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「あ……うん……」


電話の高梨さんは、私の身体を心配してくれている。
私の妊娠を知ってるのは高梨さんだけだから。


だけど、側で聞いてる勇さんの前で何て応えたらいいかわかんないよっ



『優のお母さんから電話があったよ。
優が失礼な事しちゃってすみませんって』


「お母さんが?」


失礼な事って、結納金を突き返してしまった事だ。
私があんな事をしたから、お母さんは高梨さんに謝罪の電話をいれたんだわ。



『結納金は今はまだ僕が預かっているけど、また改めて納めに行こうと思ってる』


「…………っ」


『でもそれは、優の身体が僕を受け入れられるようになってからだ。
こういうのは早い方が優の身体の負担にならなくていい。
病院なら僕はいつでも、一緒に行ってあげるよ』


病院…!
赤ちゃんをおろす為の、病院に…っ


「ま 待って。
まだ、急には…」


確かに、もともと望んで生まれた命というわけではない。

だけど、だからって罪もないこの子を大人の都合でおろしちゃうなんて事…!



『いつまでも時間ばかり費やしたって、何の得にもならないよ。
じゃああと1週間だけ、考える時間をあげるから。
来週の日曜日に、優の答えを聞くからね』


来週の日曜日…!

その日までに、赤ちゃんをおろすかどうかを決めなきゃならないんだ。


結婚もしないまま、お母さんとは絶縁状態で赤ちゃんを生んで育てるか。

その際には、もしかしたら勇さんが一緒にいてくれるとも限らない。


あるいは、全てをリセットして高梨さんと結婚し、安定した生活を始めるか。


どっちにしても、代わりの犠牲が出るのは仕方ないの…?

こんな事、どう勇さんに相談したらいいかわかんないよっ



「………………」


動揺を隠せないまま、高梨さんとの通話は終わった。


何事もなかったかのように笑顔で勇さんの方を向こうと思っていたけど、こんな心境で曇らせた顔のままじゃあ振り返る事が出来ない。


もう、どうしていいか自分じゃわからない!!



「…優。
やっぱり、良くない感じだったな」


今の電話をお母さんからだと誤解したままの勇さんが、フワッと背中から私を抱きしめた。



「俺さ、学歴も収入もロクなもんじゃないけどさ、でも優を幸せにしたいって気持ちだけは間違いねぇよ」


「…………………っ」


「せめてもう少し収入が安定したらさ、その時は堂々と言おうと思ってたんだ。
………………結婚してくれ、ってな」


「……………!
…勇さん!?」


淡く期待はしていたけれど、今ここでそれを聞けるとは思わなくて驚いて振り向いた。


結婚!
勇さんが私との結婚をちゃんと考えていてくれていた!!



「まぁ俺は親と勘当してるからいいけど、優にはそんな事させたくないしな。
それでもお前、俺についてきてくれるか?」


私が初めて勇さんと出会った時から、勇さんは親御さんと縁を切ってるとは聞いていた。

私もお母さんとは今それに近い状態ではあるけど、勘当だなんてもちろんしたくない。


だけど、お母さんの言いなりになって高梨さんと結婚するなんて、それは嫌…。


勘当もしたくないけど、でも私は勇さんとずっと一緒にいたい!

勇さんと…


「結婚…嬉しい!」


私は勇さんの身体に顔をうずめるように抱きついた。
すると勇さんも、私の身体を抱き返してくれた。



「まともな結婚式は出来ないかもしれないけど。
でもいつか、2人だけで式も挙げような」


「…うんっ!!」

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