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④
しおりを挟む「………遅いなぁ…」
深夜番組も次々終わっていき、とうとう見る番組もなくなってしまった。
仕方なくテレビを消して待つけど、もう時計の針も4時前になっている。
毎日帰る時間にバラつきはあるみたいだけど、4時には帰ってくるよね。
一応昨日が休みだったから、今日は出勤日。
絶対あくびの連発は確実だよ…。
今からでも少しは寝た方がいいのはわかってる。
だけど、今だけは勇さんに抱かれたい。
どんなに眠くても、どんなに仕事前でも、今だけは…っ
結局
頑張って目を開けて待っていたんだけど、陽が登り朝が来ても勇さんはアパートに帰らなかった。
「んー…………………」
熱く重いまぶたと、ズキズキ鈍く痛む頭を抱えて洗濯物を干す。
何だか胃もモヤモヤして朝ご飯を食べる気もしない。
どんなに勇さんが帰るのを待ちたくても、それで仕事まで休むわけにはいかない。
ケータイは持っているわけだから、かける事はできるんだけど…。
運転中とかだったら迷惑だしと、勇さんが仕事に出てる時は電話はしない事にしている。
だけど、仕事にしたってこんな遅かった事………
まさか、私が内緒で高梨さんと会った事、バレちゃったのかな。
車の中でキスされた所、見られちゃったなんて事…。
私に愛想尽かして出て行っちゃったとか……………?
ヤダ!
ヤダヤダ!!
違うの!
私は勇さんを裏切ったんじゃない!
一度だって高梨さんにときめいてもない!
キスだって…されるなんて思わなかったんだからぁ…!!
とりあえず一通りの家事をこなすと、私はローファーを履いてアパートを出ようとした。
8時半からの出勤ギリギリの時間になったけど、勇さんは帰って来なかった。
これ以上は職場に迷惑をかけちゃうから、さすがに待ってられない。
私は開店準備を任されてるから、私が行かなきゃお客さんにも迷惑かけちゃうよ…。
私はノブに手をかけて捻り、ドアを開けようと押したつもりだったのだが、ふわっと引っ張られたように勝手に開いた。
「わっ」
だけどそれは、ドアが勝手に開いたわけじゃなかった。
開けようとした私と同時に、帰ってきた勇さんがドアを開けたからだったのだ。
「勇さん!」
「……………………」
だけど勇さんは私の呼びかけには反応せず、不機嫌そうな顔で黙って中に上がっていった。
半ば乱暴な足取りでリビングに上がった勇さんは、テーブルに着くと頭を抱えてうずくまった。
私は一度履いたローファーをまた脱ぐと、勇さんの側まで駆け寄った。
「勇さん…?」
私の呼びかけにはやっぱり反応がない。
無視…て事なのかな…。
「あの…」
「ちょっと仕事でしくじっただけだ!
お前が気にする事じゃねぇよ!」
「…っ!」
急に大声でそう言われ、ビクッと身体が震えた。
勇さんはそれだけ言うと、また黙ってテーブルにうつ伏せた。
…仕事でしくじった…?
だから帰りが遅くなっちゃったって事?
機嫌も悪そうだし、今はあんまり触れない方がいいのかな…。
「…私、仕事行ってくるね…」
勇さんからの反応は何もなかった。
…うん、仕方ないよね。
そんな日もあるもん。
本当は一番に抱きしめてほしかったけど…
今日はガマンしとこ。
私は勇さんの背中を見送り、仕事に向かった。
「おはようございま………わっ!!
相川さんっ、どうしたの、その顔!?」
私より遅い時間にやってくるパートの和泉さんが、レジに立つ私の顔を見てものすごい驚いたみたいだった。
「…そんなにヒドいですか?」
「ヒドいも何も、目の下にクマが出来てるよ?
また眠れなかったの?」
徹夜しちゃったわけなのだ、クマだってできただろうな。
今だって眠たいを通り越して、目だけ別の感覚みたいに腫れぼったい。
「昨日はお見合い相手のイケメン社長と会ってたんでしょ?
何かあったの?
まさか、彼氏にバレちゃったとか」
「…バレてはないみたいなんだけど…ちょっと寝てなくて…」
「どうしてそんな事になっちゃったの?
あ、いらっしゃいませー。
…相川さん、後で話を聞くね」
相談できるのは和泉さんしかいない。
これからどうしたらいいか、何かアドバイスをして欲しいよぉ!
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