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第一章
第2話(1)
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8月4日、木曜日。午前五時半。
鳴り響く電子音のアラームを止め、むくりと上体を起こす。
何故か肩が軽く、久々にいい寝起きだ。
朝食中、箸を咥えながらテレビを付けてニュースを観る。
この国の総理大臣である主国党巴月総裁の不倫疑惑が流れて驚いた。
会社での朝の話題はこのニュースで決まりである。
出勤すると案の定巴月総裁の話題だった。
再婚した二人目の奥さんが居るのに、黒いロングヘアーの美女とこそこそ密会していた件で、皆、愛人だろうと意見が一致していた。
今日はジェニーや京子と土曜日に行く海水浴の具体的な予定も決めた。
そして今日も定時であがり、早々と私は帰宅した。
今日はクロエちゃんから教わるためにまたあの世界へ行くのだ。
異世界のコトも、能力のコトも、ミロワーヌと言うあの黒い影のコトも。
ただの新人営業である私が急に何かと戦うと言う非現実的なコトは怖いけど、「何とかなる」が家訓の四十八願家の長女としては慣れるだろうと考えていた。
「犬と狼の間の時間(黄昏時)、大きな鏡にスマホの画面を向けて下さい。
そうすればこのトワイライトワールドへの来る事が出来ます」
夕食を軽く済ませて後片付けを済ませる。
あちらの世界に向かっている間は時間ほとんど経過しないらしいので浴槽の蓋を閉めて全自動スイッチを押した。
「誰でもこの世界に辿り着くコトが出来る訳では御座いません。
適正者に該当するケースは極稀ですので、聖さんはどうやらこの世界との親和性が高い様です」
スーツを脱ぎ、下着になる。
この時期は実家に居た時から基本的に裸族なので、よく弟から注意されていたがここは私の家であり、誰も阻む者は居ない。快適である。
「ありがとうございます、聖さん!
私……ずっと共に支えらえる仲間が欲しかったんです。正直、一人で心細かったんです」
シャツとタイツを洗濯機に入れてソファに座り麦茶を飲む。
するとテーブルの上に置いていたスマホが鳴ったので手に持った瞬間、祖母の形見である鏡から強烈な光が放たれた。
意識が、遠のいた。
∞∞∞∞∞∞
ああ、初体験とはこんなに心躍るものだったのだろうか。
私は今、この体の小さな胸が高鳴っている。
何故なら恋焦がれていた仲間がやっと現れて、これから共に戦ってくれるからである。
しかも、あんなに綺麗な人が。
聖さんの転送地点を彼女の家の近所にある体育館へ設定した。
程無くして彼女がいらっしゃる筈――。
******
「きゃああっ、どうして裸なんですかぁ!」
三度目に来たトワイライトワールドでの第一声は、クロエちゃんの驚いた声だった。
「いや、洗濯物をした後にスマホが鳴ったから手に取ったら急に移動して……ああ、いつも家では下着なんだけどね」
「ふ、服を着て下さい! 今ご自宅に転送しますから!」
ミロワーヌと言う影と戦っていた時も全く動じなかった彼女は赤面して慌てふためいている。見た目通り子供なのだろう。
「別に女同士だから良いと思うけどなぁ……」
そう呟いた瞬間、私はこの世界の自宅に急に転送され、箪笥に仕舞っていたジャージを着たら再び同じ場所に戻された。
「……コホン、準備は整いましたね」
先程の慌てぶりを感じさせない様に、もしくは動揺を悟られないようにしているのかクロエちゃんはわざとらしく咳を吐いた。
「先ずはこの世界について。犬と狼の間の時間にのみ入口が開くこの世界を、私はトワイライトワールドと呼称しています」
少し調べたらフランスでは黄昏時を犬と狼の間と呼ぶらしい。夕暮れ時は犬と狼は外見の区別がつかないからである。
先日のファキュルテも仏語だし、彼女はフランス人なのかな?
「現実世界との相違点は3つです。
ひとつ目に文字が総て裏返っているコト。まるで鏡の中に居る気分でしょう。
ふたつ目にミロワーヌと言う黒い影の様な生物がいるコト。ご存じの通り私達と敵対しております」
どちらについても気になるコトがあるので質問をしたい所だが、彼女の説明を遮るのは失礼である。
衝動にかられながらも私は彼女に対して頷いていた。
「みっつ目に、ファキュルテと言う特殊な能力を使用できる様になるコト。
これから当分、聖さんにはファキュルテを使いこなせる様に訓練をして頂く様になります。
何か質問はありませんか?」
来た。
幾つか聞きたいコトはあるけれど、順番に質問していこう。
私は手を挙げた。
「しつもーん、この世界はどうして現実世界が裏がっているの? 鏡の中に居る様って言ったけど、違うの?」
「鏡の様に裏返ってはおりますが鏡の中ではありません。来訪する場合に鏡は使用しますけどね。敢えて言うのならば電波の中の世界です」
ココに来る時は3回とも、スマホを通して鏡を見ると辿り着いている。
すべて偶然だが3回目は意図的に鏡の前でスマホを見る予定だったのだ。
「人、スマホ(電波)、鏡、スマホ(電波)、人と移動経路をリンクするコトによりトワイライトワールドへ意識のみが移動する仕組みです。
故にこの世界で身体が傷ついても目が覚めればなんともありません。鏡はあくまでも経路に過ぎません」
成程、身体は元の世界にあり意識だけがココに飛ばされているのか。
つまり意識の中の世界とも言えるかも。
「あのミロワーヌってなんなの?」
「ミロワーヌとは……先程、トワイライトワールドは電波の中の世界と私は言いました。
言うならば電波の中で生きるウィルスの様なもので、現実世界の適合者をこの世界へ迷い込ませ、捕食する者達です」
私も同様のケースだったのだろう。
偶々クロエちゃんに助けられたけれど、一歩間違えれば食べられていたと言うコトらしく、恐らく死んでいた。
「捕食されると……死んじゃうってコト?」
念のため私は彼女に尋ねる。
「脳が死に、永遠に覚醒しない植物人間の状態に陥ってしまいます。トワイライトワールドでの死は現実でも死と同意義であるとお考え下さい」
やはり、あの影に追いかけられていた際の危機感は間違いではなかったと言う事だ。
つまり命がけで戦う必要があり、当然私も死んでしまうのである。
答えた瞬間、クロエちゃんは何かに気付いた表情を浮かべ口に手を当てた。
鳴り響く電子音のアラームを止め、むくりと上体を起こす。
何故か肩が軽く、久々にいい寝起きだ。
朝食中、箸を咥えながらテレビを付けてニュースを観る。
この国の総理大臣である主国党巴月総裁の不倫疑惑が流れて驚いた。
会社での朝の話題はこのニュースで決まりである。
出勤すると案の定巴月総裁の話題だった。
再婚した二人目の奥さんが居るのに、黒いロングヘアーの美女とこそこそ密会していた件で、皆、愛人だろうと意見が一致していた。
今日はジェニーや京子と土曜日に行く海水浴の具体的な予定も決めた。
そして今日も定時であがり、早々と私は帰宅した。
今日はクロエちゃんから教わるためにまたあの世界へ行くのだ。
異世界のコトも、能力のコトも、ミロワーヌと言うあの黒い影のコトも。
ただの新人営業である私が急に何かと戦うと言う非現実的なコトは怖いけど、「何とかなる」が家訓の四十八願家の長女としては慣れるだろうと考えていた。
「犬と狼の間の時間(黄昏時)、大きな鏡にスマホの画面を向けて下さい。
そうすればこのトワイライトワールドへの来る事が出来ます」
夕食を軽く済ませて後片付けを済ませる。
あちらの世界に向かっている間は時間ほとんど経過しないらしいので浴槽の蓋を閉めて全自動スイッチを押した。
「誰でもこの世界に辿り着くコトが出来る訳では御座いません。
適正者に該当するケースは極稀ですので、聖さんはどうやらこの世界との親和性が高い様です」
スーツを脱ぎ、下着になる。
この時期は実家に居た時から基本的に裸族なので、よく弟から注意されていたがここは私の家であり、誰も阻む者は居ない。快適である。
「ありがとうございます、聖さん!
私……ずっと共に支えらえる仲間が欲しかったんです。正直、一人で心細かったんです」
シャツとタイツを洗濯機に入れてソファに座り麦茶を飲む。
するとテーブルの上に置いていたスマホが鳴ったので手に持った瞬間、祖母の形見である鏡から強烈な光が放たれた。
意識が、遠のいた。
∞∞∞∞∞∞
ああ、初体験とはこんなに心躍るものだったのだろうか。
私は今、この体の小さな胸が高鳴っている。
何故なら恋焦がれていた仲間がやっと現れて、これから共に戦ってくれるからである。
しかも、あんなに綺麗な人が。
聖さんの転送地点を彼女の家の近所にある体育館へ設定した。
程無くして彼女がいらっしゃる筈――。
******
「きゃああっ、どうして裸なんですかぁ!」
三度目に来たトワイライトワールドでの第一声は、クロエちゃんの驚いた声だった。
「いや、洗濯物をした後にスマホが鳴ったから手に取ったら急に移動して……ああ、いつも家では下着なんだけどね」
「ふ、服を着て下さい! 今ご自宅に転送しますから!」
ミロワーヌと言う影と戦っていた時も全く動じなかった彼女は赤面して慌てふためいている。見た目通り子供なのだろう。
「別に女同士だから良いと思うけどなぁ……」
そう呟いた瞬間、私はこの世界の自宅に急に転送され、箪笥に仕舞っていたジャージを着たら再び同じ場所に戻された。
「……コホン、準備は整いましたね」
先程の慌てぶりを感じさせない様に、もしくは動揺を悟られないようにしているのかクロエちゃんはわざとらしく咳を吐いた。
「先ずはこの世界について。犬と狼の間の時間にのみ入口が開くこの世界を、私はトワイライトワールドと呼称しています」
少し調べたらフランスでは黄昏時を犬と狼の間と呼ぶらしい。夕暮れ時は犬と狼は外見の区別がつかないからである。
先日のファキュルテも仏語だし、彼女はフランス人なのかな?
「現実世界との相違点は3つです。
ひとつ目に文字が総て裏返っているコト。まるで鏡の中に居る気分でしょう。
ふたつ目にミロワーヌと言う黒い影の様な生物がいるコト。ご存じの通り私達と敵対しております」
どちらについても気になるコトがあるので質問をしたい所だが、彼女の説明を遮るのは失礼である。
衝動にかられながらも私は彼女に対して頷いていた。
「みっつ目に、ファキュルテと言う特殊な能力を使用できる様になるコト。
これから当分、聖さんにはファキュルテを使いこなせる様に訓練をして頂く様になります。
何か質問はありませんか?」
来た。
幾つか聞きたいコトはあるけれど、順番に質問していこう。
私は手を挙げた。
「しつもーん、この世界はどうして現実世界が裏がっているの? 鏡の中に居る様って言ったけど、違うの?」
「鏡の様に裏返ってはおりますが鏡の中ではありません。来訪する場合に鏡は使用しますけどね。敢えて言うのならば電波の中の世界です」
ココに来る時は3回とも、スマホを通して鏡を見ると辿り着いている。
すべて偶然だが3回目は意図的に鏡の前でスマホを見る予定だったのだ。
「人、スマホ(電波)、鏡、スマホ(電波)、人と移動経路をリンクするコトによりトワイライトワールドへ意識のみが移動する仕組みです。
故にこの世界で身体が傷ついても目が覚めればなんともありません。鏡はあくまでも経路に過ぎません」
成程、身体は元の世界にあり意識だけがココに飛ばされているのか。
つまり意識の中の世界とも言えるかも。
「あのミロワーヌってなんなの?」
「ミロワーヌとは……先程、トワイライトワールドは電波の中の世界と私は言いました。
言うならば電波の中で生きるウィルスの様なもので、現実世界の適合者をこの世界へ迷い込ませ、捕食する者達です」
私も同様のケースだったのだろう。
偶々クロエちゃんに助けられたけれど、一歩間違えれば食べられていたと言うコトらしく、恐らく死んでいた。
「捕食されると……死んじゃうってコト?」
念のため私は彼女に尋ねる。
「脳が死に、永遠に覚醒しない植物人間の状態に陥ってしまいます。トワイライトワールドでの死は現実でも死と同意義であるとお考え下さい」
やはり、あの影に追いかけられていた際の危機感は間違いではなかったと言う事だ。
つまり命がけで戦う必要があり、当然私も死んでしまうのである。
答えた瞬間、クロエちゃんは何かに気付いた表情を浮かべ口に手を当てた。
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