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「…あ、もう大丈夫になりました。
ありがとうございます」


時間の経過と共に治った足の痺れ。

私は高梨さんの手から力を抜き、身体を離そうとした。


…?


だけど、高梨さんの方が私を支える手に力を抜かず、なかなか離れられない。



「あの…高梨さん…?」


「…あぁ、ごめん。
考え事してた。
もう大丈夫?じゃあ行こうか」


ようやく身体は離れ、私と高梨さんは個室を出た。


何故か、手は繋がれたまま。

…あぁ。
お店の人からすれば一応お見合いなんだから、そういう関係っぽくしなきゃいけないのかな?




「ありがとうございましたー」


お料理のお支払は先に席を立ったお母さんたちで済ませたみたいで、私たちはそのまままた敷居を跨いでお店を出た。







「あの、今日はいろいろお世話になりました。
失礼な事ばかりしちゃってすみません」


お店を出た所で私はクルリと向きを変え、高梨さんに向かってお辞儀をした。


もう会わない仲とは言え、必要以上に迷惑かけたり触れたりしちゃった。

予想以上の美形を見れたのはなかなかお得な気分になれちゃったし、時間を潰すだけのお見合いのつもりが結構印象的になってしまった。



「あ、家まで送っていくよ」


「あ、いえ。そんなに遠くもないんです。
1人で歩いて帰れますから」


「ダメだよ。
そういうのは、男の役目なんだから。
ほら、来て。駐車場そこだから」


「あ、あぁ…はい…」


そう言うと、私は半ば引っ張られるように高梨さんについて行った。


そしてたどり着いた駐車場の車を見て、ビックリした。


「こ これ、高梨さんの車ですか…っ?」


駐車場に停められた幾つかの車のうち、高梨さんが前に立ったのはやたら形の珍しい車だった。


テレビや雑誌とかでしか見た事のない外国製の車。
確か、お値段が何千万とかしたような…


「そうだよ。
さぁどうぞ、相川さん」


助手席のドアを開けてもらい、私は車内へと運ばれた。


えぇっと…ベンツじゃなくてペルシャじゃなくて…っ


こんな車、どうやったら買えちゃうのーっ??


運転席に乗り込んだ高梨さんは車のキーを挿してエンジンをかけた。



「さ、出発するよ」


ブレーキを外しアクセルを踏んだ車は徐々に動き出し、やがて車道の方に出た。


歩行者にはいちいち注目されるこの車。


そうだ、年商3億の社長さんなんだ。
これがその現実なんだ…っ


歩いて帰れるって言った通り、私の実家にはすぐに到着した。


短い時間だったのでこれといった会話はしていないけど、この初めての体験に私は子供のようにキョロキョロしたりしてしまった。





「ここが相川さんの家なんだ。
本当に近かったね」


「ありがとうございました。
送ってまで頂いて、何だか申し訳ないです…っ」


だって、たった1度切りの出会いだもの。

こんなにもいろいろ良くしてもらうつもりなんてなかったわ。


何だか名残惜しい気もするけど、仕方ないわよね。
これでこの高梨さんともお別れ…


「いいんだよ。僕も楽しかったから。
…あ、そうだ。
もし良かったらなんだけど、もう一度会ってくれないかな?」


「え?」


「こんなにも気兼ねなく話せる女性なんてロクにいなくてね。
買い物とか一緒にしてほしいんだ」


「買い物…ですか」


「…僕の想い人にプレゼントしたいんだけど、良いアドバイスがもらえるような人がいないんだよ。
あぁ、もし良かったらなんだけどね」



そっか、高梨さんも好きな女性がいるって言ってたもんなぁ。
なのに親の言いつけでお見合いまでしたんだ。


結婚は本当に好きな人としたいもんね。
わかるな、その気持ち。



「…いいですよ。
私、そのお買い物に付き合います!」


これっきりの関係で、もう二度と会う予定なんてなかった。

それは、本気で結婚を前提にしたお見合いじゃないからってのもあるし、何より他の男性と会うなんて勇さんに失礼だから。


だけど、予定以上にお世話になった高梨さんにお詫びがしたいのと、そういえば私から勇さんにはプレゼントをした事ないから、ついでに高梨さんに勇さんへのプレゼントを見立ててもらおうとも思ったのだ。


これは、お互い似た環境の2人だから出来る事なんだろうな。



「ありがとう。
じゃあ、またね」


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