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小学校編
結婚六カ年計画 13
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2017年6月16日 金曜日。16時30分。
「あっ……」
学校から帰り、窓を開けて部屋に掃除機をかけていると湿った匂いが鼻につく。
程無くして空が厚い雲で覆われてまるでバケツをひっくり返したような大雨が降りだしてきた。
ゴロゴロと雷の大きな音も鳴り始めた。
そろそろ梅雨入りかなあと思いながらも、はっと気付く。
朝の天気予報では晴れだったために左右さんが傘を置いて出勤してしまったのだ。
傘を届けなければいけない。
行き違いを避ける為私は左右さんに電話した。
RINEでも良いのだけど声を聴きたいのもあったから。
「梨杏ちゃん、どうしたの?」
いつもの優しい口調で左右さんが応答してくれた。
「パパ、外が大雨なので傘をお届けに参ります!」
「あー振ってるね……。嬉しいけど、大丈夫?」
心配してくれている、嬉しい。
「はいっ。パパの為なら火の中水の中!」
「分かった、待ってるよ。会社の場所分かる?」
「大丈夫です、スマホで検索したら歩いて10分程で行けそうでした」
「分かった、それじゃあ待ってるね。夕食、どこかで食べて帰ろうか」
夕飯の外食! 私は張り切って左右さんを迎えに行くコトにした。
******
17時35分、わたぬき商事前。
わたぬき商事は美田園市に本社のある地元大企業。
左右さんは事務用品を販売しているが建物から家電製品、物流、保険商品等何でも売っていて入社するのも大変だ。
その中で左右さんは部署始まって以来の最年少の課長。
とても仕事が出来る凄い人なのだ!
入口の外で待っていると退社する人達が私と擦れ違っていく。
一定数が私の様子を伺って帰っていくけど、こんな所に子供がいるから気になっているのだろう。
「あれっ、ひょっとして華燭課長の娘さん?」
帰って行く中、二人の女の人が私に声を掛けてきた。
あれっ、どうして分かったのかな?
「はいっ、パパが傘を忘れてしまったのでお持ちしました。
あの、もしかしてパパの――――」
「そうそう、私達華燭課長と同じ部なの。わ~、実物はやっぱり可愛いなぁ」
あっ、成程。
前RINEで左右さんと話した時、プロジェクターでスクリーンに映してたって話してたから私が分かったんだ。
「華燭梨杏です、パパがいつもお世話になってます」
「きゃ~礼儀正しい! 私は佐々木でこっちは鈴木。課長の所まで連れて行ってあげるよ!」
左右さんが働いている場所が見れる。これは嬉しい。
「わぁ、ありがとうございます!」
私は佐々木さんと鈴木さんに連れられ、社内に入るコトが出来た。
エレベーターで6階まで上がる。
老獪に出ると事務用品部門と表札に書かれている。
どうぞ、と鈴木さんが扉を開けてくれ、ふたりは帰って行った。
と言うか部外者の私がこんな所まで入ってきて大丈夫なのかな。
その心配を他所に、愛しい人の声が聞こえて来た。
「梨杏ちゃん!」
「パパ! お迎えに上がりました!」
オフィスには左右さんだけ居る。
ノー残業デーなので全員を帰し、自分も戸締りをして帰る所だった様だ。
******
事務用品部門の鍵を閉め、ロビーに出る。
まだ雨は強い。
傘は当然差すけれども、私はここ最近の左右さんに対し近付く女性が多いコトに危機感を持っていた。
自分が一番であるとは思っているけど、それでも不安はある。
臆病な私。
でももう少し勇気を出さなければいけない。
「パパ。手を繋ぎたいので一緒の傘に入っても良いですか?」
「良いよ。はは、梨杏ちゃんはこの先、いつまで手を繋いでくれるのかなぁ」
感じる温度差。
でも、今はこれでいい。
「私が大人になっても……ずっと、パパと手を繋いています」
「ありがとう、梨杏ちゃん」
見上げると、左右さんがいつも通りにこにこと笑っている。
でもこの関係を変えるために、私は六カ年計画をたてたのだ。
☆新規計画達成項目
・2017年6月16日 左右さんの勤め先に初めて行った。
「あっ……」
学校から帰り、窓を開けて部屋に掃除機をかけていると湿った匂いが鼻につく。
程無くして空が厚い雲で覆われてまるでバケツをひっくり返したような大雨が降りだしてきた。
ゴロゴロと雷の大きな音も鳴り始めた。
そろそろ梅雨入りかなあと思いながらも、はっと気付く。
朝の天気予報では晴れだったために左右さんが傘を置いて出勤してしまったのだ。
傘を届けなければいけない。
行き違いを避ける為私は左右さんに電話した。
RINEでも良いのだけど声を聴きたいのもあったから。
「梨杏ちゃん、どうしたの?」
いつもの優しい口調で左右さんが応答してくれた。
「パパ、外が大雨なので傘をお届けに参ります!」
「あー振ってるね……。嬉しいけど、大丈夫?」
心配してくれている、嬉しい。
「はいっ。パパの為なら火の中水の中!」
「分かった、待ってるよ。会社の場所分かる?」
「大丈夫です、スマホで検索したら歩いて10分程で行けそうでした」
「分かった、それじゃあ待ってるね。夕食、どこかで食べて帰ろうか」
夕飯の外食! 私は張り切って左右さんを迎えに行くコトにした。
******
17時35分、わたぬき商事前。
わたぬき商事は美田園市に本社のある地元大企業。
左右さんは事務用品を販売しているが建物から家電製品、物流、保険商品等何でも売っていて入社するのも大変だ。
その中で左右さんは部署始まって以来の最年少の課長。
とても仕事が出来る凄い人なのだ!
入口の外で待っていると退社する人達が私と擦れ違っていく。
一定数が私の様子を伺って帰っていくけど、こんな所に子供がいるから気になっているのだろう。
「あれっ、ひょっとして華燭課長の娘さん?」
帰って行く中、二人の女の人が私に声を掛けてきた。
あれっ、どうして分かったのかな?
「はいっ、パパが傘を忘れてしまったのでお持ちしました。
あの、もしかしてパパの――――」
「そうそう、私達華燭課長と同じ部なの。わ~、実物はやっぱり可愛いなぁ」
あっ、成程。
前RINEで左右さんと話した時、プロジェクターでスクリーンに映してたって話してたから私が分かったんだ。
「華燭梨杏です、パパがいつもお世話になってます」
「きゃ~礼儀正しい! 私は佐々木でこっちは鈴木。課長の所まで連れて行ってあげるよ!」
左右さんが働いている場所が見れる。これは嬉しい。
「わぁ、ありがとうございます!」
私は佐々木さんと鈴木さんに連れられ、社内に入るコトが出来た。
エレベーターで6階まで上がる。
老獪に出ると事務用品部門と表札に書かれている。
どうぞ、と鈴木さんが扉を開けてくれ、ふたりは帰って行った。
と言うか部外者の私がこんな所まで入ってきて大丈夫なのかな。
その心配を他所に、愛しい人の声が聞こえて来た。
「梨杏ちゃん!」
「パパ! お迎えに上がりました!」
オフィスには左右さんだけ居る。
ノー残業デーなので全員を帰し、自分も戸締りをして帰る所だった様だ。
******
事務用品部門の鍵を閉め、ロビーに出る。
まだ雨は強い。
傘は当然差すけれども、私はここ最近の左右さんに対し近付く女性が多いコトに危機感を持っていた。
自分が一番であるとは思っているけど、それでも不安はある。
臆病な私。
でももう少し勇気を出さなければいけない。
「パパ。手を繋ぎたいので一緒の傘に入っても良いですか?」
「良いよ。はは、梨杏ちゃんはこの先、いつまで手を繋いでくれるのかなぁ」
感じる温度差。
でも、今はこれでいい。
「私が大人になっても……ずっと、パパと手を繋いています」
「ありがとう、梨杏ちゃん」
見上げると、左右さんがいつも通りにこにこと笑っている。
でもこの関係を変えるために、私は六カ年計画をたてたのだ。
☆新規計画達成項目
・2017年6月16日 左右さんの勤め先に初めて行った。
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