上 下
44 / 76

しおりを挟む
その後

スーパーで食材の買い物を済ませると、無意識に足早になってアパートに帰ってきた。


いや、無意識じゃないかな。
早く結果が知りたいもの。


買ってきたお野菜やらお肉やらをキッチンに置いたまま、私はすぐにトイレに駆け込んだ。


箱から中身を取り出して説明書を読む。



「キャップを外して…検査薬の先に尿をかけて…」


難しい方法ではなかったので、私はとりあえず指示通りにやってみた。

結果には少し時間がかかるらしい。


「エンドラインまで到達する間に、陽性反応があれば妊娠…かぁ」


結果が出るまで、私はトイレにこもったままドアを背にして目を閉じた。



「…はぁ…」


ケータイにはお母さんからの着信が何件も残っていた。


あれだけの事をしたんだもの。
きっとお小言…ううん、相当お説教されるに違いないわ。

ましてや妊娠までしてたなんて事になったら!


……怖くてお母さんに言えないよぉ。



「……」


何となく、お腹をさすってみた。


ここに、いるのかな。
もしいるのなら、今どのくらいの大きさなんだろう。

赤ちゃん、男の子か女の子か決まってんのかな。
だとすれば、もう命として生まれてるって事だよね。



「…………………」


なんて思ってるうちに、恐らく1分ぐらい経ったと思う。


置いておいた検査薬を手に取って見る。


赤ちゃんはいつか欲しいけど、せめて結婚してからがいい。

結婚前にできちゃうなんて、そんなの架空ドラマのシナリオみたいだよぉっ



「…ぁ………」


だけど

表示された検査薬の結果は、見間違いようもなく陽性反応が出ていた。


これで、私の妊娠は確定しちゃったんだ…!!






キッチンに戻り、買ってきた食材を整理しながら晩ご飯の支度を始めた。

仕掛けたお米が炊飯され、湯気が立っている。



「……………っ」


ご飯が炊けるニオイなんて今まで不快に思わなかったのに。
まるで胃の中が絞られているように気持ち悪い。



「何かあっさりしたものじゃないと…食べれそうにないかも…」


検査薬で陽性を確認しちゃったのもあるけど、身体にこうやって反応があると妊娠した事に重みを感じる。


高梨さんは、秘密にしてなかった事にしてあげるって言ってたけど…

勇さんは、赤ちゃんができちゃった事をどう思うかな。


私と結婚してくれる気があるのかどうかもよくわかんない。

もし結婚はする気ないなら…この赤ちゃんだって欲しくないって思うかもしれないね…。


吐き気と戦いながら、勇さんが仕事から帰った時に食べるご飯を作る。


私の赤ちゃんを必要としてくれる人なんていないかもしれない。

まずお母さんには絶対反対される。
勇さんだってきっと困ると思う。

だったら…高梨さんにお願いして、みんなには秘密にしてもらってお腹の赤ちゃんを……?



――『優は目をつむっていれば済むんだ。
その後は、改めて僕と結婚しよう』



結婚…。
高梨さんと結婚…。



「…ぅっ…く」


ぽろぽろと、涙が溢れてきた。


どうしていいか、わからない。



一番大好きな勇さんにも、怖くて言えない。



実際に妊娠した私が一番悪いのはわかってる。


だけど、だけど…!


できちゃった命は今更どうにもできないじゃない!









「…優…
  …優!」


「…………ぁっ」


身体を揺さぶられた刺激で浅い眠りから目が覚めた。


目の前には、まだ視界が定まらなくてぼやけているけど勇さんがいた。


「あ…お帰りなさい…っ」


まだお日さまも地球の裏側にいる深夜。

勇さんが仕事から帰ってきたんだ。



「どうしたんだ?
よく寝てるのかと思って見たら、顔や枕が濡れてるじゃないか」


「ぁ…」


ロクに食べられなかった晩ご飯に、1人きりの夜。

誰にも言えない秘密を抱えてしまって、不安で不安でベッドの中でしばらく泣いていたんだ。



「何かあったのか?」


そんな私を心配してくれる勇さん。


あのね。
私のお腹の中に、勇さんの赤ちゃんができちゃったんだよ。

なんて…言えないよぉ…。



「…あは。
ひとりぼっちでいると、寂しくなっちゃって」


なんて言いながら苦笑いを浮かべると、勇さんはベッドで寝てる私の身体を起こしてギュウっと抱きしめてくれた。



「バカだな。
そんな事でガキみたいにビービー泣いてんのかよ」


「…もぉ、子どもじゃないったら」


私がそう言うと、勇さんはまだ少し濡れてる私の頬にキスをしてくれた。


「バカ、わかってるよ」


勇さんが私をスゴく大事にして、スゴく愛してくれてるのがわかるの。

それはとっても嬉しいし、とっても幸せ。


だけど、お腹の赤ちゃんにも同じように愛してくれる?




「優…」


抱きしめてくれた勇さんの手が、私の身体を撫で始めた。



「……………」


ん…。
今は…そういう気分じゃないかも。

生理は終わったって言ったばかりだし、いやなんて言い方もしたくはないな…。



「ね、もうご飯食べた?」


「あぁ、美味かったよ」


「お茶、入れてあげるよ。
一緒に飲も」


「ん、あぁ」


勇さんの腕からすり抜けると、私は半ば逃げるようにキッチンに向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?

イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」 私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。 最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。 全6話、完結済。 リクエストにお応えした作品です。 単体でも読めると思いますが、 ①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】 母主人公 ※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。 ②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】 娘主人公 を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「僕は絶対に、君をものにしてみせる」 挙式と新婚旅行を兼ねて訪れたハワイ。 まさか、その地に降り立った途端、 「オレ、この人と結婚するから!」 と心変わりした旦那から捨てられるとは思わない。 ホテルも追い出されビーチで途方に暮れていたら、 親切な日本人男性が声をかけてくれた。 彼は私の事情を聞き、 私のハワイでの思い出を最高のものに変えてくれた。 最後の夜。 別れた彼との思い出はここに置いていきたくて彼に抱いてもらった。 日本に帰って心機一転、やっていくんだと思ったんだけど……。 ハワイの彼の子を身籠もりました。 初見李依(27) 寝具メーカー事務 頑張り屋の努力家 人に頼らず自分だけでなんとかしようとする癖がある 自分より人の幸せを願うような人 × 和家悠将(36) ハイシェラントホテルグループ オーナー 押しが強くて俺様というより帝王 しかし気遣い上手で相手のことをよく考える 狙った獲物は逃がさない、ヤンデレ気味 身籠もったから愛されるのは、ありですか……?

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

処理中です...