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第二部
26話
しおりを挟むふと背後から聞こえてくる低い声。静香と新條はそろって振り向くとムスッとした表情で段ボールを抱えた櫻井が立っていた。いつの間にか戻ってきたらしい、話に夢中で気づかなかった。
「あ、颯真お帰り」
新條が明るい声で答えても櫻井は不機嫌なままだ。
「何だよそんなブスッとして」
「戻って来たら2人して盛り上がっていたらこんな顔にもなるだろ」
相も変らず静香と新條が仲良さげに話しているのが気になるらしい。しかし今の新條にとって櫻井の悪態ですら揶揄いのネタになる模様。ニヤニヤしながら立ち上がり近づくと、櫻井の肩を叩いた。
「そんな不機嫌になるなよ、お前の話してたんだから」
「…俺の?」
少しだけ眉間の皺が薄くなった。分かりやすい。
「颯真のどういうところが良いか聞いたんだよ。最初は警戒心強かったのに段々気を許してくれたのが猫みたいで可愛いかったってことと、第一印象あまり良くなかったけどふとした言動から優しい人だって思い始めて、気づいたら好きになってたって。良かったな、雨宮さん自分のどこが好きか分からないって言ってただろ?」
と、油断しきっていたら静香の方にも流れ弾が飛んできた。ギョッとして新條の横顔を睨んでしまう。さっきの話は新條だから話したのだ、本人に直接伝えるとは…いやその可能性を留意していなかった静香の落ち度とも言える。しかし、少し考えれば静香が櫻井本人に伝えるのは恥ずかしがることくらい分かりそうだが。そして話の内容がサラッと誇張されている。
そして当然というべきか櫻井の顔はじわじわと赤くなってくる。
「あれ、顔赤くないか」
その隙を見逃さない新條は敢えて指摘する。唇を噛みしめ、本当に恥ずかしいのかプルプル震え出す。遂に耐え切れなくなったのか持っていた段ボールを新條に無理矢理押し付け、両手が自由になると急に座っていた静香の手を掴んだ。突然のことに驚きはしたが抵抗することなく促されるまま立ち上がると。
「…ちょっとこっち来て」
顔を伏せたまま短く言うと、「ごゆっくり」と後ろから野次を飛ばす新條を無視して2人はリビングを出て行った。
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