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「………遅いなぁ…」



深夜番組も次々終わっていき、とうとう見る番組もなくなってしまった。

仕方なくテレビを消して待つけど、もう時計の針も4時前になっている。



毎日帰る時間にバラつきはあるみたいだけど、4時には帰ってくるよね。


一応昨日が休みだったから、今日は出勤日。

絶対あくびの連発は確実だよ…。


今からでも少しは寝た方がいいのはわかってる。

だけど、今だけは勇さんに抱かれたい。

どんなに眠くても、どんなに仕事前でも、今だけは…っ
















結局

頑張って目を開けて待っていたんだけど、陽が登り朝が来ても勇さんはアパートに帰らなかった。


「んー…………………」


熱く重いまぶたと、ズキズキ鈍く痛む頭を抱えて洗濯物を干す。


何だか胃もモヤモヤして朝ご飯を食べる気もしない。



どんなに勇さんが帰るのを待ちたくても、それで仕事まで休むわけにはいかない。

ケータイは持っているわけだから、かける事はできるんだけど…。

運転中とかだったら迷惑だしと、勇さんが仕事に出てる時は電話はしない事にしている。


だけど、仕事にしたってこんな遅かった事………




まさか、私が内緒で高梨さんと会った事、バレちゃったのかな。


車の中でキスされた所、見られちゃったなんて事…。


私に愛想尽かして出て行っちゃったとか……………?


ヤダ!
ヤダヤダ!!

違うの!
私は勇さんを裏切ったんじゃない!


一度だって高梨さんにときめいてもない!

キスだって…されるなんて思わなかったんだからぁ…!!


とりあえず一通りの家事をこなすと、私はローファーを履いてアパートを出ようとした。


8時半からの出勤ギリギリの時間になったけど、勇さんは帰って来なかった。


これ以上は職場に迷惑をかけちゃうから、さすがに待ってられない。

私は開店準備を任されてるから、私が行かなきゃお客さんにも迷惑かけちゃうよ…。



私はノブに手をかけて捻り、ドアを開けようと押したつもりだったのだが、ふわっと引っ張られたように勝手に開いた。



「わっ」


だけどそれは、ドアが勝手に開いたわけじゃなかった。


開けようとした私と同時に、帰ってきた勇さんがドアを開けたからだったのだ。



「勇さん!」


「……………………」


だけど勇さんは私の呼びかけには反応せず、不機嫌そうな顔で黙って中に上がっていった。


半ば乱暴な足取りでリビングに上がった勇さんは、テーブルに着くと頭を抱えてうずくまった。



私は一度履いたローファーをまた脱ぐと、勇さんの側まで駆け寄った。



「勇さん…?」


私の呼びかけにはやっぱり反応がない。

無視…て事なのかな…。



「あの…」

「ちょっと仕事でしくじっただけだ!
お前が気にする事じゃねぇよ!」


「…っ!」


急に大声でそう言われ、ビクッと身体が震えた。

勇さんはそれだけ言うと、また黙ってテーブルにうつ伏せた。


…仕事でしくじった…?
だから帰りが遅くなっちゃったって事?


機嫌も悪そうだし、今はあんまり触れない方がいいのかな…。



「…私、仕事行ってくるね…」


勇さんからの反応は何もなかった。


…うん、仕方ないよね。
そんな日もあるもん。


本当は一番に抱きしめてほしかったけど…

今日はガマンしとこ。


私は勇さんの背中を見送り、仕事に向かった。








「おはようございま………わっ!!
相川さんっ、どうしたの、その顔!?」


私より遅い時間にやってくるパートの和泉さんが、レジに立つ私の顔を見てものすごい驚いたみたいだった。



「…そんなにヒドいですか?」


「ヒドいも何も、目の下にクマが出来てるよ?
また眠れなかったの?」


徹夜しちゃったわけなのだ、クマだってできただろうな。

今だって眠たいを通り越して、目だけ別の感覚みたいに腫れぼったい。



「昨日はお見合い相手のイケメン社長と会ってたんでしょ?
何かあったの?
まさか、彼氏にバレちゃったとか」


「…バレてはないみたいなんだけど…ちょっと寝てなくて…」


「どうしてそんな事になっちゃったの?
あ、いらっしゃいませー。
…相川さん、後で話を聞くね」


相談できるのは和泉さんしかいない。
これからどうしたらいいか、何かアドバイスをして欲しいよぉ!

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