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1話
しおりを挟む卒業式が終わり、クラスメートや友人と思い思いに言葉を交わした後私は1人、教室を出てある場所に向かっていた。
その場所にいるであろう彼はうちのクラスの副担任にも関わらず、適当に別れの言葉を皆に話した後さっさと雲隠れしてしまったのだ。彼に憧れる女子生徒の落胆ぶりといったら、凄まじいものだった。
女子達を差し置いて会いに行こうというのだから、バレたら面倒なことになるのは目に見えているがどうせ今日で卒業だ。気にする必要もない。
私はとある場所…社会科準備室の前に立ちドアをノックする。何の反応もないが、どうせゲームでもしているのだろう。気にせずドアをガラッと開けた。
窓側の机に座りスマホを両手で持っていた彼…日本史教師の高瀬修吾はこちらを見た。
「あれ、佐上じゃん。何、どうした」
「それはこっちのセリフです。皆先生のこと探してるのに、こんなところでゲームですか」
「いやね、他のゲームに気を取られてたらこっちのイベント碌に走ってなくて。3時のメンテまでに石集めないとアレなの」
相変わらず、この人の最優先事項はゲームなのだ。だからといって生徒に冷たいなんてことは絶対にない。多少デリカシーに欠けるところはあるが、フレンドリーで若く誰に対しても優しい。おまけに長身痩躯で鼻筋の通った、モデルでも通用する顔立ちだ。特に女子の間で絶大な人気を誇っている。妬まれることなく男子にも好かれているのだから、彼の人徳なのだろう。
「俺は良いの、それより佐上。お前は良いのこんなところにいて。友達と話したいことないの?…あ、友達いない」
「本当失礼ですね。県外に進学する子殆どいないから、別れを惜しむ必要がないだけです。いつでも会えますし」
ジロリと睨むと「悪い悪い」とアッサリ謝ってくれた。
「で?結局何しに来たんだ」
「今までのお礼を伝えに来たんです。頻繁にここで話聞いてもらいましたから」
私は少々問題のある家庭環境とそれに随するストレスで一時期かなり追い詰められていた。そんな時偶然高瀬先生に悩みを打ち明けることになってしまい、それ以来「大したこと言えないけど」と時々ここ、社会科準備室で悩みを聞いてくれることになったのだ。彼はカウンセラーではないので、本当に話を聞くだけで気の利いたアドバイスなんて殆どしてくれない。
それでもずっと、長年溜め込んでいた私はそれだけで心が軽くなったのだ。
「お礼言われることしてないぞ、本当に聞いてただけだし」
「そんなことないですよ。それに…先生が本当はここに篭ってゲームしまくる不真面目教師だって知れたのもラッキーでした」
「ここ埃くさくて他の社会科の先生殆ど近寄らないから穴場なんだよ。まあ佐上は無闇矢鱈に言いふらさないだろうなって思ったから話したんだけど」
「あはは、ありがとうございます。それで先生…私ただ単にお礼言いに来たわけじゃないんですよ。話があって」
すると先生が少しばかり真剣な眼差しでこっちを見据えた。
「話?大学で友達作る方法?そんなんオリエンテーションや最初の授業で一人のやつに兎に角話しかければ」
この教師はどれだけ私が友達を欲しがっていると思ってるんだ。確かに普段話す人は多いけれど、心から信用出来る人は居ないに等しい。
「違いますよ。…今日で最後なんで告白しに来ました。私高瀬先生のこと好きです」
先生が目を見張った。が、直ぐに元の飄々とした表情に戻る。恐らく慣れっこなのだろう。他の子達は遊び半分だ。本気で教師に告白する子は居ない。たとえ卒業式であろうと。
けど、私は遊びじゃない。それを分からせるために口を開いた。
「安心してください、付き合って欲しいなんて望みません。ただ思い出にしたいので、私とセックスしてくれませんか」
先生がスマホを机の上に落とした。
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