上 下
42 / 76

しおりを挟む
高梨さんは私のスカートに手を入れると、そのまま足に触れた。


「ゃっ、待って!
ダメです!本当にダメなんです!!」


「大丈夫だよ、優しくしてあげるから。
ほら、もう黙って…」


高梨さんの唇が、私の唇に強く押し当てられた。


「…んっ……
ダ ダメ! 勇さ…んっ!」


「いいね。
もっと僕を呼んで、優。
そうしたら、とびきりステキな夢を見せてあげる」


「いやぁ!
夢なんていらないです!
私の事なんて早く捨てちゃって下さい!」


「捨てるだなんて、まさか。
こんなかわいい子猫ちゃん、誰にもあげないよ」


高梨さんのキスが唇から首筋、胸元の方にまで移動してきた。


高梨さんの匂いが鼻に感じた。
怖くてゾクゾクする!

嫌悪感で鳥肌さえ立ってきた。

好きでもない人に触られる事がこんなにも怖いなんて!


何だか気持ち悪くもなってきた。
早く、早く私から離れて…!!

不快感と嫌悪感が私を支配し、だんだんとそれがこみ上げてきた。

小鳥遊さんの付けてる香水、いつもより強いっけ。

胃の奥からあの空腹感独特の気持ち悪さが押し上げてくる感じ。



やだ…吐きそう。



「ぅ……………っ!」


私は手の平を口にあて塞いだ。


晩ご飯はまだ食べていない。

お腹が空いてると言えば空いてる。


吐くものなんてお腹の中にはないハズなんだけど、でもこみ上げてくる胃液が私に襲いかかってきたの。



そんな私の異変に気付いた高梨さんも、さすがに手を止めて私の様子を見た。



「優…?」


「………っ………っ」


両手を口元に当て涙目になった私に、高梨さんはゆっくり身体から下りた…。


「優……まさか君…?」


高梨さんの言うまさかの意味はまだわからなかったけど、こらえきれない不快感に私は起き上がって側のテーブル付近にあるゴミ箱に胃液を戻してしまった。



「…はぁ…はぁ…はぁ…っ」


ごく少量だけど胃液を吐き出した私は、にじむ涙を手の甲で拭いながら乱れる呼吸を整えた。


こんな情けない姿を高梨さんに晒すハメになるなんて思わなかった。
だけど、どうしてこんな事に?


高梨さんに触れられる事が、自分でも思ってた以上に不快だったって事なのかな…。



「優…。
は、君のお母さんは知ってるのかい?」


「え…?」


「…なんだ、君もまだ知らなかったって事か…。
そうだよね、そんな身体だって知ってたら僕と会うわけないもんね」


そんな、身体?

え、さっきの嘔吐といい、私の身体は……



「こんな事まで先を越されるなんて、僕も思わなかったよ。
彼氏の方は、さぞしてやったりなんだろうけどねっ」



まさか…

まさか私…


ちゃってたの!?



最近、身体の調子がちょっと悪いなとは思ってた。

だけどそれは寝不足だとか心配事だとか、そういう事が重なっただけ。

だから別に、そんな理由だなんて思わなかった。


__妊娠。


もちろん、性行為をしていれば可能性としてはあるんだけど…。


でも、まさか本当にできちゃってたなんてっ



「…どうしよう…」


まだ結婚もしていないのに、赤ちゃんの方が先にできちゃった。


何だか目の前の視界がぼやけてきた。

私は…とんでもない事をしちゃったんだ…!




「優…自分でも動揺しているようだね。
こんな事、うちの母さんたちが知ったらなんて言うかな」


「…………!」


…想像しただけで胸の奥からゾワゾワしてきた。

私は恋人がいるだけじゃない、妊娠までしてるのにお見合いをしたんだ!

どんだけ大バカ者なの!!



「……………………」


ドラマじゃあるまいし、こんな事が現実に起こってしまったなんて。



「かわいそうに、自分でもショックなんだね」


ゴミ箱の側でへたり込む私に高梨さんは寄り添ってきた。

子犬や子猫を扱うように私の頭を撫でてくれたのだけど、今の私には何も感じる事ができなかった。



「優、この事は母さんたちには内緒にしてあげるよ。
僕に任せてくれたら、何もなかった事にしてあげる」


「!」


何もなかったように?

つまりそれは、お腹の赤ちゃんを………っ



「お金の心配だってしなくていい。
優は目をつむっていれば済むんだ。
その後は、改めて僕と結婚しよう」


「…結 婚……っ」



この時、私は人生初めてプロポーズというものをされた。

勇さんよりも、先に……。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?

イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」 私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。 最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。 全6話、完結済。 リクエストにお応えした作品です。 単体でも読めると思いますが、 ①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】 母主人公 ※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。 ②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】 娘主人公 を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「僕は絶対に、君をものにしてみせる」 挙式と新婚旅行を兼ねて訪れたハワイ。 まさか、その地に降り立った途端、 「オレ、この人と結婚するから!」 と心変わりした旦那から捨てられるとは思わない。 ホテルも追い出されビーチで途方に暮れていたら、 親切な日本人男性が声をかけてくれた。 彼は私の事情を聞き、 私のハワイでの思い出を最高のものに変えてくれた。 最後の夜。 別れた彼との思い出はここに置いていきたくて彼に抱いてもらった。 日本に帰って心機一転、やっていくんだと思ったんだけど……。 ハワイの彼の子を身籠もりました。 初見李依(27) 寝具メーカー事務 頑張り屋の努力家 人に頼らず自分だけでなんとかしようとする癖がある 自分より人の幸せを願うような人 × 和家悠将(36) ハイシェラントホテルグループ オーナー 押しが強くて俺様というより帝王 しかし気遣い上手で相手のことをよく考える 狙った獲物は逃がさない、ヤンデレ気味 身籠もったから愛されるのは、ありですか……?

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

処理中です...