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第二部
23話
しおりを挟む「…静香は知らないだろうけど、日下部昔からモテたらしくて自分から告ったことないんだって」
「そうなんだ、凄いね日下部くん」
「うわ、興味ないのが透けて見えるわ…んでそういう奴が初めて告った挙句振られるという経験をすると」
「すると…」
「…逆に拗らせて執着する」
背筋に薄ら寒いものが走る。あの日の振ったはずなのに諦めようとしない日下部の姿が脳裏に蘇った。あの時は悪酔いの結果の言動だと決めつけていたが、もしかして。
「いやいや、変な事言わないでよ、日下部くんそういう人じゃないでしょ…多分」
「いや自信ないじゃん、んーまあ私も日下部がそうだとは本気で思ってないよ、ただそういう男も多いからそうかもっていう推測だよ」
「…ハッキリと友達以上に見れないしこれからもそれ以上の目で見れないってちゃんと伝えたけど」
朱音がブッと噴き出した。
「流石、容赦ないね。けど曖昧にするより希望は全部絶ったほうが良いよ。それくらい言えば普通の奴は諦めると思うけどね」
櫻井も似たようなことを言っていた。諦めが悪そうなのではないかと。心配していなかったが、2人に言及されると不安になる。微妙な顔になった静香を朱音は慌てて励ましにかかる。
「大丈夫だって、何かあったら私か、その彼氏さんに言って。というか大体の男はあの彼氏さん見たら怖気づいて逃げ出すでしょ。何なら付き合っている人が要るっぽいよって同期の間で言っといた方が良い?日下部は周囲の評判気にするから、彼氏が居る静香に変に絡むなんてリスクの高いことはしないはずだから、牽制にはなるよ」
牽制。まるで日下部が質の悪い男のような扱いだ。いくらなんでもそこまでは思っていない、あの日は苛立ってしまいきつい態度を取ったが、日下部とはこれまで通り友人として同期として付き合っていきたいと思っている。それすらも日下部を傷つける行為かもしれないけれど。
だが、日下部の出方が分からない以上対策は取っておいた方がいいかも、という気持ちもある。それこそ朱音の言う通り変に執着されて、櫻井の素性を探ろうとされても困る。作家のプライバシーは絶対に守らなければいけない。
「…じゃあお願い」
「分かった。まあ、日下部の話は置いといて。彼氏さんとはどこまで行った?キスくらいはした?」
「え」
「え?」
突然投下された爆弾に静香の反応は遅れた。あからさまに視線を逸らした静香に朱音は口角を上げてニヤニヤと笑う。
「…その反応もうした?色恋に全く興味なかったのに?あの人のことそんなに好きなんだ~へ~~~~~」
これは根掘り葉掘り聞かれるな、と覚悟した。流れで暴露してしまったが、朱音は不特定多数にばらす真似はしない。流れに身を任せることにした。
「まさかそれより先に進んでは…え…?…?」
口をきつく結んだまま何も喋らない静香。だが、沈黙は肯定と受け取られてしまい、朱音は目をまん丸に開き、硬直した。自分でもあるわけないと思って投げかけたのだろうけど、ガチな反応が来て驚いているのだ。朱音の反応も頷ける。静香は色恋に一切関心がなかったのだ、そんな自分が付き合って数週間でやることやった聞かされればこうなる。実際は付き合う前にしてしまったのだが。朱音の表情からは今聞いたことが信じられないとありありと表れている。適当に誤魔化すことも出来たが、そうすると自分のしたことを後ろめたく感じているようで気が引けた。だから正直に話すことに決めた。
「…付き合って数週間で?恋愛バブちゃんだと思ってたのに凄い進んで」
「この流れで言っていいのか分からないけど、付き合う前だよ」
被せる形で更なる爆弾を投下した。朱音の動揺は大きくなる。
「は???あんたが付き合う前の男とヤッたの???」
「ちょ、声が大きい…」
個室とはいえ大声で露骨な物言いはどうなのだ、と顔をしかめる。
「だって静香だよ、クソ真面目の。付き合ってない相手となんて夏に雪が降るレベルのことだよ?何でそんなことに?」
「何か…流れで」
「…ちなみに酒は?」
「素面」
口をあんぐりと開けた朱音。そこまで驚かれるのにも思う所があるが、それだけ静香らしかれぬ行為だということだ。
「言いたいことは分かる、自分でもなんでかなって思うから」
「…ごめん、衝撃強すぎて。ええ、マジか…けど、静香もその人に対して一ミリも気持ちが無ければそういうことしないでしょ」
コクリと頷く。もし櫻井以外だった、と想像したらそれだけで鳥肌が立ったし相手に怪我をさせてでも逃げていた。全部終わった後だから都合のいいように解釈しているわけではない。櫻井の気迫というか切羽詰まった雰囲気に流された感は否めないが、自分でも驚くほど後悔はしていなかった。
「なら私がどうこう言うことじゃないよ、社会人のやることだしね。いやー友達が急に大人になって何か寂しいな。けど温室育ちの真面目っ子をそんなにさせるなんて、俄然彼氏さん気になってきたんだけど、今度会わせてよ」
「…」
「え、何その目…いや、狙ってるとか一切ないから!友達の彼氏に色目使うとかあり得ない…ていうかあんたのその冷え冷えとした目、本当に怖いからマジで辞めて」
…いけない、つい睨んでしまった。友達相手になんてことを、と自責の念に駆られている静香に朱音が感心したように声を上げた。
「…静香に嫉妬という感情が備わっていたことに驚きを隠せないんだけど」
「ひどい、まあ事実だけど」
あっさりと認めたい静香に今度は腹を抱えて笑い出した、いや笑い好きでは。
「静香に嫉妬までさせる彼氏さん本気で気になるんだけど、単純な興味本位で」
正直にも程があるだろう、とつい呆れた目で見てしまう。興味本位でホイホイ会わせられるわけがない、色々難しい立場の人だから。嘘の職業や素性を説明しても必ずボロが出る。うちの編集部でも一部しか知らない清水学の素性を他部署の朱音には話せない。
「…本人が嫌がる可能性が高いよ」
「え、彼氏さん人見知りか何か」
「…何というか結構人嫌いだから、知らない人間と会うの体力使うから嫌って」
「…尚更そんな人どうやって落としたの…」
「…色々あったんだよ」
言い淀んだ静香に更に興味を搔き立てられた朱音だが、これ以上は話さないぞという確固たる意志を感じとり渋々引き下がったのだった。
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