたアザラシのぬいぐるみは自室に飾っている。
 
 疲れてソファにもたれかかっている左右さんにアイスティーを出す。
 左右さんはごくごくと一気に飲み干すと美味しいと言いながらまた一息。
 そして私に伝えた。

「先生とは、生徒の親以上の付き合いにはならないから心配しないでね。今は、梨杏ちゃんと二人で楽しい思い出を沢山作りたいんだ」
 胸に何かが刺さる感覚。嬉しさがある反面、左右さんに対して申し訳なさを感じた。

 私は左右さんに恋をしており、六年かけて結婚する計画を立ててこの家に来た。
 でも言い換えればその間、彼に対して恋愛の不自由を課している。
 申し訳ない。
 でも他の女の人とあまり仲良くなりすぎないで欲しい。
 嫉妬と自分の身勝手さに圧し潰されてしまいそうだ。

 どうしようも無い場合、もはや人は泣くしかない。
 だから、私は――――。


 胸へ突き刺さる痛みに耐えきれず、私は左右さんの前でぽろぽろと涙を流し始めた。


 ☆新規計画達成項目
 ・2017年8月6日 左右さんと七夕祭りを廻った。
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