ナイショのお見合いは、甘くて危険な恋の駆け引き!

むらさ樹

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「こ こんばんはっ
お邪魔してます…っ」


ペコリと頭を下げてあいさつすると、高梨さんのお母さんは私の座るソファーの隣に来て一緒に腰掛けた。



「嬉しいわぁ、悠さんと仲良くして頂いて。
話は悠さんから聞いてるの。
本当、可愛くて清楚な娘さんね」


…何だか思い切り勘違いされてるような気がするし、しかも高梨さん同様にべた褒め状態。

そんな風に言われたら、今日は縁を切りに来たなんてますます言いづらいよ…。



「今まで色んな女の子がうちに来たんだけど…ほら、悠さんの仕事柄わかるでしょ?
何て言うか、ちょっと…違うのよ」


色んな女の子が来たって…。
高梨さんには、これまで何度かお付き合いしてた人がいたって事なんだろうなぁ。

まぁあんなに美形でお金持ちなら、ついつい釣られちゃう女の子がいても頷けるもんね。


「やっぱり、悠さんには無理言ってお見合いさせて良かったわ!こんなかわいいお嫁さんがうちに来るんだもの。
私もね、お見合い結婚したものなのよ~」


そう言って高梨さんのお母さんは私の手を取ってニコニコと微笑んだ。



無理言ってお見合い…。

高梨さんも言ってたけど、あのお見合いは高梨さんの意思じゃなくて高梨さんのお母さんがさせたものだったんだ。

高梨さんも元々結婚するつもりでお見合いしたわけじゃなかったのは、本当なんだわ。


だけど何だか私、高梨さんのお母さんには気に入られてしまってるみたいなんだけど…。

お嫁さんとか言われてるし、ど どうしよう。



「母さん、優さんが困ってるよ。
そんなにベタベタ手なんて握っちゃ失礼だよ」


その時
プンと香ったコーヒーの匂いと共に、高梨さんは私のもとまで戻ってきた。


「ごめんね、優さん。
母さんが馴れ馴れしい事しちゃってさ」


「あ、いえ…」


「もぉ、悠さんったら馴れ馴れしいだなんて」


銀のお盆に乗せた2つのコーヒーを持ってきた高梨さんは、目の前のガラスのテーブルに置くかと思いきや、片手で持ったまま私の手を高梨さんのお母さんから離した。



「ここにいたら母さんに邪魔されるから、上に行こう。
その方がゆっくり話が出来そうだよ」


今から話す内容の事を考えたら、高梨さんのお母さんは同席されたくないのは確かかも。


私は苦笑いをしながらソファーから立ち上がり、コーヒーを持つ高梨さんについて行った。



「優さん、ゆっくりしていってね」


なんてニコニコしながら高梨さんのお母さんに言われたものの…


…気が重いなぁ…。


私は高梨さんのお母さんにまで迷惑かけちゃうんだもの…。

駐車場から2階に上がり、更にもう1回階段を上がっていくと今度もまただだっ広い廊下が広がっていた。



地味…と言えば地味なんだけど、そのシンプルな内装には面食らう事もないので抵抗もない。


大きなドアを開けて招かれると、さっきのリビング?と同じくらいの部屋がそこにあった。


大きなソファーに大きなテレビ、ステレオなんかもある。
サイズは大きいんだけど、置いてある物は一般家庭にもあるような家電などだった。


…別にあのホストクラブのお店みたいなシャンデリアなんかはないし、照明も妖しい色とかじゃなく普通。



「さぁ座って。
コーヒーも冷めてしまわないうちに」


今度は部屋の中央にある大きなソファーに座り、とりあえず高梨さんが用意してくれたコーヒーをミルクとシュガーを入れて一口飲む。



「いただきます…」


…緊張してきた。
何から話していいんだろう。

全部自分で蒔いた種とは言え、まさかこんな事になるなんて思わなかったもんなぁ。


「……………………」


口につけたコーヒーカップがなかなか離せない。


えっと、"今日はこの前のお返事をしに…"

いやいや、まずは、"今日はお忙しいのに時間を作ってくれてありがとうございます…"?

それともいきなりだけど、"やっぱりこのシュシュは受け取れません…"


高梨さんを傷付けないように丁寧にお断りを入れるには、どうしたら___…




「結婚のお話はお断りしたいです。
…てとこかな?」


「…!」


私がもたもたしていると、高梨さんは先にそう言ってきた。

今日は私が話そうとしてる事、気付いてるんだ!



「わかってるよ、優さんがまだ僕に気がない事ぐらい」


「…高梨さん…」


…よかった。
変な期待ばかりさせちゃってたとは思ってたけど、私の気持ちがもうわかってくれているのなら話は早いよね。
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