22 / 32
22話
しおりを挟む「…俺は1年も君に関わっていたのにレオン殿下の気持ちも、企みにも全く気づいていなかった。クリストファー殿下が手を回さなければどうなっていたか…想像しただけで血の気が引いた」
「レオン殿下のことは…気づく事は不可能に近かったと思います」
レオンがリゼットと交流を持っていたら、リゼットが無理でも周囲の人間が彼の気持ちに気付き、教えてくれていただろう、相手が相手だ。慎重に対応しろと助言もされた気がする。もしかしたらテオドールも気づいたかもしれない。でもそれすらなく、学園時代に話した事も皆無。その状態でレオンの気持ちに気づくのは、クリストファーの言葉を借りるなら超能力者でない限り無理だ。
「殿下もレオン殿下の取り巻きが密告しなければ、気づくのが遅れていたと言っていた。陛下も伯爵に婚約の話を断られたと聞いて、それで諦めたと思い込み放置していたことを大層悔やんでおられるらしい。レオン殿下のことを甘く見ていたと」
息子がリゼットの父から婚約の話を断られ、テオドールとの仲が進展していることに不安を煽られたからと言って、あのような凶行を計画するとは普通思わない。誰が悪いとも言えない。元凶たるレオンも「呪い」のせいで狂気に呑まれつつあったのだから、ある意味では被害者だろう。
「…何事もなかったんですから、気にしないでください」
「…俺は騎士で団長という位に就いている。にも関わらず好きな女性に危険が迫っているのに気づかず、のうのうと暮らしていた。こんな自分が不甲斐なく、腹立たしくて仕方がない」
腹の底から絞り出すように発したテオドールの声には、自分自身への憤りで満ちていた。自分を責めるテオドールの背中に自らの腕を回す。
「レオン殿下のことは…自然災害に遭ったと思うことにします。予め知っていないと対策も何も立てられない、という点では同じでしょう?」
リゼットの肩口に埋まっていたテオドールの頭がビク、と揺れた。身体が小刻みに揺れている、これは。
「…自然災害…っ!すまない、言い得て妙だなと…」
笑いが堪えきれないようで、クククと小さく笑っている。笑いすぎでは、と思わなくもないが自らを責め続けるより何倍もマシだ。いつの間にかリゼットを包み込む腕の震えも止んでいた。
「団長もレオン殿下のこと、突然変異と称していたではありませんか」
「改めて聞くと、第二王子に対して失礼極まりないな」
「クリストファー殿下も触れてませんでしたし、気にしなくていいかと」
リゼットのあっけらかんとした物言いにまた笑みを零したテオドールが抱擁を解いた。思い詰めたような声音から心配していたが、テオドールは少しだけ安堵した表情だ。当事者のリゼットがレオンのことを気にしていないから、自らを責めていたテオドールの気が楽になったのだろう。リゼットは傷の一つも負わされていないのだから、気に病まないで欲しい。
テオドールも落ち着いてきたようなので、リゼットはこう切り出した。
「そういえば団長、どのような要件で呼び出したのです…団長?」
急にムスッと不機嫌になるテオドール。怪訝そうに再度呼びかけると。
「…今は2人だから名前で呼んでくれないか」
「…テオドール様?」
満足気に微笑むテオドール。名前で呼ばないと拗ねてしまうらしい。意外と子供っぽ…可愛らしいところがある。…いや、子供はそもそも「あんな」催促の仕方はしない。テオドールは咳払いをして話し出す。
「レオン殿下の謹慎が開けて国を出るまでの間、あと3週間程だがリゼットには1人で行動するのを控えて欲しい。出歩く時や残って仕事をする時は必ず誰かと一緒で、行きと帰りも俺が送って行く。夜は…出来れば出歩かないで欲しいがそこまで強要は出来ないからな、人通りの多い道を歩いてくれ」
「だからさっき若い騎士様が迎えに来ていたんですね」
「念の為だ。正直レオン殿下が改心した、というのが信用出来なくてな。油断させておいて後ろから…な可能性もないとは言い切れない」
予想通り、テオドールもレオンのことを警戒していた。リゼットが苦笑いして「ご迷惑をお掛けします」と言うと眉間に皺を寄せる。
「迷惑なものか。寧ろリゼットと一緒にいれる時間が増えると今から浮かれてる…浮かれたら駄目だな」
苦虫を噛み潰したような顔になるテオドールは、恐らく媚薬を盛られたときのことを思い出している。普段は盛られても気づくが、リゼットがテオドールの食事の誘いを受けたから隙が出来、薬を盛れたとクリストファーが言っていた。元はといえばリゼットのせいでテオドールは巻き込まれている。罪悪感で心が痛まないと言えば嘘になるが、謝ったらテオドールは怒るだろう。どうしたものか、と悩んでいると、気遣わしげなテオドールの大きな掌がリゼットの頬を包む。
53
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
媚薬を飲まされたので、好きな人の部屋に行きました。
入海月子
恋愛
女騎士エリカは同僚のダンケルトのことが好きなのに素直になれない。あるとき、媚薬を飲まされて襲われそうになったエリカは返り討ちにして、ダンケルトの部屋に逃げ込んだ。二人は──。
大嫌いなアイツが媚薬を盛られたらしいので、不本意ながらカラダを張って救けてあげます
スケキヨ
恋愛
媚薬を盛られたミアを救けてくれたのは学生時代からのライバルで公爵家の次男坊・リアムだった。ほっとしたのも束の間、なんと今度はリアムのほうが異国の王女に媚薬を盛られて絶体絶命!?
「弟を救けてやってくれないか?」――リアムの兄の策略で、発情したリアムと同じ部屋に閉じ込められてしまったミア。気が付くと、頬を上気させ目元を潤ませたリアムの顔がすぐそばにあって……!!
『媚薬を盛られた私をいろんな意味で救けてくれたのは、大嫌いなアイツでした』という作品の続編になります。前作は読んでいなくてもそんなに支障ありませんので、気楽にご覧ください。
・R18描写のある話には※を付けています。
・別サイトにも掲載しています。
氷の騎士団長様に辞表を叩きつける前にメリッサにはヤらねばならぬことがある
木村
恋愛
ロロイア王国王宮魔道士メリッサ・リラドールは平民出身の女だからと、貴族出身者で構成された王宮近衛騎士団から雑務を押し付けられている。特に『氷の騎士』と呼ばれる騎士団長ヨル・ファランに至っては鉢合わせる度に「メリッサ・リラドール、私の部下に何の用だ」と難癖をつけられ、メリッサの勤怠と精神状態はブラックを極めていた。そんなときに『騎士団長の娼館通い』というスキャンダルをもみ消せ、という業務が舞い込む。
「し、し、知ったことかぁ!!!」
徹夜続きのメリッサは退職届を片手に、ブチギレた――これはもう『わからせる』しかない、と。
社畜ヒロインが暴走し、誤解されがちなヒーローをめちゃくちゃにする、女性優位、男性受けの両片思いラブコメファンタジー。プレイ内容はハードですが、作品テイストはギャグ寄りです。
メリッサ・リラドール
ヒロイン 26歳 宮廷魔道士
平民出身 努力と才能で現在の地位についた才女
他人の思考を読み過ぎて先走る 疲れると暴走しがち
ヨル・ファラン
ヒーロー 28歳 宮廷付騎士団団長
大公の長男だが嫡男ではない
銀髪、水色の瞳のハンサム
無表情で威圧感がすごい 誤解されがち
騎士様に甘いお仕置きをされました~聖女の姉君は媚薬の調合がお得意~
二階堂まや
恋愛
聖女エルネの姉であるイエヴァは、悩める婦人達のために媚薬の調合と受け渡しを行っていた。それは、妹に対して劣等感を抱いてきた彼女の心の支えとなっていた。
しかしある日、生真面目で仕事人間な夫のアルヴィスにそのことを知られてしまう。
離婚を覚悟したイエヴァだが、アルヴィスは媚薬を使った''仕置き''が必要だと言い出して……?
+ムーンライトノベルズにも掲載しております。
+2/16小話追加しました。
【R18】騎士団長は××な胸がお好き 〜胸が小さいからと失恋したら、おっぱいを××されることになりました!~
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
「胸が小さいから」と浮気されてフラれた堅物眼鏡文官令嬢(騎士団長補佐・秘書)キティが、真面目で不真面目な騎士団長ブライアンから、胸と心を優しく解きほぐされて、そのまま美味しくいただかれてしまう話。
※R18には※
※ふわふわマシュマロおっぱい
※もみもみ
※ムーンライトノベルズの完結作
元男爵令嬢ですが、物凄く性欲があってエッチ好きな私は現在、最愛の夫によって毎日可愛がられています
一ノ瀬 彩音
恋愛
元々は男爵家のご令嬢であった私が、幼い頃に父親に連れられて訪れた屋敷で出会ったのは当時まだ8歳だった、
現在の彼であるヴァルディール・フォルティスだった。
当時の私は彼のことを歳の離れた幼馴染のように思っていたのだけれど、
彼が10歳になった時、正式に婚約を結ぶこととなり、
それ以来、ずっと一緒に育ってきた私達はいつしか惹かれ合うようになり、
数年後には誰もが羨むほど仲睦まじい関係となっていた。
そして、やがて大人になった私と彼は結婚することになったのだが、式を挙げた日の夜、
初夜を迎えることになった私は緊張しつつも愛する人と結ばれる喜びに浸っていた。
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる