上 下
17 / 32

17話

しおりを挟む


「…テオの言うとおりだ。上手くいったからと言って俺のしたことは決して許されないしノインツ嬢の尊厳を踏み躙る行為だ。ノインツ嬢、すまなかった。罵倒するなり殴るなり好きにしてくれて構わない」

頭を下げられてしまい、慌てて立ち上がった。

「か、顔を上げてください、王太子殿下ともあろうお方が頭を下げるなんて」

「良い、ノインツ嬢。謝罪したいと言うのだから好きなだけさせれば良い…ですが頭を下げる角度が甘いのでは?もっと下げなければ誠意は伝わりませんよ?何なら俺が手伝いましょうか?」

冷え冷えとした低い声でテオドールが指摘したと思ったら、立ち上がりクリストファーの横に移動すると、クリストファーの頭を掴んでグイ、と更に頭を下げさせたのだ。クリストファーの頭が足の間に埋まるほど下げられる。これは極悪非道な王様が図が高い、と臣下の頭を無理やり下げさせる場面に似ていた。不思議なことに無理やり下げさせている方が臣下である。

「いってぇ!お前手加減しろ!折れる折れる首折れる!」

「何を仰います?手加減してますよ当然」

「だ、団長!駄目ですそれは!不敬罪で捕まります!私は怒ってないので手を離してください!」

とリゼットが急いで立ち上がりテオドールの腰に腕を回して必死で止めると、あっさり頭から手を離す。クリストファーは首に手を当ていてぇ、と呻いているしテオドールは平然としていた。

「ノインツ嬢の寛大な心に感謝してください、殿下」

「うん、感謝してるしてる。本当にありがとうノインツ嬢。おかげで今生きてる」

大袈裟だな、と思ったがクリストファーの目が真剣だった。もしかしてリゼットが止めなかったら…と一瞬恐ろしい想像をしてしまったが、そうなる前に側近のセルジュが止めたはず。そのセルジュはテオドールの行動を止めることなく黙っていただけだったが。

もしかして、よくあることなのかもしれない。テオドールとクリストファーは話す雰囲気からして親しいのは間違いない。確かクリストファーはテオドールと同じ年だ。公爵家の次男と王太子、付き合いがあっても不思議ではない。気心知れているからこその遠慮のなさか。

そんなことを考えながら、座っていたソファーに戻ったリゼットの隣にテオドールがまた座る、さっきより近い距離で。数センチしか離れてない。

「あの、団長」

「?どうした」

「距離、さっきより近くありませんか」

「気のせいだろう」

堂々と嘘をつかれた。あまりに自信満々なのでそうだったかも、と思い始めている。

「うわー、27年間女遠ざけてたテオが…なあテオ。俺が媚薬盛った理由、お前とノインツ嬢の仲が全く進まなくて焦ったから、だったらおこ」

「殿下、言い残した事は?3分だけ待ちましょう、全く執務室に剣を持ち込めないことをこれほど悔やんだ事はありません」

全身から怒気を発し始めたテオドールを慌ててクリストファーは諌める。

「冗談だ冗談、いや協力を仰いだ理由には使ったが」

そんな理由で同僚達は協力したのか。面白がっていたのか、いやクリストファーに話を持ちかけられれば断れない。責めるのは酷だろう。

「…それで?そんな馬鹿げた理由で協力を強制してまで俺とリゼットの仲を進めようとした本当の理由は?」

「うっわ急に名前呼び、吹っ切れたカタブツ怖…うん、これからする話は他言無用で頼む」

急に真剣な顔つきに変わったクリストファーが語り出した内容は想像を絶するものだった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

純潔の寵姫と傀儡の騎士

四葉 翠花
恋愛
侯爵家の養女であるステファニアは、国王の寵愛を一身に受ける第一寵姫でありながら、未だ男を知らない乙女のままだった。 世継ぎの王子を授かれば正妃になれると、他の寵姫たちや養家の思惑が絡み合う中、不能の国王にかわってステファニアの寝台に送り込まれたのは、かつて想いを寄せた初恋の相手だった。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

【完結】レスだった私が異世界で美形な夫達と甘い日々を過ごす事になるなんて思わなかった

むい
恋愛
魔法のある世界に転移した割に特に冒険も事件もバトルもない引きこもり型エロライフ。 ✳✳✳ 夫に愛されず女としても見てもらえず子供もなく、寂しい結婚生活を送っていた璃子は、ある日酷い目眩を覚え意識を失う。 目覚めた場所は小さな泉の辺り。 転移して若返った?!と思いきやなんだか微妙に違うような…。まるで自分に似せた入れ物に自分の意識が入ってるみたい。 何故ここにいるかも分からないまま初対面の男性に会って5分で求婚されあれよあれよと結婚する事に?! だいたいエロしかない異世界専業主婦ライフ。 本編完結済み。たまに番外編投稿します。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

隠された王女~王太子の溺愛と騎士からの執愛~

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
グルブランソン国ヘドマン辺境伯の娘であるアルベティーナ。幼い頃から私兵団の訓練に紛れ込んでいた彼女は、王国騎士団の女性騎士に抜擢される。だが、なぜかグルブランソン国の王太子が彼女を婚約者候補にと指名した。婚約者候補から外れたいアルベティーナは、騎士団団長であるルドルフに純潔をもらってくれと言い出す。王族に嫁ぐには処女性が求められるため、それを失えば婚約者候補から外れるだろうと安易に考えたのだ。ルドルフとは何度か仕事を一緒にこなしているため、アルベティーナが家族以外に心を許せる唯一の男性だったのだが――

処理中です...