上 下
57 / 76

しおりを挟む
「あれ?その反応…
まさか君、優が妊娠してる事を知らなかったのかい?」


「優が…妊娠だと…?」


とうとう知られてしまった私の妊娠。

私だって初めて自分の妊娠に気付いた時はとても驚いて、しばらく時間を忘れてしまったくらいだもの。

今の勇さんも、あの時の私とおんなじ顔をしている…。



だけど勇さんは、突然高梨さんに掴みかかった。


「ぅわっ!」

「…お前、優に何をした…っ!!」


「何って…っ」

「優に…
俺の優に何をしたのかって訊いてんだよ!!」


高梨さんの襟首を掴んだ勇さんは、力いっぱい押し上げて高梨さんの首を絞める。



「や やめて!勇さん!
私は何もされてないからぁっ!」


高梨さんの首元を手加減なく締め上げる勇さんを、私は慌ててなだめようとした。

大変だ!
勇さんは、私は高梨さんに妊娠させられたと勘違いしてるんだ!

だからあんなに怒って…っ



「いい加減に…しろよっ!」


襟首を締め上げられ呼吸も苦しげになった高梨さんも、勇さんの掴む腕を掴み返した。


「おまっ」

「あのねぇ!
何を勘違いしてるか知らないけど、何だい?君は優から何も聞かされてなかったのか?」


勇さんの腕を振り払った高梨さんは、乱れた自分の襟を直しながら言った。


私もこれ以上勇さんが誤解したままだと、高梨さんに危害を加えそうなので慌てて本当の事を言ったの。


「違うの、勇さん。
あのね、私のお腹にいるのは…勇さんの赤ちゃんなんだよ」


もっと早くに言おうと思った。
もっと早くに言いたかった。

だけど、勇さんの反応が怖くて…ずっと言えなかったのっ


私と勇さんの愛の結晶。
だからどうか…嫌いにならないで…!!



「俺の…子どもだと…?」


ようやく本当の事を知った勇さんは、さっきまで高梨さんをものスゴい形相で睨みつけていたのに、今度は信じられないといった表情で私を見た。


ううん、私じゃない。
私の…お腹の方だ。


「あははっ
優はこの事を言わなかったんだね。
それはやっぱり僕と秘密のまま、なかった事にするつもりだったって事なのかな?」


未だ信じられない様子の勇さんに、高梨さんはとんでもない事を言った。

違う!
私はそんな理由で勇さんに言わなかったんじゃあないよぉ!


「今日はその事を話そうと思って来たんだけど、これでもうハッキリしたね。
優の身体の為にも早く病院に行こうね。
優さえ良かったら今からでも…」


「ま、待って下さい!
私そんな事…」

「優!!」


焦って高梨さんの誤解を解こうとしたその時、今度は勇さんが私に対して大声をあげた。


勇さんの矛先が私に向けられた。
黙ってた事、怒られるのかな…っ

それとも、高梨さんとお付き合いがあった事の方を…?


どっちにしても、悪いのは私。
怖くて黙ってたという事で、私はこんな結果を招いてしまったんだ…!



「優…お前、本当に妊娠してるんだな…?」


…コクンと、一度だけ頷く。


「本当に、俺の子どもなんだな?」


もう一度、私はコクンと頷いた。


黙っててごめんなさい。
でも高梨さんが言ったように、誰にも言わないままおろそうと思ったわけじゃないの。


勇さんに嫌われたくないから…っ
そんな子いらないって言われたくなかったから…!

この先もずっと、一緒にいたかったから…!!


だから………



「…わかった。これで俺も、決心した。
タカナシ…って言ったな。
優とどんな関係かは知らねぇが、お前に優はやらねぇよ。
そんな話をしに来たんなら、話す事はねぇ。さっさと帰んな」


そう言う勇さんに対し、まだ諦めた様子を見せない高梨さんは、フッと笑った。



「だからさっきも言ったけど、別にタダで優を貰おうだなんて思っちゃいないよ。
こんな天使みたいな子、君が手放したくないのは僕だってわかるからね」


「じゃあ何だってんだ!
だいたい、優は俺の女だ。
誰かに共感されたくもねぇよ!」



『お前に優はやらねぇよ』
『優は俺の女だ』

勇さんの言葉で、どんどん胸がキュウッと締め付けられる…。

高梨さんの強引さに怯えた日もあったけど、こうやって勇さんの言葉を聞くと、スゴく嬉しいし安心できるの。

もっと早く、聞きたかったよぉっ
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3億円の強盗犯と人質の私⁉(ラブサスペンス)

むらさ樹
恋愛
私…誘拐されちゃった!? 春うらら 明日から社会人1年生になるってのに、まさか銀行強盗の人質になり、更には誘拐までされてしまうなんて! でも私にとってのまさかは、人質になってしまう事なんかじゃなかった 人質になったからこそ出会えた 誘拐されたからこそ惹かれた そんな銀行強盗兼誘拐犯な、彼 そして、私 でもこれから 一体どうなるの…?

再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです

星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。 2024年4月21日 公開 2024年4月21日 完結 ☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

和泉杏咲
恋愛
私は、もうすぐ結婚をする。 職場で知り合った上司とのスピード婚。 ワケアリなので結婚式はナシ。 けれど、指輪だけは買おうと2人で決めた。 物が手に入りさえすれば、どこでもよかったのに。 どうして私達は、あの店に入ってしまったのだろう。 その店の名前は「Bella stella(ベラ ステラ)」 春の空色の壁の小さなお店にいたのは、私がずっと忘れられない人だった。 「君が、そんな結婚をするなんて、俺がこのまま許せると思う?」 お願い。 今、そんなことを言わないで。 決心が鈍ってしまうから。 私の人生は、あの人に捧げると決めてしまったのだから。 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚ 東雲美空(28) 会社員 × 如月理玖(28) 有名ジュエリー作家 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚

ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編

タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。 私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが…… 予定にはなかった大問題が起こってしまった。 本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。 15分あれば読めると思います。 この作品の続編あります♪ 『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』

処理中です...