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もう行くつもりはなかったんだけど、私はまた高梨さんの家にお邪魔する事にした。

大金の包まれた封筒を持ってるんだもん。
外で話すお話でもないしね。

高梨さんのご両親にも、ちゃんと向き合ってお話ししなくちゃ。


そして心を込めてちゃんと、謝罪するの…。




高梨さんの家に着くと、以前の時のように広いリビングに通されるかと思いきや、最初から3階の高梨さんの部屋?に通された。



「あの、高梨さんのご両親にもお話があるんですけど…」


「あぁ。
じゃあ後で下に下りた時に呼んであげるよ」


「今日は、この結納金をお返ししたくて来たんです。
だから、まずはご両親に…」


「それは僕が用意したものだよ」


「えっ」


高梨さんの部屋に通されると、カチャとドアを閉められた。


それから中のソファーにドカッと腰を下ろした高梨さんは、私の方を見て言った。



「返すって、どうしたの?
800万じゃ足らなかったって?」


「800…っ!?」


私が予想していた額とはだいぶ違っていた。


高梨さんは自分でそんな大金を結納金としてうちに納めようとしたんだ。


「た 足らないとかそんなんじゃなくて…っ
私、高梨さんとは結婚出来ないんです!
自分勝手な事を言ってるのはわかります。
だけど…!
………本当に、すみません…っ
だからこの結納金は、お返しします!」


私は高梨さんの側に立つと、結納金の封筒を差し出しながら頭を深く深く下げて謝った。


謝れば許してもらえるなんて思ってない。

だけど、申し訳ないって思ってる気持ちは素直に伝えないといけない。


もしかしたら慰謝料を請求されるかもしれない。

たとえそれが多額であったとしても、私は必ず償う為に払っていく覚悟はしてるわ…。




「…やれやれ、どうして僕はそんなに嫌われちゃってんのかな」


「いえ、決して嫌いなわけじゃないんです!
ただ、結婚は…」


なんて言えばわかってくれるんだろう。
恋人がいるからってのは理由にならないかもしれない。

だって、恋人がいるのにお見合いしたのは私なんだから…!



「そっか…
わかったよ」


高梨さんは私の差し出した結納金の封筒を受け取った。


「あ、ありが…」

と同時に、差し出した私の腕も掴まれ、グイッと強く引っ張られた。


「ひゃぁっ」

私の身体はバランスを崩して、ソファーに座る高梨さんの身体に覆い被さるように倒れた。


手から離れた結納金の封筒が宙を舞い、中のお札がバラバラと散らばってあちこちに落ちた。


そんな事には構わない高梨さんに背中に手をまわされて抱き寄せられると、私の髪をかき揚げるように頭を撫でた。


「これまで僕に夢中にならなかった女の子は誰一人いなかったのに、どうして君は僕から逃げようとするんだ?」


「は、離して下さいっ」


もがこうとするのだけど、力強く抱きしめられて、なかなか高梨さんの身体から離れられなかった。

頭を撫でる高梨さんの手が私の頬へ滑り、とまった。



「好きだよ、優。
僕は今まで、欲しいものは何でも自分の力で手に入れてきた。
優の事も、絶対手に入れる」


「やめて下さい!
いくら何でも、お 大声出しますよ!」


「構わないよ。
この部屋は防音されてるから、誰にも聞こえやしない。
それより、大声なんかじゃなくて優の甘い声を聞かせてよ」


高梨さんは私の身体を抱えると、今度は私を下にするようにソファーに沈めた。



「前の時みたいに、途中でやめたりなんかしないよ。
今夜は優を、僕のものにするから」



高梨さんは私の身体の上にのしかかると、頬にキスをした。


「ひゃ…っ」


お腹の上に乗られちゃ逃げられない。

私は否定してるのに、僕のものにするだなんて…
そんなの、犯罪だよ!

本気で言ってるのっ
高梨さん!?



高梨さんの手が私の服をまくり上げると、晒された鎖骨付近をじっと見る。


「…僕がつけた愛の証はさすがに消えてるね。
だけど…これはまた彼氏の仕業だね。
まだ新しいものだから、さては僕のが消えた頃に何食わぬ顔で抱かれたのかな?」


胸元に付けられている勇さんのキスマーク。
今日の昼間にした時のものだ!


高梨さんはそのキスマークを指でなぞると、ギュッと唇を噛みしめて表情を変えた。


「僕が愛の証を付けても、すぐに消えちゃうからいけないんだね。
だったら…今夜は消えない愛の証を注いであげるよ」


「消えない…て…?」


「母さんが、早く孫の顔が見たいって言ってるんだよ。
僕もそれには賛成さ。ちょっと順番が変わるだけだもんね」



高梨さん…っ
まさか、本気でそんな事…!!
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