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第二部
44話…※
しおりを挟むその瞬間櫻井の顔が驚愕に染まったのは暫く忘れられないだろう。
「は?いや待って」
さっき静香もそう訴えたのに聞かなかったは櫻井だ。静香も待つ義理はない、と肩にカプッと噛み付いた。汗を掻いているので思わず「しょっぱい…」と肩に口を付けながら漏らした。次の瞬間、収まっていたモノが膨張し壁を押し広げていく。また達しそうになったけど、喘ぎ交じりで声を発することで気を紛らわせる。
「…そっちも…噛まれて感じてるじゃ…ないですか…っ」
完全に目の据わった静香に勝ち誇った顔で煽られた櫻井は情けない顔になっていた。やった、勝ったという心底くだらない優越感に浸る。
「っ…いきなり噛む奴があるか?てかいった…これ痕付いただろ」
「付いてませんよ…強く噛めるほど力入らないので」
平然と返すとグッと櫻井は言葉を詰まらせる。静香が力を入れられない元凶なのだから何も言い返せない。
「…優位に立ってる人が不意を突かれた時に見せる顔っていいですよね…」
「…ほんといい性格してるな、モテないよ」
「モテたいと思ったこと今まで一度もないので問題ないです。仮に私がモテたらどうするんですか」
そう問いかければ、口角を上げて不敵に微笑んだ。
「決まってるだろ、近づいてくる奴全員消す。絶対誰にも渡さない」
どこか仄暗さを纏った漆黒の瞳で言い切った櫻井。いつだったか同じ質問をしたが、あの時の返答より物騒さが増している。とっくに分かっていたが彼の静香に抱いている重い感情が垣間見えた。これを怖いとか煩わしいという感情が一切湧かず微笑ましい気持ちになる自分も大概変なんだろう。自分は変な上に男の趣味も悪いから。フフッと笑った静香を櫻井はむっとした表情で睨んだ。
「何で笑うの」
「いえ、私の事本当に好きなんだなと思って」
照れ隠して言い返すと思ったが、予想に反して気だるげな動作で髪をかき上げるとふーっと大きく息を吐いた。
「…そうだよ、静香の周囲の男全員に嫉妬するくらい好きだ。俺ばっかり好きなの何か悔しい」
素直に答えるとは意外だったし、慣れたとはいえ好きと告げられてむず痒くなる。そこで咄嗟に自分も同じくらい好きだとハッキリと返せない。静香も櫻井のことは相当に好きだが、彼の気持ちと比べるとどうしても差がある。ここまでどす黒い感情は抱いていない。が、それを向けられて嬉しいと思う自分も相当だ。今のところはそれでご満足いただきたい。
しかし、満足げに微笑む静香が気に食わないようだ。何の前触れもなく顔を近づけてくる。その動きに合わせて入っているモノもググっと奥に進む。身を捩っている静香の事は気にせず、嗜虐的な笑みを浮かべた。
「悔しいからさ、今だけは俺の事しか考えられないくらい責め立ててぐちゃぐちゃにしてやりたい。もう遠慮しないから、肩に噛み付けるくらい余裕あるなら問題ないよな?」
劣情でギラついた瞳で射抜かれた時、喉の奥からひゅっと音が漏れた。あれで遠慮していたという事実に慄く暇も与えられず、何度目かの激しい律動が再開された。
「…颯真さ…!もう無理っ…!」
「まだイってないから駄目、後そういう切羽詰まった声で名前呼ぶの逆効果だから、もっと虐めたくなるっ…」
自分を組み敷いている男は楽し気に宣言通りに涙やら何やらでぐちゃぐちゃになりつつある静香を見下ろしている。腰を打ち付ける力も弱まる気配はない。もう、冗談抜きで意識が彼方に飛びそうだ。後で文句を言ってやるという確固たる意思で焦点の合わない目で睨むと、それすらも興奮材料になるらしくフッと笑う。なけなしの力で背中に手を回し快楽の渦に叩き落とされそうになるのを堪えるためにグッと爪を立ててしまい、痛みで眉根を寄せたがそれすらも快感に変換されるらしく嬉しそうだ。
「背中…傷」
「いいよ、いくらでも爪立てて」
愛おしげに自分を見る瞳。遠慮しない、虐めたくなるとかいうくせに自分を見る目とふとした時に掛けられる言葉は優しい。だからどれだけ激しくされても苦しくはあるが怖くはない。そんな目の前の男に急にキスしたい衝動に駆られた。櫻井の興奮に自分も当てられたようだ、グイと彼の顔を引き寄せようとするが力が入らない。息も絶え絶えの状態で、乱れまくった甘ったるい声で「…キスして…」と強請る。彼が大きく喉を鳴らした、と思ったら。
(っ…!!)
文字通り口を塞がれた。まだまだ元気が有り余ってる熱い舌は、疲れ切って碌に反応を示さない舌に絡み付き吸い上げる。唾液を啜る音が響き、更にラストスパートだと言わんばかりに腰を振る速度も増す。
(息…できな…っ)
キスをしている時は鼻で呼吸をするのだと教えてもらったが、そこまで気が回らくなっている。息が苦しい、空気が上手く吸えなくて頭がクラクラしてきた。興奮と快感で息苦しさは緩和され、それを何十回と繰り返されると目の前にチカチカと星が散った。全身が強張り、肌が粟立つと頭のてっぺんから足の先まで快感が走りぬける。嬌声どころか悲鳴が喉から上がったが、体重をかけられ口を塞がれているため部屋に響くことはない。本当に助かった、繋がった口内で消えていった甲高い悲鳴は、碌に理性が残っていない状態では確実に制御できなかった。
達した静香の膣内が搾り取る勢いでぎゅううっと締め上げ、ついには耐え切れなかったのだろう、埋まっていた強直が一際大きく脈打つと最奥で何かが爆ぜた。それでも彼は頑なに唇をほどこうとはせず、喉の奥を鳴らしそこから本来漏れていたはずの声も繋がっている口内に消える。しかし、静香には微かに聞こえていた、甲高い上擦った呻き声が。脳がそれを認識すると、身体が勝手に彼を逃がさないようにまた逃げ道を塞ごうとした。一瞬唇を離すと「もうイッたから…」と情けない声で懇願された。
さっきも手を繋いていたけれど、達した時に互いの唾液を啜り合っているのは、殊更目の前の男と繋がっているのだと鮮明に感じられた。達する前から唇を貪っていたから、自分の口の端からどちらのものかも分からない唾液がつーっと垂れた。それを認識した櫻井はやっと口離すと、いつかと同じ動作でじゅっと音を立てて吸い上げる。静香から出たものは一滴残らず自分の体内に収めるという気概を感じられ、複雑だが静かに胸が高鳴っていた。
荒々しくも乱れ切った呼吸を整えてる櫻井は二度目の精を放出したことで幾分かの冷静さを取り戻す。ぐったりとして同じく上がった呼吸を整えている静香を見て、慌てて自身を引き抜くと顔を覗き込んだ。さっきまで楽しそうに自分の上で動いていたのが嘘のように狼狽えている。やり過ぎた、と後悔しているようにも見える。確かに身体全体が鉛を付けられたかのように重く、兎に角怠い。こうして神経を集中させていないと、今にも眠ってしまいそうだ。
「っ…身体大丈夫?」
「…」
行為の余韻やら何やらで頭がポーッとしていた静香は咄嗟に答えられなかった。けど、このまま黙っていると更に彼に心配をかけることは分かっていたから、何とか声を絞り出した。
「…あちこち怠いけど…大丈夫です」
そこで自分の声が掠れていることに気づき思わず口を手で覆う。散々喘いでいたからこうなるのも道理だ。櫻井も居たたまれない様子で静香の頬に触れる。
「声、掠れてる…後で喉に良いやつ作るよ、本当にごめ」
頻りに謝る彼の口を空いている右手で強引に塞いだ。謝れることは美徳だろうけど今は、謝って欲しくなかった。少しの罪悪感も抱いて欲しくない。静香は自分の意思で2回目を望んだ、その結果がこの怠さなら寧ろ嬉しかった。
「謝らないでください、私も煽ったところあるから。まあやり過ぎだし文句言いたい気持ちはあるけど、怒ってないです」
それでも彼は「でも…」と食い下がった。静香が良いと言っているのにすぐには納得しないところは相変わらずだ。それでも静香がジーっと見つめると観念したのか「分かった」とだけ答えた。
それから瞼が重く、眠くて仕方なかった静香は目を擦りながら「本当に限界、少し寝ていい…?」と櫻井に訊ねた。本当は寝ずに櫻井と話していたいという気持ちが大きいが、睡魔というものに逆らうのは難しい。調子に乗って煽って2回もしてしまったのがいけなった。次はちゃんと自分が終わった後起きていられるかどうかも考慮して行動した方がいいだろう。多分、終わった後相手がさっさと寝てしまうのは寂しいと思うから。
やはりと言うか彼は落胆したように目を伏せた後、すぐに微笑み返してくれる。
「少しじゃなくて、ゆっくり寝てて」
その顔を見た静香は張りつめていた糸が緩んだかのように、ゆっくりと瞼を閉じる。達してすぐ寝落ちてもおかしくはなかったが、寝るなら寝るで櫻井に伝えてからの方が良いと思った。目的を達した静香の意識はすぐに遠のいていった。暫く彼の手が自分の髪を梳いている感覚がしていて、それが妙に心地よい。「おやすみ」という優しい声が頭上から聞こえたのを最後に静香は深い眠りに落ちていった。
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