拝啓、死んだ方がましだと思っていた私へ。信じられないでしょうけど、今幸せよ。

遥彼方

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聖女と精霊王

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 とりあえず、飲み物でも貰って心を落ち着けよう。
 そう思って会場を見渡すと、義姉二人を見つけた。

 彼女たちはふんだんにフリルとレースのあしらわれた派手で豪奢なドレスを纏っていた。

 なんだか虚しいような、悲しいような、複雑な気分になった。
 盗賊たちが自分たちの失敗を隠したのか、継母たちがごねて押し通したのか知らないが、無事にゼゾッラを売った金を手に入れて、ドレスを買ったらしい。

 視線を感じたのか、二人がこちらを見た。さああっと二人の顔色が変わる。青白くなってから、赤くなった。

「ゼゾッラ! なんであんたが!」
「コロンバの最新ドレスじゃない。あそこは宮廷御用達なのに」

 つかつかと二人がこっちにやってくる。今までの条件反射的で身がすくんだ。怖くて動けない。

『おおっと! 大事なお嬢さんに触れるんじゃないぜ!』
「なにこれ!」
「やだー、気持ち悪い」

 ぽんっとゼゾッラの胸元から現れた白鳩が、翼で通せんぼをした。
 木の枝がゼゾッラの足元から伸びてきて、二人を縛る。

「王家の舞踏会で何事か!」

 落雷のような王妃の声が会場を鎮めた。

「衛兵! 不届きにも舞踏会に迷い込んだ魔物を退治せよ!」
『はあああ。俺たちが魔物だって?』

 憤慨した白鳩が大きく羽を膨らませ、木がざわざわと枝を揺らしたその時。

「それには及びません」

 バジーレの声が朗々と響いた。
 正装に身を包み、凛と背筋を伸ばしてこちらにやってくる。

 ひげを剃り、髪を整えたバジーレは、この場の誰よりも美しかった。こんな時なのに見惚れてしまう。王妃の後ろでぽかんと口を開けている第二王子より、バジーレの方が格好いい。

「バジーレ王子! そなた、一体どういうつもり!」

 王妃が目をつり上げたが、バジーレはどこ吹く風だ。表情を変えることなく、切れ長の瞳を向けた。

「どういうつもりも何も。彼らは魔物ではなく、この国の守護精霊。当然、王妃殿下はご存知のはず」
「ええい、でたらめを言うのではありません!」
「でたらめかどうか、見ているといい。ゼゾッラ、これを」

 ゼゾッラの前にやってきたバジーレがひざまずいた。ジュッジョレ公爵が持っていた、布にくるまれたものを床に置く。

「木靴?」

 華やかな舞踏会に不似合いな、装飾もなのもない、素朴な木靴だった。けれどゼゾッラはためらいもなく履いていた高価な靴を脱ぎ捨て、木靴に足を入れた。
 すると、木靴が輝き、ヴェントとアルベロから光が溢れた。大きくなった白鳩とナツメの木が、神々しく光の鱗粉を纏う。

「見よ! 真の主である聖女の力をうけ、王家の精霊王が目覚めた」
「えっ」

 バジーレに強く抱き寄せられながら、ゼゾッラは小さく呟いた。舞踏会でバジーレが色々やるとは言っていたけど、これは聞いていない。
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