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22話

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「…俺は1年も君に関わっていたのにレオン殿下の気持ちも、企みにも全く気づいていなかった。クリストファー殿下が手を回さなければどうなっていたか…想像しただけで血の気が引いた」

「レオン殿下のことは…気づく事は不可能に近かったと思います」

レオンがリゼットと交流を持っていたら、リゼットが無理でも周囲の人間が彼の気持ちに気付き、教えてくれていただろう、相手が相手だ。慎重に対応しろと助言もされた気がする。もしかしたらテオドールも気づいたかもしれない。でもそれすらなく、学園時代に話した事も皆無。その状態でレオンの気持ちに気づくのは、クリストファーの言葉を借りるなら超能力者でない限り無理だ。

「殿下もレオン殿下の取り巻きが密告しなければ、気づくのが遅れていたと言っていた。陛下も伯爵に婚約の話を断られたと聞いて、それで諦めたと思い込み放置していたことを大層悔やんでおられるらしい。レオン殿下のことを甘く見ていたと」

息子がリゼットの父から婚約の話を断られ、テオドールとの仲が進展していることに不安を煽られたからと言って、あのような凶行を計画するとは普通思わない。誰が悪いとも言えない。元凶たるレオンも「呪い」のせいで狂気に呑まれつつあったのだから、ある意味では被害者だろう。

「…何事もなかったんですから、気にしないでください」

「…俺は騎士で団長という位に就いている。にも関わらず好きな女性に危険が迫っているのに気づかず、のうのうと暮らしていた。こんな自分が不甲斐なく、腹立たしくて仕方がない」

腹の底から絞り出すように発したテオドールの声には、自分自身への憤りで満ちていた。自分を責めるテオドールの背中に自らの腕を回す。

「レオン殿下のことは…自然災害に遭ったと思うことにします。予め知っていないと対策も何も立てられない、という点では同じでしょう?」

リゼットの肩口に埋まっていたテオドールの頭がビク、と揺れた。身体が小刻みに揺れている、これは。

「…自然災害…っ!すまない、言い得て妙だなと…」

笑いが堪えきれないようで、クククと小さく笑っている。笑いすぎでは、と思わなくもないが自らを責め続けるより何倍もマシだ。いつの間にかリゼットを包み込む腕の震えも止んでいた。

「団長もレオン殿下のこと、突然変異と称していたではありませんか」

「改めて聞くと、第二王子に対して失礼極まりないな」

「クリストファー殿下も触れてませんでしたし、気にしなくていいかと」

リゼットのあっけらかんとした物言いにまた笑みを零したテオドールが抱擁を解いた。思い詰めたような声音から心配していたが、テオドールは少しだけ安堵した表情だ。当事者のリゼットがレオンのことを気にしていないから、自らを責めていたテオドールの気が楽になったのだろう。リゼットは傷の一つも負わされていないのだから、気に病まないで欲しい。

テオドールも落ち着いてきたようなので、リゼットはこう切り出した。

「そういえば団長、どのような要件で呼び出したのです…団長?」

急にムスッと不機嫌になるテオドール。怪訝そうに再度呼びかけると。

「…今は2人だから名前で呼んでくれないか」

「…テオドール様?」

満足気に微笑むテオドール。名前で呼ばないと拗ねてしまうらしい。意外と子供っぽ…可愛らしいところがある。…いや、子供はそもそも「あんな」催促の仕方はしない。テオドールは咳払いをして話し出す。

「レオン殿下の謹慎が開けて国を出るまでの間、あと3週間程だがリゼットには1人で行動するのを控えて欲しい。出歩く時や残って仕事をする時は必ず誰かと一緒で、行きと帰りも俺が送って行く。夜は…出来れば出歩かないで欲しいがそこまで強要は出来ないからな、人通りの多い道を歩いてくれ」

「だからさっき若い騎士様が迎えに来ていたんですね」

「念の為だ。正直レオン殿下が改心した、というのが信用出来なくてな。油断させておいて後ろから…な可能性もないとは言い切れない」

予想通り、テオドールもレオンのことを警戒していた。リゼットが苦笑いして「ご迷惑をお掛けします」と言うと眉間に皺を寄せる。

「迷惑なものか。寧ろリゼットと一緒にいれる時間が増えると今から浮かれてる…浮かれたら駄目だな」

苦虫を噛み潰したような顔になるテオドールは、恐らく媚薬を盛られたときのことを思い出している。普段は盛られても気づくが、リゼットがテオドールの食事の誘いを受けたから隙が出来、薬を盛れたとクリストファーが言っていた。元はといえばリゼットのせいでテオドールは巻き込まれている。罪悪感で心が痛まないと言えば嘘になるが、謝ったらテオドールは怒るだろう。どうしたものか、と悩んでいると、気遣わしげなテオドールの大きな掌がリゼットの頬を包む。

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