人間不信気味のイケメン作家の担当になりましたが、意外と上手くやれています(でも好かれるのは予想外)

水無月瑠璃

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第二部

45話…S

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ふと意識が覚醒したのは午前2時頃。低めに設定したエアコンの風が先程までの行為の熱気により温度の上がった部屋の室温を、適度に保ってくれていた。

のそのそと上半身を起こし、隣に目をやると一糸まとわぬ静香がタオルケットに身を包みスヤスヤと規則正しい寝息を立てている。無理をさせた彼女が力尽きたことを申し訳ないと思いつつも、無防備な彼女の寝顔を独占出来る特権に酔いしれていた。

日に焼けると赤くなってしまうという、雪のように真っ白な肌、情事の痕を残すほんのり上気した頬、大きい瞳を縁取っている睫毛は少し濡れている。寝る直前まで弄んでいた栗色の美しい髪は間接照明に照らされ、より鮮やかに視界を染め上げた。颯真は彼女の髪を弄るのが好きだ、そこに顔を埋めるのも。時々彼女に嫌がられるけれど。

自分の目にはどんな絵画、美術品よりも美しく映る静香の眠る姿に暫く目を奪われていた颯真はそっと頭を撫で、前髪を梳くと額に口付ける。以前も眠っている彼女に同じ真似をした時は自分の愚かさに耐えられなかった。けれど、今は違う、自分は彼女の額どころか唇にキスをすることが許されている。

(…服用意しておくか。起きて俺だけ服着てたら恥ずかしがるかな)

寝ている彼女を起こさないようにそっとベッドを抜け出し、空いているタンスに仕舞っていた静香が置いていった寝間着や下着、そして自分の着替えを取り出す。静香は裸だったのに、自分はジーパンをしっかり履いていた。あの時はジーパンを脱ぐことすらもどかしくて、ベルトを外してすぐに痛いくらいに張りつめていた欲望を挿れてしまったから。我ながらどれだけがっついていたのだと呆れる。取り敢えず上半身は裸のまま、またベッドに戻る。ふと背中…自分に揺さぶられてた静香がしがみ付いていた箇所に手をやると引っ掻き傷がいくつも付いていた。彼女が付けたものは傷ですら愛しい。ずっと消えなくてもいいとすら思うのだから自分は重症だ。少しばかりテンションが上がりベッドを揺らしてしまったが、やはり彼女は起きる様子はない、深い眠りについているのが見て取れる。

自分は彼女に優しくできていただろうかと、今更自問自答を繰り返す。サイン会が終わった途端彼女を抱きたいという衝動が抑えられなくなり、部屋に戻った途端壁に押し付け唇を貪った。流石に玄関で始めるほど理性は無くしていなかったが、それでも胸を散々弄ってしまった。本当堪え性がない。しかし、彼女はやはり胸を弄られるのが好きらしい。キスとそれだけであそこまで感じてくれていたことに、言いようもない嬉しさを覚えた。心のどこかでは行為に対する恐怖心が残っていると思っていたから。けれど静香は言葉通り、気にしていなかった。自分との行為に期待と喜びを感じてくれていたのだ。それでも、これからも自分は彼女に触れる度に痛くないか、辛くないか、気持ち良いか確認するのは辞められないのだろう。

玄関で彼女に触れるということは否応なしにあの日の事を思い出させてしまう。彼女は気にするなと再三言うが、颯真はやはり過去の過ちを忘れることは出来ない。忘れることもなかったことにも出来ないならせめて、上書きしたかった。今夜の事を静香にとっての「初めて」にするつもりでゆっくりと彼女に触れた。

しかし、そんな誓いも即破られそうになる。興奮しきって玄関先で好き勝手胸を弄んでいた時、彼女は頑なに崩さなかった敬語を崩し甘ったるい声で先端を触って欲しいと懇願してきたのだ。ただでさえ危うい状況で恋人が敬語を忘れ、甘ったるい声で強請ってこようものなら。

ギリギリの状態で保っていた颯真の理性はこの時点で危うい。今すぐ己の物を取りだし欲望のまま静香にねじ込んで奥まで突き立てたい、甘い啼き声を漏らす唇を貪りたい、快楽で惚けた顔を記憶に刻み付けるまで凝視したい、という獣じみた熱情を自分の下唇を噛んだ痛みでどうにか抑え込む。また玄関で、なんて絶対駄目だ、次はベッドでと決めていた、と。誤魔化すように薄っすら汗の滲んだ髪をかき上げると、荒い呼吸を何度も繰り返し自らを落ち着かせる。

多分、一回目は優しく出来たと思う。まず初めて見た静香の綺麗な裸に興奮し、彼女のナカに入った瞬間、尋常ではない速度で競りあがる射精感を舌を噛んだ痛みでどうにか誤魔化した。目の前の彼女の反応を確かめることに意識を集中させないと、あっという間に理性を吹き飛ばされそうになる程の気持ち良さが襲い掛かる。全身の血がマグマのように沸騰し、血管が切れるのではないかと錯覚し、分身がドンドン固く質量を増すたびに彼女が身を捩り甘い声を漏らすのが堪らなく興奮した。一度は気が狂いそうになる程焦がれた彼女と心身ともに繋がれるということは、とても幸福で心が満たされるものなのだと初めて知った。セックスなんてただの性欲発散の行為だと思っていたのに、あそこまで気持ちが良かったのは初めてで、これもやはり相手が静香だからなのだろう。

クールを体現している静香が自分の前でだけは目を潤ませ、切羽詰まった声を上げ大いに乱れている姿は腰に響いて仕方ない。挙句「手を繋いでほしい」と言われた時は夢かと疑った。そんな可愛いことを強請られて断れる人間が居たら見てみたい、そいつは人間ではない。達してもおかしくなかったが、彼女と一緒に達したかったのは自分も同じだ。

激しくしたのに彼女が恥ずかしそうにしながらも「気持ち良かった」と言ってくれた時、本当に嬉しかった。そのまま喋るなりシャワーを浴びて一緒に寝ていれば「自分的に最高の夜」になっていた。そうはならなかったけど。

(自分は性欲強くないと思っていたのに…我ながら引いた)

結構な量の精がゴムをぷっくりと膨らませていたことにも驚いたが、全く萎えていない分身を見た時は驚きを通り越してドン引いた。一瞬抱き合ったことは幻覚だったのでは、と馬鹿げたことを考えた。しかし、アレはまずかった。どうにか静香に気づかれないように処理する必要性に駆られた。あんなものを見られたら「まだやる気なのか」と引かれると不安だったから。初心者の静香にもう一回、何て口が裂けても言えない。彼女が風呂に入るか寝るかした隙にトイレに行こうと画策し、あっさりと破綻したときはみっともなく動揺した。

なのに、彼女は引くどころか手伝うと言い出す。積極的な彼女に興奮すると共に、触られているという事実で暴発寸前に陥った。自分は悪くない、煽った静香が悪いと開き直った颯真は彼女をうつ伏せにした。初めて見た静香の背中は目を奪われる程綺麗で、真ん中辺りに黒子を見つけ堪らずそこを舐め上げた。当然彼女は抵抗したが気にしない。汗臭いとから駄目だと訴えていたが、櫻井は彼女の汗の匂いが好きだった。

(風呂上りに髪の匂いを嗅いでも怒らないんだよな。まんざらでもなさそうだし、やっぱ汗とか気にしてるのか…次からはシャワー浴びてからだな)

やはり彼女の嫌がることはするべきではない。そんな殊勝なことを考える癖に、舐めるだけじゃ満足できず、何個も何個も背中に痕を付けた。静香は眠そうにしてたから、まだ気づいていないだろうが胸の辺りにもかなりの痕を付けてしまった。気づいた彼女は怒るだろうか、顔を赤くしながらバシバシと背中を叩いてくるのか。可愛いのは確実だ、寧ろ怒って欲しい。

白い身体に何個も自分が付けた痕が視界に入るたびに何とも言えない気持ちになる。本当に彼女が自分の物になったのでは、と錯覚する。静香の身体も心も彼女自身の物で、そこに颯真が介入する余地は一切ないのに。あの痕が残っている間だけは静香が自分だけの物だというくだらない独占欲に酔いしれることを、彼女は許してくれるだろうか。

(太腿に付けるのもいいかもな、絶対他の男に見られないし…でも友達と温泉に行くってなったら困るか。やっぱ静香に確認取ってからにしよう)

あんなに痕を付ける独占欲の強い彼氏なんて絶対友達に心配される。何もかも彼女に許可を求めると言っておいて、2回目は意思を確認せず始めた。あのまま背後から彼女を抱きしめるだけに留めて置けば良かったのに。さっきまで自分を受け入れていた箇所はまだ濡れていたし、静香もまた抱くことを許してくれた。彼女が許してくれたのだから、と何度も何度も言い聞かせる。

(最近まで処女だった相手に2回目強請った挙句、後ろからって鬼畜だな、本当)

ほとほと呆れる他ない。やはり後ろからは不安だったのか、静香は戸惑っていた。でも彼女は彼女だった、こんな時でも勝気な態度は変わらない。態度を崩さないまま、熱くて仕方ないだとか早く動けだとか、こちらの気も知らずに煽ってくれる。絶対ワザとだ、静香は自分がされるがままだったことを気にしていたから。そんなこと気にしなくていいのに。彼女が気持ちよくなってくれるだけで十分過ぎるほど幸せなのだ。

それはそれとして、優しくすると言う誓いは何処へやら。結局激しく抱いてしまった。本当に気が大きくなっていたのだ、うわ言のように零した「好き」に彼女が何とか答えてくれた時感激のあまりうなじに噛み付き、好き勝手なことをした。仕返しとばかりに静香に噛み付かれた時も、自分の事がそんなに好きなのかと満足げな顔を見て、その余裕な顔を崩して自分の事しか考えられないくらい酷くしてやりたくなった。甘やかしたいのに、同時に酷くしてやりたいという相反する感情が自分の中で葛藤する。

宣言通り好きに動き始めた颯真に静香はキスして欲しいと強請ってくれた。自分の事が愛しくて堪らないと言いたげな慈愛に満ちた表情。散々煽られても保っていた理性の糸がプチン、と音を立てて切れた。そこから先はただただ、彼女を貪った。身体を、唇を、全てを食らいつくす勢いで。責められている上に口も塞がれ、彼女はかなり辛そうだった。

(キスするときは鼻で呼吸しろって教えたけど、あの状況だと無理か。何回もしてるから上手くなってきたけど、やっぱ根っこは初心なんだよな)

息苦しそうにする彼女を見ても、颯真は唇をほどこうとはしなかった。彼女は言っていた、一緒が良い、と。一回目は手を繋いでいたから今度はキスをしたまま、互いに触れ合った状態で達したい。好き勝手やっているのだからせめて、彼女の願いは叶えるべきだと。ほぼ一緒に果てた時、ぐったりとした静香を見た時は流石に焦った。彼女を気持ちよくさせるといいながら、結局自分の独りよがりな行為だったのではと罪悪感に襲われた。それでも静香は怠そうにしながらも微笑んでくれたし、怒ってもいなかった。どこまで自分を付けあがらせるのか。

疲れ果てて眠った静香の寝顔を見ていた自分もいつの間にか眠っていたようだ。目を覚まし、彼女の寝顔を眺めている今、改めて思う。

(本当に手放せなくなるな)

ちゃんと身体を重ねて再認識した、自分は静香と離れることが何よりも怖い。他の男が触れるなんて耐えられない、彼女の全てを知るのは自分だけで良い。静香が自分の側から居なくなったら冗談抜きで生きていくのを放棄する、そんな気がしていた。我ながら重い、重すぎる。

静香は人にあまり関心がないと心配していたが、人生は長い。颯真より何倍も素晴らしい人間と出会い、恋に落ちることも十分あり得た。こんな子供っぽくて独占欲が強い、情緒不安定な奴なんていつか愛想を尽かされる。けれど、もう無理だ。颯真は静香を「諦めること」を諦めた。

「…もう絶対逃がしてあげられない」

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