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8話
しおりを挟む「俺とのこと考えられないのなら断ってくれて良い。全部無かったことにするのも有りだ。流石に後腐れなく抱いて欲しいって願いは叶えてられないけど」
「…それって」
「俺も健全な男だから、好きな奴とセックスしてハイさよなら、は絶対無理。一回抱いたら、どんな手を使っても佐上のこと逃してやれない」
そう言いながら先生はドス黒い笑みを浮かべ、わたしは背筋がゾクッとする。ここでやっと、先生が私のことを好きだというのが事実として自分の中にストン、と落ちて来た。
私はどうするべきなのか。一回先生とセックス出来れば、それで満足なはずだった。なのに先生が私を好きで、付き合いたいと言っている。私の脳が作り出した幻想では無く、現実。だけど私は事実をちゃんと受け止める為に、更に問いかけた。
「…先生、モテるでしょ。態々元生徒に声かけなくても、幾らでも相手居ますよね?」
「俺のことなんだと思ってるんだ。自分から行かないと出会いなんてないし、教師になってからはご無沙汰だよ。それを言うなら佐上もモテるだろ?振られた男達の泣き声散々聞いたぞ。態々教師選ばなくても良いだろ?」
意地悪な顔をして訊ねる先生は、私の答えを見透かしているのだ。それが分かっているから変に頑なになることもなく、すんなりと本心を吐露した。
「教師だとか関係なく、去年先生が私に駆け寄って来てくれた時から先生が特別になったんです」
「そうか、俺もあの日から佐上のこと気になってというか放っておけなくなったんだ」
「目を離したら死にそうで?」
「目を離したら何処かに飛んで行きそうで。だけど学校で見せる顔とは違う、リラックスした素の顔見せてくれるようになってからは、もっと話したいと思うようになった。苦しそうな顔をした時は、俺が少しでも憂いを取り除いてやりたいと望むようになった。それが教え子に抱くべき感情ではないと理解した時には、もう後戻り出来なくなってたよ…で?そろそろ答え決まったか?」
分かっているくせに態と急かしてくる。せっかちな人だ、けれどそれは先生の不安の裏返しなのだろう。早く私の答えが聞きたくて落ち着かないのかもしれない。
「…私昔から夢があったんです」
「夢?」
「…誰かから愛されてみたいって夢が。先生叶えてくれますか?」
「…ああ、佐上がうんざりするほど愛してやる」
心臓の高鳴りがうるさく、全身が熱くなって来た。どうしよう、先生に抱きついてしまいたいがやはり恥ずかしい。散々はしたない姿を晒した後でも、男性に抱きつく真似は躊躇してしまう。なのに私はもっと恥ずかしいことを口にしてしまう。
「あの、もう一回キスしてくれませ…んっ」
皆まで言う前に唇を塞がれた。さっきより強く、そして長く押し付けられた唇はチュ、と濡れた音を立てて離れていく。
望みを叶えてもらったのに、私の心はまだ満たされていなかった。その理由はすぐ分かった。
「先生…こういう軽いのじゃなくて恋人同士がする深いやつが良いです」
上目遣いではしたないおねだりをしてみると、先生が大きく息を吐いた。
「…理解してたつもりだがお前物凄く積極的だよな、本当意外だ」
「…嫌ですか?」
「いいや全く…深いのはちょっと、ここじゃ無理だな」
「あ…確かに。誰かに見られる可能性ありますもんね、ごめんなさい我儘ばかり言って」
既に2回キスしている後で説得力皆無だが、先生が警戒する気持ちは分かる。卒業したばかりの生徒と…なんてバレたら先生の立場が危うくなる。そんな簡単なことに思い至らず、浅慮な行動を繰り返していた自分を恥じる。しかし、先生は首を振った。
「いや、今は深いやつしたら確実にこの机にお前のこと押し倒して制服剥ぎ取って、そのまま最後までするだろうから無理って話」
「……え?」
何の冗談かと思ったが、先生は真顔だ。目だけが妙にギラギラしていて身震いしたけれど。
「冗談じゃないぞ、本気。今ゴムなんて持ってないし、勿論中に出さないようにはするけど。佐上もこんな場所なんて嫌に決まってるよな?」
な?と聞かれても、どう答えればいいのか分からない。つまるところ先生は何かの拍子で私に襲い掛かる危険があるわけで。だから深いキスは出来ないよ、と。
余裕綽々な態度かと思いきや、本当はかなり切羽詰まっているのかも。
…先生、もしかしてかなり私のこと好きなの?でもそれを聞いたら怖いことになりそうだから、取り敢えず質問にだけ答えておく。
「そ、そうですね、学校では流石に…」
「だよな、けれどそれ以外なら何でもするよ」
「…何でも…じゃあ…」
抱き締めて頭を撫で欲しいとお願いすると、その通りにしてくれた。時折「…これ忍耐力持つかな…」と呻き声が聞こえた気がしたけどよく覚えてない。
その後連絡先を交換して、取り敢えずお別れをしたけど春休みになってからは毎日連絡を取ったし、一人暮らしのマンションに引っ越す前と後には顔を出して手伝いをしてくれた。
新居に引っ越した後は遊びに来てくれたし、先生の部屋にも連れてってくれた。車で遠出もした。世間一般の恋人ってこんな感じなのかな、とフワフワとした心地のまま、大学が始まり私生活が慌ただしくなっていく。先生も忙しいだろうに連絡を欠かさずしてくれるし会うとキスをして抱き締めて、好きだと伝えてくれるので数週間会えなくても寂しくは無かった。
けど、先生は数ヶ月経っても私に手を出してこなかった。
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