結婚六カ年計画

魂祭 朱夏

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小学校編

結婚六カ年計画 17-2

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 2017年7月21日 金曜日。16時45分。


 予定より打ち合わせが長引いてしまい、少し残業になりそうだ。
 梨杏ちゃんにRineでその旨を伝え、早速先程の打ち合わせ内容を反映した再見積もりを始める。
 それと、打ち合わせ後に思いついた他のパターンも併せて作ってしまおう。
 後は週明け朝に行われる営業会議での提出資料も作らくては。
 3時間以内には全て終わらせる。


 18時半。
 事務所内には他に誰も居らず僕ひとり。
 10年前までは7時どころか日を跨ぐ事も当たり前だったが今は残業を行う事自体が良い事ではないと認識が変わり始めている。効率的に働く事は当然だ。

 このまま行けば7時過ぎには退社出来そうだ。
 梨杏ちゃんに再びRineで連絡しようとすると、僕は気付いた。

 普段は遅くても30分以内には返事が来るが、5時前に送った文章に対して既読すらついていない。
 いや、それよりも僕が残業している事すら伝わってなかったら、梨杏ちゃんはもしかしたら食事もせず、待ち続けているのではないのだろうか。
 僕は大きな不安に胸を締め付けられ、思わず彼女に電話をかけた。


「むにゃ……パパ、おはようございます……」
 おはようございます? ああ……僕はほっと胸をなでおろした。
「ごめん、眠ってたのかな?」
「えっ……ああっ! もうこんな時間! 申し訳ございません、私まだ夕食の準備も――!」
「――大丈夫だよ。ごめん、Rineで今日残業するって送ってたんだけど、既読がついてなかったから心配して電話かけちゃったんだ。
 大人げなくて面目ない」
「…………。パパは、梨杏のコトを心配して下さったのですか?」
「う、うん。本当にごめんね」
 娘が眠っている所を起こしてしまった事に対し、大きな罪悪感を覚えた。
 
 最早アラフォーが目前だが、今までひとり好き勝手に生きて誰かを心配するコトなんて一度もなかったから猶更だ。血の繋がった家族は心配されるような感じもない。
 仕事だけが生き甲斐に感じたつまらない人間であると改めて痛感する。
 
 だからこそ芽生えた、この感情。
 出来損ないの父ではあるが、娘として梨杏ちゃんを確かに愛しておりこの先もずっと、成長を見届けたいと思っている。


「いいえ。パパに私のコトを心配して頂いて、とても嬉しく思っています」
 相変わらずの小学五年生とは思えない大人の対応。
 僕は君と同じ位の年齢の頃、土にまみれてサッカーをしていたなぁ。
 まだ幼いのに他人を気遣う心がある。

「心配するよ、僕は君が誰よりも一番大切だから。
 すぐに仕事を片付けて帰るから、今日は出前を頼もうか。
 梨杏ちゃんの声が聞けて疲れが吹き飛んだよ、また後でね」
「…………! は、はいっ、お待ちしています!」
 
 何故か彼女は動揺していたけど通話が終わった。
 胸が暖かくなる。

 さあ、僕のお姫様の所に1秒でも早く帰ろう。


 ******


 不甲斐ない。娘として失格である。
 勉強した後にそのまま眠って夕食の準備を怠ってしまうとは。

 でも、彼からのモーニングコールが来て信じられないコトを伝えられ浮ついた気分がおさまらない。
 眠気が吹き飛ぶどころか、胸の鼓動が高鳴り爆発してしまいそうだ。

 君が誰よりも一番大切。
 恋する人から耳元で囁かれ、ときめかない女は居ないだろう。


 ☆新規計画達成項目
 ・2017年7月21日 左右さんに一番大切だと思われていると伝えてもらえた。
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