結婚六カ年計画

魂祭 朱夏

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小学校編

結婚六カ年計画 4-2

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 同日、午前9時。


 校庭での始業式が終わり、私は先生と再び職員打合せ室へ向かう。
 予め廊下で待機し、先生から呼ばれたら教室へ入り自己紹介をする運びだ。
 特に緊張もない。

 入り口のドアが開き、先生が私を呼ぶ。
 私は軽く深呼吸を行い、教室へ入った。

 
 40人。
 斯波(さくなみ)小学校全校生徒の倍の人数がひとつの教室の中に居る。
 何故か分からないけど、これから同級生として一年過ごす友達たちは驚いた表情を浮かべていた。

 構わずに私は、黒板の中央に大きく名前を縦書きした。
 変わった苗字なので横にふりがなも念のために書いて。
「美田園市の西部にある斯波小学校から引っ越して来た華燭梨杏です。
 皆さん、どうか宜しくお願いします」
 私はぺこりと頭を下げた。
 失態は犯していない……ハズだ。

「皆、仲良くしてね。梨杏ちゃんの席は窓際の一番奥よ。
 ランドセルは一番後ろのロッカーの名前が書いてある所に入れてね」
「わかりました」
 私は背負っていたランドセルを抱えてロッカーに入れる。
 指定された窓際の席に座った。
 去年までは田園が拡がっていたが、今は窓の外に建物が群生する様に拡がっている。


 早速算数の授業が始まる。
 当然と言えば当然だが分からないコトも無く一時間目が終わり休み時間だ。
 突然、私を囲うようにクラスの皆が詰め寄ってきた。

「梨杏ちゃん、はじめましてー!」
「おめめが青くて大きい! 外人さん?」
「かわいー、ツインテールも似合う!」
「人形さんみたい!」

 思わず私が驚くと、先生が落ち着きなさいと同級生達を制する。
 二時間目の社会の時間の前半が私の自己紹介と質問の時間になってしまった。
 
 
 ******


 三時半頃。
 私は学校から帰る途中、スーパーで夕食の材料を買ってマンションに帰ってきた。
 メニューはミートソースパスタと卵サラダ、学校へ行く前に仕込んでいたカブの浅漬け、あさりの味噌汁。
 ミートソースにはひき肉をたっぷり入れる。
 全部、死んだおばあちゃんが私に教えてくれたメニューである。

 仕込みが終わったら授業の復習と明日の準備。
 ぐつぐつ似ているミートソースが沸騰して溢れない様にだけ注意しよう。

 七時。
 RINEで仕事が終わったと連絡があったので料理を温め直し、テーブルに並べる。
 そして鏡の前に立ち、髪を整え準備万端。
 そろそろかなと思ったら鍵が開いた。

「ただいまー」
 左右さんの声が聞こえ、私は玄関へ行き迎える。
「お帰りなさいっ、パパ」
 私は左右さんに抱き着くと頭を撫でてくれた。感無量である。

「良い匂いがするなぁ。トマトソース?」
「はいっ、夕食はミートソースパスタです」
「そっかぁ。それにしても梨杏ちゃんが来てから毎日食事が楽しみだよ。
 お弁当まで作ってくれて……。
 あ、でも学校も始まったし明日から僕が――」
 私は首を横に振った。
 
「パパは毎日遅くまでお仕事をしているので料理は私がします。
 それに、パパに美味しく料理を食べて貰えるのでリアン、とても嬉しいのです」
 左右さんは料理があまり得意では無いそうで、初めてここへ来た時はインスタントラーメンが沢山積まれていた。
 いつまでも元気でいて欲しいので食生活を変えるため、一日3食私が料理を作っている。

 栄養バランスに偏りの無い献立を毎日考えるコトは大変だけど、愛する人の為ならばそれすらも嬉しい。
 食事の度にどの料理が好きなのか、どの料理が苦手なのかを知るコトが出来て幸せだ。

 幸せ。
 あの時、この感情が私にも在るコトを教えてくれたのは、紛れもなくあなたなのだから。


 ☆新規計画達成項目
 ・2017年4月10日 左右さんはお肉が好き。
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