結婚六カ年計画

魂祭 朱夏

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小学校編

結婚六カ年計画 8-2

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 2017年5月4日 木曜日。午後2時。


「車に実家から積んできた米がありますので、宜しければ後でお受け取り下さい」
「助かります。子供達も喜ぶでしょう」

 孤児院の皆との久し振りの再会を楽しんだ後、私と左右さんは院長先生の部屋(院長室)へ通された。
 机や椅子が事務所同様、去年左右さんが勧めた新しいものに変わっている。
 これまた左右さんが営業で販売したソファに私達3人は座った。

 それにしても、リース院長先生は相変わらず美人である。
 紅茶を淹れる動作すら気品さを感じるし、
 ひとつ文句をつけるとすれば左右さんも院長先生に見惚れているコトだけだ。

 
「どうぞ、冷めない内に」
「頂きます」
 丁度良い暖かさと濃さ。左右さんも味わいながら美味しそうに飲んでいる。
 ダージリンの茶葉を買えば近い味は再現できそうなので、今度左右さんに買って貰おう。

「梨杏、元気そうで何よりだわ。左右さんもこの子を育てて頂き有難う御座います」
「まだ一ヶ月しか経ってませんし何もしてあげてません。
 でも、院長先生達との約束は違えずにお守りしますのでご安心ください」

 約束。
 去年の夏に院長先生が左右さんに課した、私と一緒に暮らしてる時は幸せにすると言うコトだった。
 あの時のやり取りは今も鮮明に覚えている。

「院長先生、私は今、左右さんと一緒に居るコトが出来て幸せです。
 学校の友達とも仲良くなれましたし、左右さんと一緒に柔道教室にも通ってます。
 昨日は実家にも連れて行って貰いました。
 とても大切にして頂いてます」
「梨杏ちゃん……」
 普段中々言えない感謝の言葉を、いい機会だと思い左右さんに伝える。
 すると彼の大きな目は潤み、ポケットからハンカチを取り出して目元を拭いた。
 左右さんは、私に対して感情を隠さないでくれる。でも、私は……。

「ふふっ、心配には及ばない様ですね。左右さん、これからも宜しくお願い致します」
「はい。業務上でも、個人的にも今後とも仲良くして頂けると嬉しいです」
 むぅ、個人的にもって言い方ー。
 意味は伝わるけど聞く人が聞いたら意識してしまうでしょうに。
 私は左右さんの服の袖を掴むと、彼の頭上にはハテナが浮かんでいる様だった。
 仕方のないコトだ。

「そうですね、個人的にも……ふふっ、4つ上のおばさんでも宜しければ、デートでもしましょうか」
「あはは、僕もおじさんですけど宜しければ市内を案内しますよ」
「まぁ。ではその際は左右さんや梨杏のお住まいに招待して頂いても構いませんか?」
「ええ、歓迎します」
 待って。
 38歳だからと言って院長先生の美貌に恋心を持たない人なんてきっとこの世に存在しない。
 ふたりとも冗談ですよね。
 特に院長先生は私の気持ちを多分、知っているのに!
 思わず私は、左右さんに抱き着いて先生に叫んだ。

「デートはダメです! 遊びに来て頂けるだけなら大歓迎ですけど……」
 思わぬ私の反撃に一瞬、キョトンとする院長先生と左右さん。
 でもすぐに、先生は口元を軽く抑えながらくすくすと笑った。
「うふふ、ごめんね。梨杏のパパを取ったりはしないわよ。
 とても素敵な方だとは思ってるけどね」
「うぅ……」
 私は恥ずかしくなり、左右さんの腕に顔を押し付けて隠した。

(梨杏ちゃんが怒る所、初めてみたなぁ)
 左右さんはよしよしと私の頭を撫でる。
 役得だなぁと思いながらも、院長先生の様に私の真意に微塵も気づかないだろう。

 
 ☆新規計画達成項目
 ・2017年5月4日 院長先生の紅茶のレシピを手に入れた。
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