77 / 119
2
しおりを挟む
出来上がった惣菜をプラスチックパックに入れると、早速夕飯のピークに備えて陳列をした。
いつもなら2列ずつ陳列するサラダが、今日は3列ずつになっちゃったよぉ。
でもこれくらいあれば、閉店1時間前にはまだ残ってくれそうだよね。
「あ」
たった今陳列したばかりのサラダを1つ取り、レジの方へと持ってきたお客さんの影が見えた。
まだ夕飯時には少し早い時間だけど、もちろんそんなお客さんだっていたりするもんだもんね。
「いらっしゃいませ、こんにち…」
「コレと、あとリンゴちょーだい。
一緒にまぜて、リンゴサラダにしたいから」
キュッと口角を上げ、ニコリと営業スマイルをしながらお客さんと向き合った途端、その上げた口角がひきつりそうになった。
「し…っ」
「ヒドいよ、ひなぁ。ケータイの電源切ってるだろ?
うちには来てくれないし、俺お腹空いてんだけど」
そう言ってサラダを置いたカウンターに肘を立てながら顎を乗せ、下から上目遣いに私を見上げて頬を膨らませているのは…
「慎吾くん!」
そっか、この時間に私がここにいる事を慎吾くんは知ってるんだったよぉ。
まだ客足の少ない、午後の16時過ぎ。
今のところ他にお客さんはいないようなのでよかったけれど、明らかにふてくされてる感じの慎吾くんに、どう対応しようかとハラハラした。
「てゆーか、どうして急に来てくれなくなったのさぁ。
逆に心配しちゃったよ?」
「………………っ」
どうしてなんて訊かれても、もとを辿れば慎吾くんが登校日だから家にいないって事を教えてくれなかったからだ。
だけど、結果それ自体は関係ない。
ただ私と慎吾くんはどの道、ただの店員とお客さんの関係に過ぎないのだ。
それ以上も、以下もない…。
「ねっ、明日は来てくれるよね?
そうだ、またランチにチーズトースト焼いてよ。
俺、ひなの作ったもん食べたい」
「………………っ」
『ひなの作ったもん食べたい』
そんな風に言われたら、作ってあげたくなっちゃう。
だけど、そんな事したって仕方ないのよ。
「…あのね、もうダメなんだよ」
「ダメって何が?」
「……………」
慎吾くんにとっては、ほんの軽い気持ちなのかもしれないけど。
でも私の年齢を聞いたら、わかってくれるかな?
私もいい加減、本当に結婚を考えなきゃならない年だもの。
遊び感覚でご飯のお世話をしたり、セフレみたいな真似事はするわけにいかないの。
久し振りに、恋をした。
私のした事にスゴく喜んでくれるのが嬉しくて、だからもっと尽くしてあげたいって思っちゃったの。
側にいて私を見てくれるだけでドキドキした。
その手で、その唇で触れられる度に熱くなった。
そんな関係が、ずっと続けばいいって思ってたの。
でもそれは、私がやり損ねた青春の恋愛。
もう私はそんな年じゃないし、今更青春してる場合じゃないのよ。
そろそろ本気で結婚を考えて、そして普通に同級生の彼女たちみたいに赤ちゃん生んで育てなきゃ。
でもそれに気付かせてくれたのも、結局は慎吾くんのおかげだったね。
一応、感謝はしてるよ。
「だから慎吾くん、もう私は……」
「わかった!
じゃあコレ、ひなに預けとく」
「…え?」
バン!とカウンターを叩くように手を置かれたので怒ったのかと思ってビクッとしたのだけど。
そこには、分厚く黒いお財布が1つ乗せられていたのだ。
「あの、これは…」
「それないと、俺もう何も買えなくなるから」
「いや、それはそうだろうけど…」
「明日は、それ返しにうちに来てくれるよね」
「────!?」
ようやく慎吾くんの言おうとしてる事がわかり、私は焦ってそのお財布を取って突き返そうとした。
「ダ、ダメよ!
私、もう慎吾くんの家には行くつもりないの!
大事なものでしょ、ちゃんと持って帰って!」
まさか、そんな事をしてくるとは思わなかった。
私なんて、遊び感覚の関係でしょ?
どうしてそんなに、私にこだわるの?
「ヤだよ。明日は絶対、それうちに届けに来てよね。俺待ってるから。
じゃね、ひな」
「あ……っ!」
まるで逃げるように、慎吾くんはカウンターに置いたサラダを取って立ち去って行った。
私はと言うと、カウンターが邪魔してすぐに追いかける事ができず、手を伸ばしてただ彼の背中を見送る事しか出来なかったという…。
「あっ、ひな!
このサラダのお金、財布から抜いといてねー」
クルリと一瞬振り返ったかと思ったら、それだけ言って走って行ってしまった。
「ちょ…っ!」
もぉ!
勝手なんだからーっ!!
いつもなら2列ずつ陳列するサラダが、今日は3列ずつになっちゃったよぉ。
でもこれくらいあれば、閉店1時間前にはまだ残ってくれそうだよね。
「あ」
たった今陳列したばかりのサラダを1つ取り、レジの方へと持ってきたお客さんの影が見えた。
まだ夕飯時には少し早い時間だけど、もちろんそんなお客さんだっていたりするもんだもんね。
「いらっしゃいませ、こんにち…」
「コレと、あとリンゴちょーだい。
一緒にまぜて、リンゴサラダにしたいから」
キュッと口角を上げ、ニコリと営業スマイルをしながらお客さんと向き合った途端、その上げた口角がひきつりそうになった。
「し…っ」
「ヒドいよ、ひなぁ。ケータイの電源切ってるだろ?
うちには来てくれないし、俺お腹空いてんだけど」
そう言ってサラダを置いたカウンターに肘を立てながら顎を乗せ、下から上目遣いに私を見上げて頬を膨らませているのは…
「慎吾くん!」
そっか、この時間に私がここにいる事を慎吾くんは知ってるんだったよぉ。
まだ客足の少ない、午後の16時過ぎ。
今のところ他にお客さんはいないようなのでよかったけれど、明らかにふてくされてる感じの慎吾くんに、どう対応しようかとハラハラした。
「てゆーか、どうして急に来てくれなくなったのさぁ。
逆に心配しちゃったよ?」
「………………っ」
どうしてなんて訊かれても、もとを辿れば慎吾くんが登校日だから家にいないって事を教えてくれなかったからだ。
だけど、結果それ自体は関係ない。
ただ私と慎吾くんはどの道、ただの店員とお客さんの関係に過ぎないのだ。
それ以上も、以下もない…。
「ねっ、明日は来てくれるよね?
そうだ、またランチにチーズトースト焼いてよ。
俺、ひなの作ったもん食べたい」
「………………っ」
『ひなの作ったもん食べたい』
そんな風に言われたら、作ってあげたくなっちゃう。
だけど、そんな事したって仕方ないのよ。
「…あのね、もうダメなんだよ」
「ダメって何が?」
「……………」
慎吾くんにとっては、ほんの軽い気持ちなのかもしれないけど。
でも私の年齢を聞いたら、わかってくれるかな?
私もいい加減、本当に結婚を考えなきゃならない年だもの。
遊び感覚でご飯のお世話をしたり、セフレみたいな真似事はするわけにいかないの。
久し振りに、恋をした。
私のした事にスゴく喜んでくれるのが嬉しくて、だからもっと尽くしてあげたいって思っちゃったの。
側にいて私を見てくれるだけでドキドキした。
その手で、その唇で触れられる度に熱くなった。
そんな関係が、ずっと続けばいいって思ってたの。
でもそれは、私がやり損ねた青春の恋愛。
もう私はそんな年じゃないし、今更青春してる場合じゃないのよ。
そろそろ本気で結婚を考えて、そして普通に同級生の彼女たちみたいに赤ちゃん生んで育てなきゃ。
でもそれに気付かせてくれたのも、結局は慎吾くんのおかげだったね。
一応、感謝はしてるよ。
「だから慎吾くん、もう私は……」
「わかった!
じゃあコレ、ひなに預けとく」
「…え?」
バン!とカウンターを叩くように手を置かれたので怒ったのかと思ってビクッとしたのだけど。
そこには、分厚く黒いお財布が1つ乗せられていたのだ。
「あの、これは…」
「それないと、俺もう何も買えなくなるから」
「いや、それはそうだろうけど…」
「明日は、それ返しにうちに来てくれるよね」
「────!?」
ようやく慎吾くんの言おうとしてる事がわかり、私は焦ってそのお財布を取って突き返そうとした。
「ダ、ダメよ!
私、もう慎吾くんの家には行くつもりないの!
大事なものでしょ、ちゃんと持って帰って!」
まさか、そんな事をしてくるとは思わなかった。
私なんて、遊び感覚の関係でしょ?
どうしてそんなに、私にこだわるの?
「ヤだよ。明日は絶対、それうちに届けに来てよね。俺待ってるから。
じゃね、ひな」
「あ……っ!」
まるで逃げるように、慎吾くんはカウンターに置いたサラダを取って立ち去って行った。
私はと言うと、カウンターが邪魔してすぐに追いかける事ができず、手を伸ばしてただ彼の背中を見送る事しか出来なかったという…。
「あっ、ひな!
このサラダのお金、財布から抜いといてねー」
クルリと一瞬振り返ったかと思ったら、それだけ言って走って行ってしまった。
「ちょ…っ!」
もぉ!
勝手なんだからーっ!!
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
俺様外科医の溺愛、俺の独占欲に火がついた、お前は俺が守る
ラヴ KAZU
恋愛
ある日、まゆは父親からお見合いを進められる。
義兄を慕ってきたまゆはお見合いを阻止すべく、車に引かれそうになったところを助けてくれた、祐志に恋人の振りを頼む。
そこではじめてを経験する。
まゆは三十六年間、男性経験がなかった。
実は祐志は父親から許嫁の存在を伝えられていた。
深海まゆ、一夜を共にした女性だった。
それからまゆの身が危険にさらされる。
「まゆ、お前は俺が守る」
偽りの恋人のはずが、まゆは祐志に惹かれていく。
祐志はまゆを守り切れるのか。
そして、まゆの目の前に現れた工藤飛鳥。
借金の取り立てをする工藤組若頭。
「俺の女になれ」
工藤の言葉に首を縦に振るも、過去のトラウマから身体を重ねることが出来ない。
そんなまゆに一目惚れをした工藤飛鳥。
そして、まゆも徐々に工藤の優しさに惹かれ始める。
果たして、この恋のトライアングルはどうなるのか。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
和泉 花奈
恋愛
主人公の観月 奈緒(25)は、ある日突然仕事に行けなくなり、ずっとお家の中に引きこもっている。
そんな自分を変えたくて足掻き苦しんでいるが、なかなかあと一歩が踏み出せずにいる。
勇気を出して家から出た奈緒は、たまたまぶつかった須藤 悠翔という男に出会い、運命が大きく揺れ動く。
※突然で申し訳ないのですが、投稿方式を変えました。
これまで1〜3話をまとめて1話にしておりますが、各話1話ずつそれぞれで公開することにしました。
急な変更に伴い、読者の皆様にご迷惑をお掛けして申し訳ございません。
これからも引き続き作品の応援をよろしくお願い致します。
2025/10/21 和泉 花奈
引きこもり魔女に恋をした騎士の徒然なる日々の物語 〜魔女の呪いを解く魔法〜
保桜さやか
恋愛
ある森の奥深く。
誰も知らないところに、ひっそりと暮らす魔女がいました。
魔女はアベンシャール国の王子様に呪いをかけてしまった罪で国から追い出され、不気味な不気味な森の奥に閉じ込められることとなりました。
監視として付き添った騎士もその森に行くことを拒み、人が変わってしまったもの、逃げ出すものが後を絶ちませんでした。
あるとき、幾度目かになる騎士の逃亡により、魔女の元へ向かうことになった新米騎士のジャドールは、孤独の魔女に恋に落ちました。
そんなちょっと変わった騎士と引きこもり魔女の物語。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる