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「あ…ごめん、もう行かなきゃ。
連れが待ってるんだ」
私と話すのが気まずいって高梨さんも思ってるのかな。
それとも、ホントにお連れの人を待たせたくないのかも。
「新しい彼女さんですか?
…高梨さんも、幸せになって下さいね」
決して高梨さんは悪い人じゃないの。
こんな私にも、せっかくいろいろしてくれたんだけど…私は何も応える事が出来なかっただけ。
だからせめて、高梨さんには幸せになってほしい。
それは、私の本音なのよ。
「彼女なんかじゃないよ。
あくまでも、これも仕事なのさ。
僕の幸せは…優しかなかったよ」
「…もぉ、そんな冗談…」
「冗談なんかじゃないさ!」
私の言葉を遮り、急に高梨さんにグッと両肩を掴まれた。
トイレの前の狭い通路でグッと掴まれた肩。
ドキッとして、私は呼吸が止まりそうだった。
だって…高梨さんの表情が、これまでにないくらい真剣だったから…。
「優の事は…本当に好きだったんだよ」
さっきまでの柔らかい笑みは消えていた。
切ないような…そんな眼差しを、高梨さんは私に向けている。
「これまでたくさんの女の子と付き合った事はあったけど、本当に好きになったのは優だけだったよ」
「…高梨 さん…っ」
「金も地位もある。容姿だって引けを取らないと思っている。そして優を想う気持ちも絶対に負けていない!
そんな僕なのに、それでも優はあいつの方がいいのかい…?」
あいつって言うのは、勇さんの事だ。
高梨さんはまだ、勇さんの事を目の敵にしてるんだ。
高梨さんの言う通り、高梨さんはホストクラブを経営している社長さん。
お金持ちだし、顔やスタイルもとってもステキ。
オマケに私にもスゴく優しく接してくれたし、身体を張って女の子たちを接待している仕事姿なんかは、とってもかっこよかったよ。
だけどね…
私が好きになったのは、高梨さんじゃなかったの。
もし、私が勇さんに会う前に高梨さんに出会っていたら…それはどうなっていたか、私にもわからない。
でも、今私が心から愛しているのは勇さんだけだから…。
だから…
「…ごめんなさい…」
もう何度となく、高梨さんに言った言葉。
多分、高梨さんもうんざりしてるんじゃないかとさえ思う。
そしてその謝罪の言葉は、高梨さんを完全に拒んでいる事を示しているんだ…!
「優…っ」
私の肩を掴む手の力が強くなった。
両肩をギュッと掴まれ、逃げる事もできない。
すぐ目の前に私をまっすぐに見つめる高梨さんの顔がある。
それがツラくて、私はまともに見れず視線を斜め下に反らした。
また、強引にキスされちゃうかもしれない。
大声を出せば、誰か駆けつけてくるとは思う。
だけど……っ
「…ごめん。
困らせちゃったね」
「え……」
高梨さんは、グッと掴んでいた私の肩をそっと離してくれた。
「今までの人生で、手に入れられなかったものなんてなかったよ。
…悔しいなぁ。本当に欲しいものに限って、手に入らないんだから」
そう言って私から手を離した高梨さんは、一歩後ろにと身を引いた。
かつてこれほどまでに、男性から好かれた事なんてあったかしら。
こんなにも良くしてくれてるのに、私は何も応えてあげられない事に、何だかもどかしささえも感じてきた。
「君みたいな子…この先もう出会えないかもしれないな。
…好きだったよ、優…」
「………………っ」
…もうこれ以上、ごめんなさいって言えない。
だって、言えば言うほど高梨さんを傷つけているみたいで…私もツラくなるから…っ
「じゃあ…ね。
また会う事はないと思うけど。
元気で……相川さん」
「…………!」
クルリときびすを返した高梨さんは、テーブル席の並ぶ方へと歩いて行った。
…高梨さんは自分の幸せよりも、私の幸せを優先してくれたんだね。
ありがとう、高梨さん。
連れが待ってるんだ」
私と話すのが気まずいって高梨さんも思ってるのかな。
それとも、ホントにお連れの人を待たせたくないのかも。
「新しい彼女さんですか?
…高梨さんも、幸せになって下さいね」
決して高梨さんは悪い人じゃないの。
こんな私にも、せっかくいろいろしてくれたんだけど…私は何も応える事が出来なかっただけ。
だからせめて、高梨さんには幸せになってほしい。
それは、私の本音なのよ。
「彼女なんかじゃないよ。
あくまでも、これも仕事なのさ。
僕の幸せは…優しかなかったよ」
「…もぉ、そんな冗談…」
「冗談なんかじゃないさ!」
私の言葉を遮り、急に高梨さんにグッと両肩を掴まれた。
トイレの前の狭い通路でグッと掴まれた肩。
ドキッとして、私は呼吸が止まりそうだった。
だって…高梨さんの表情が、これまでにないくらい真剣だったから…。
「優の事は…本当に好きだったんだよ」
さっきまでの柔らかい笑みは消えていた。
切ないような…そんな眼差しを、高梨さんは私に向けている。
「これまでたくさんの女の子と付き合った事はあったけど、本当に好きになったのは優だけだったよ」
「…高梨 さん…っ」
「金も地位もある。容姿だって引けを取らないと思っている。そして優を想う気持ちも絶対に負けていない!
そんな僕なのに、それでも優はあいつの方がいいのかい…?」
あいつって言うのは、勇さんの事だ。
高梨さんはまだ、勇さんの事を目の敵にしてるんだ。
高梨さんの言う通り、高梨さんはホストクラブを経営している社長さん。
お金持ちだし、顔やスタイルもとってもステキ。
オマケに私にもスゴく優しく接してくれたし、身体を張って女の子たちを接待している仕事姿なんかは、とってもかっこよかったよ。
だけどね…
私が好きになったのは、高梨さんじゃなかったの。
もし、私が勇さんに会う前に高梨さんに出会っていたら…それはどうなっていたか、私にもわからない。
でも、今私が心から愛しているのは勇さんだけだから…。
だから…
「…ごめんなさい…」
もう何度となく、高梨さんに言った言葉。
多分、高梨さんもうんざりしてるんじゃないかとさえ思う。
そしてその謝罪の言葉は、高梨さんを完全に拒んでいる事を示しているんだ…!
「優…っ」
私の肩を掴む手の力が強くなった。
両肩をギュッと掴まれ、逃げる事もできない。
すぐ目の前に私をまっすぐに見つめる高梨さんの顔がある。
それがツラくて、私はまともに見れず視線を斜め下に反らした。
また、強引にキスされちゃうかもしれない。
大声を出せば、誰か駆けつけてくるとは思う。
だけど……っ
「…ごめん。
困らせちゃったね」
「え……」
高梨さんは、グッと掴んでいた私の肩をそっと離してくれた。
「今までの人生で、手に入れられなかったものなんてなかったよ。
…悔しいなぁ。本当に欲しいものに限って、手に入らないんだから」
そう言って私から手を離した高梨さんは、一歩後ろにと身を引いた。
かつてこれほどまでに、男性から好かれた事なんてあったかしら。
こんなにも良くしてくれてるのに、私は何も応えてあげられない事に、何だかもどかしささえも感じてきた。
「君みたいな子…この先もう出会えないかもしれないな。
…好きだったよ、優…」
「………………っ」
…もうこれ以上、ごめんなさいって言えない。
だって、言えば言うほど高梨さんを傷つけているみたいで…私もツラくなるから…っ
「じゃあ…ね。
また会う事はないと思うけど。
元気で……相川さん」
「…………!」
クルリときびすを返した高梨さんは、テーブル席の並ぶ方へと歩いて行った。
…高梨さんは自分の幸せよりも、私の幸せを優先してくれたんだね。
ありがとう、高梨さん。
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