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第一部
26話…S
しおりを挟むまたタイミングの悪いことに玄関に届け物を取り行こうとしたら足がもつれてスッ転んでしまいその音で彼女にかなり具合が悪いことがバレた。ナンパの時の借りを返すと、今にも死にそうな自分を心配し料理まで作ってくれた。素っ気ないけど優しい。馬鹿な男ならコロッと落ちてしまいそうだと笑った、今まさに自分が馬鹿な男になりかけているのに。家族にも看病された記憶がない颯真には、何てことのない行為でも驚くほど心に染み入っていくの感じる。
静香は担当作家が死にかけているから仕方なく世話を焼いてくれているだけだ、決して自分の都合のいいように解釈するなと言い聞かせた。好意を抱いている相手が看病してくれているというのに、颯真の心の中は虚しさしかなかった。そんな颯真の葛藤も知らない静香はこちらの望むことを見抜き、叶えようとしてくれた。相変わらず自分は素直に厚意を受け取ることが出来なかったし、「櫻井は自分をそういう対象で見ないだろう」と事も無げに言われた時は苛立ちすら覚えた。全く眼中にないという事実を突きつけられ、愕然とする。
望みのない片思いをしている分際であの日、偶然喫茶店で新條に笑いかける彼女を見た瞬間、どす黒く醜い感情に支配された。新條のことも最初は嫌いだった、兄と同い年で人当たりも面倒見も良かったから、どうせ兄と同じで影で自分を嘲笑っているのだと。…それなりに話すと新條が本当に見た目通りの人間で兄とは違うと分かったのに、今更素直になることも出来なかったのだ。
それに聡い新條のことだ、自分が静香に惹かれていることにも気づいていたはずだ。なのに新條は静香と親しげにしていた、兄と同じで自分の欲しいものを全部取って行くのだと決めつけ怒りを募らせた、やはり裏切るのだ、と。
そして静香に対しても自分以外の男に笑ったと、ただの担当作家の立場で嫉妬していたのだ。静香が心配すると分かって連絡を絶ち失踪したのも、それに対する意趣返しだった。我ながら最低にもほどがあると自嘲した。
なのに、静香が他の編集者に話を聞き自分を探し回っていたと知り、言いようのない喜びが心の中を満たした。基本的に冷静…ドライな彼女が後先考えず突っ走った真似をしたことに対して、もしかして担当作家以上の気持ちを自分に抱いているのではと期待した。
しかし、彼女が新條と食事をしたと知った瞬間、心の中が急速に冷えていくのを感じた。その上自分を探す道中も新條が付き合ったと聞き、頭に血が上り静香の口から新條の名前を聞きたくなくて、無理矢理口を塞いだ。そこから先は今思い返しても死にたくなる。
彼女の薄く小さな唇を貪り、身体を好き勝手に弄った。普段はクールで済ました静香が自分の手によって乱れ喘いでいるのはどうしようもなく興奮したし、彼女は気づいていなかっただろうけどキスをした時点で颯真の分身はすっかり勃ち上がっていたのだ。
無理矢理快楽を教え込まれている静香が頑なに否定したので、そこで少し頭が冷えて新條とは何もなかったのだと理解したが、もう止めることは出来なかった。理恵…静香との顔合わせの時に呼んでいた女が面白半分で玄関に置いたゴムが役立つとは思わなかった。いや、あれがなければ最後まですることはなかったから、理性のタガが外れたのは8割くらい理恵に非がある、ともう会うこともない相手に怒りをぶつけた。
彼女の白く綺麗な身体に自らの欲望をぶつけ、知らない箇所はないと言う程貪りたいという衝動を抑えられなくなった。薄々察してはいたが静香は華奢な割に胸が大きかった。実際静香の胸を揉みしだいた瞬間、手に収まりきらない乳房の大きさとあまりの柔らかさに、興奮を抑えるのはままならず幾分もしない間に理性何てものは彼方へと飛んで行く。
静香の秘所から水音がした瞬間彼女が自分の手で感じていることに言いようもなく歓喜し、また彼女が処女だと言うことも分かり彼女の身体を知る人間がこの世で自分だけなのだという事実に仄暗い征服感で心が満たされた。
このまま続けたら彼女を永遠に失うことになるのを分かっていたのに、もう自分ではどうにも止められなかった。それほど彼女の中は気持ちよかったのだ。無理矢理犯され嫌がっているはずの静香を見ているだけで己の分身がドンドン膨張していった。本当に死後の世界があったとしたら間違いなく自分は地獄行きだ、好きな相手を組み敷いて興奮する鬼畜は来世はミミズにでも生まれ変わればいい、と心の中で吐き捨てた。
…彼女が自分の言った「可愛い」という言葉に反応し一番中を締め付けた時言いようもない絶望感すに支配された。もしかして静香が自分に対しただの担当作家以上の感情を抱いていたのでは、という自分勝手な願望が本当の可能性があったのに、それを他ならない自分の手で完膚なきまでに叩き潰したことに気づいたからだ。嫉妬に狂う前に自分の本心を吐き出していれば、彼女は前向きに検討してくれたかもしれないのに、例え好意を抱いていたとしても犯した男に対して抱くのは殺意と憎しみだけだ。
その事実に絶望を感じるより先に喜びを感じた颯真とほぼ同時に静香も達した。ぐったりとして気を失う静香を見下ろしながら櫻井は声を押し殺し、静かに泣いた。自分のしでかした取り返しのつかない過ちを後悔しながら。
その後の事はよく覚えていない。気絶した静香をソファーに寝かし、出来る限り身体を綺麗にして…未練がましいにも程があるが眠る彼女の額に口付けた。すぐにこれ以上静香を汚すわけにはいかないとふき取ったが。その後、執筆部屋に籠り自責の念に駆られ続けていた時、新條から電話がかかってきた。今までの経験から颯真が戻る日も何となく予想できたのだろう。露骨に暗い声で電話に出た颯真に何かしら思う所は合ったはずだが、聞いては来なかった。新條は馴れ馴れしいが、本当に踏み込んでほしくないところには土足で上がり込んでこない。
新條はいつもと同じくまるで友人のように颯真を気遣う言葉をかける。次にこう切り出してきた。
「雨宮さんが、お前の行先に心当たりがないか聞き回ってて、それから有休使って一つ一つ当たっていくとか言い出したらしくて。心配だから俺も付いて行ったんだよ、編集長にも危なっかしいから見といてくれって頼まれたし。数日かけて箱根のホテル旅館一緒に回っただけで、マジで何もないから問いただしたりするなよ」
「…それ本人からも聞いたよ、何でわざわざあんたまで」
「お前の事だから変に誤解して突っ走ると思ったからだよ」
言葉が出なかった、実際誤解して突っ走り取り返しのないことをしでかしたからだ。明らかに狼狽えた颯真に対し、新條も不穏な何かを感じたようだ。が、ため息を吐くだけで深堀はしてこない。
「…まあ俺が言いたいのは友達が気になっている相手に何かするクソ野郎じゃないってこと。用はそれだけ、じゃあな」
言いたいことだけ言ってそのまま電話を切った。勝手な態度に思わず舌打ちをしてしまう。電話するのならもっと早くしろ、新條から予め話を聞けていたらあんなことしていない、と理不尽極まりない怒りを新條にぶつけスマホを力いっぱい握りしめた。分かっている、新條は悪くない、自分が誤解されかねない行動をしたと自覚していたから直接颯真に電話してきたのだ。疚しいことがあればこんなことはしない。
結局は自分が誰の事も信じられずに暴走した結果だ。目覚めた静香がどう出るかは分からないが、確実に罵倒されるか殴られはするだろう。怪我をしようが骨が折れようが、全部受け止めるつもりだった。されて当然のことを颯真はしでかしたから。
その後目を覚ました静香に謝罪をした、そんなことくらいで許されないけれど。謝罪をされた静香は「いえ…」と俯いたまま呟くとすぐに部屋から出て行った。恨み言をぶつかられるか怯えられるかされると思っていたのに、どちらでもなかった。恐らく彼女が部屋に来ることは二度とない。未練がましく静香の出て行ったドアを見つめ続けた。
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