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「いらっしゃいませー!」

「ようこそ!
いらっしゃいませ!」


外観のチカチカ眩いネオンと違い、開かれたドアの中は柔らかい照明で照らされた独特のお店だった。


そこに出迎えるように現れた何人かの店員さんはみな若い男性ばかりで、ピシッとキレイにスーツを着こなしている。



「あ…えっと…」


何かの間違いだろうか。
私は確か高梨さんと夕飯を取るためにレストランに来たつもりだったのだけど…



「紫苑さん!」

「紫苑さん、お疲れ様です!」


私がオロオロしていると、店員さんたちは側に立つ高梨さんの方に挨拶をした。



「お疲れさま。
彼女は僕のお客さんなんだ。
一番良い席を案内してあげてね」


「はいっ
さぁ、どうぞこちらへ」


頭の整理がつかないまま、私は店員さんにあれよあれよとお店の奥へと導かれた。


頭の上には大きなシャンデリア。


ガラスのテーブルの上には豪華なフルーツの盛り合わせ。


「こちらは初めてのお客様へのサービスです」


「あ、は はい…」


飲食店って言うより、まるで中年のサラリーマンが会社帰りに行くようなキャバクラ……


あっ、そうか!



「相川さん、これが当店のメニュー表だよ。
今日は僕の奢りだから、気にしないで何でも注文してね」


柔らかいソファーに座る私の横についた高梨さんが、お店のメニュー表を見せてくれた。


名前なんてロクに知らないお酒の名前の横には、桁外れの金額が記されている。


生ハムサラダなんか、1皿4000円って。

今日買った勇さんへのライターとそんなに変わらないお値段じゃない!



「あの…もしかしてここって…」


「そうだよ。
僕の経営するホストクラブだ」


ホストクラブ!
やっぱりそうなんだ!!


テレビの特番でなら見た事がある。

毎晩めまいがするような額のお金が飛び交う所で、お客さん側って言うより、そこで働いてるホストの人の為にわざと高いお酒なんかを注文したりするんだ。

そうしてたくさん売り上げた人がナンバーワン、ナンバーツーって掲げられたりする…んだよね。


まさか高梨さんの言う飲食店がホストクラブだとは思わなかったけど、思い出してみればプレゼントされた高級品や飲食店で年商3億って数字も、これなら頷けるかも…。



「さぁ相川さん、遠慮なんかしなくていいんだよ。
お金の心配だってしなくていい。
お酒、どんなものがいいのかな?」


「す、すみません!
私、お酒は飲めないんです…っ」


て言うか、こんな所で食事だなんて思わないから、どうしたらいいかわかんないよぉっ!


「相川さん、お酒ダメなんだ?」


「は、はい…っ
ごめんなさい、せっかくススメてくれたのに…」


私がそう言うと、高梨さんは「ちょっと待ってて」と一言残してソファーから立ち上がった。



そして高梨さんがお店のどこかに行ってしまった後、他のホストの人が私の側に来た。


「初めまして」


「えっ、あっ、はいっ
初めまして…っ」


高梨さんとはまた少し違って、長くキレイな銀髪をしたホストさんだった。


こんな所に勤めているだけあって、容姿はモデルさんのようにキレイ。


男の人なのにやたら小顔で、なのに体格はしっかりしていて、全体的にかっこいいという部類に入る感じだ。



「ホストクラブは初めて?」


「あ…はい…。
すみません、私みたいな場違いな人が来ちゃって…」


「場違いだなんて。
ボクはキミのようなかわいいプリンセスが来てくれて嬉しいよ」


ひゃあ…//

テレビで見た通り、女の子に夢を与える場所って言うだけあってやたら甘い言葉でべた褒めしちゃうんだ…!

その後も、私の言う事やる事をやたらべた褒めしてくるホストさん。

困ったなぁ。
そんなにお世辞ばかり並べられちゃあ、逆に恥ずかしくなっちゃうよ…。


私は適当に相づちを打っていると、目の前にピンク色のグラスがシュワシュワっと小さな泡をたてて置かれた。



「お待たせ。
相川さんに、特別なカクテルを用意したよ」


「たか… 紫苑さん」


お店の奥から戻ってきた高梨さんは、私の為に飲み物を用意してくれたのだった。



「あの…だから私、お酒は…」

「大丈夫だよ、これはノンアルコールだから。
相川さんはピンク色が好きなんだと思って、これにしたんだ」


グラスの中で弾けている泡は炭酸なのかな。

薄いピンク色に小さな泡の粒がキラキラ見えて、確かにかわいかった。


ピンク色が好きって、なんでわかっちゃったんだろう。


「僕も同じものを用意したんだ。
乾杯しよう」


見ると高梨さんの手にも、薄ピンク色のグラスを持っている。

私に合わせて、ノンアルコールにしてくれたんだ。
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