上 下
35 / 119

そんな軽く、2回目の約束ですか! 1

しおりを挟む


「…………と、いうわけなんですよ~」



早速の翌日。

仕事に入ってすぐ私は、いつも通りサラダを作りながら昨夜あった話をスタッフにしてみたわけだ。


と言っても、あのおっさんに会ってしまった事の方ではなく、あくまでも過労死しただの違う店に乗り換えただの好き勝手言われた、あの会社員のお客さんの事の方だけど。


そして何やかんや言っても結局私もみんなと同じ、人の話には花が咲いてしまうお節介焼きなんだと自覚する。



「へぇ?子どもがねぇ。
って事は、やっぱり奥さんはいないのよ。離婚かしら?
でなきゃ、子どもにおつかいさせてまでここの惣菜買わないでしょ」


「離婚…ですかぁ。
でもあのお客さん、スゴく人が良さそうって言うか…優しくて頼もしい紳士な人でしたよ?」



さすがに家の前までではないけれど、昨夜はまるで私を守ってくれてるかのように送ってくれたのだ。

本当に安心して帰れたし、おかげであのおっさんも私を諦めたみたいですぐに車に戻って行ったもんね。



でも確かに、これでたくさんの惣菜を買って行ってた理由は理解できたけれど。
それでも自炊する事なく惣菜を買っては食べてるって事は…いくら子どもがいても、奥さんは本当にいないのかもしれないな。


だとすると、やっぱり離婚か死別………



って!

私ってば、何を勝手に人の奥さんを殺しちゃってんのぉ!


結局私も、小山さんと変わらないようだよ。



「あら、ひなちゃん?
どうしてそのお客さんが優しくて頼もしい紳士な人だってわかるの?」


「ぁ………!」



しまった。

帰りに偶然バッタリして少ししゃべったという話をしたのに、ついペラペラと余計な事まで言ってしまった。



そこは世間話大好きなおばちゃん属性の小山さん。
抜かりなく私の言葉を聞き逃さなかったようだ。



「えー…っと。
何から話したらいいか…」


「大丈夫よひなちゃん。
おばちゃん、何でも聞いてあげるから。
安心して話しなさい?」



ニコニコ満面の笑みで私の話を促す小山さん。


それは他のおばちゃんスタッフも同じようで、耳を私に向けて聞いていた。



あちゃー。
小山さんには、かないません。





「えぇっ
じゃあヒナちゃん、ストーカーされたの!?」


「あー、いや。
ストーカーってのは大袈裟なんですけど、ちょっと声をかけられそうになったって言うかっ」



私が常連のお客さんにカラオケ誘われた事は、昨日の時に話したからみんな知ってるけれど。

まさかそれで帰る途中にちょっと怖い思いをしたなんて、何だか恥ずかしくて言いたくはなかったなぁ。


だけどあの会社員のお客さんの話をしようと思ったら、どうしてもそこから話さなきゃと思ったのだ。



「で、そこにたまたまいたそのお客さんが、送って行ってあげるよって言ってくれて…っ」


「へぇ~。
やっぱり若い子は、守られていいわねぇ」


「そうそう。
でも最近は物騒だから、ホント気を付けないと危ないからねぇ」


「そうよ、ひなちゃん。
遠回りでも、人の多い明るい道を歩いて帰らなきゃね。若いんだから」



あらら。
何だか私の話になっちゃったんですけど。

紳士なサラリーマンのお客さんの話は、もう終わりですかっ



「私なら大丈夫ですよっ
いつも普通に帰れてますし、ただ昨夜はたまたま…」


「ダメよ!そうやって油断してる所を、変質者は襲ってくるんだからっ」


「お 襲…っ!?
ちょっ、小山さんっ」



話は更に膨らんでいき、とうとう小山さんはそんな事まで言い出した。



「笑い事じゃないわよ。
あたしらみたいなババァは襲われないけれど、ひなちゃんみたいなピチピチした若い子は絶好の的なんだから」



あたしらみたいなババァって!

小山さん、そこまで自虐的に話さなくてもーっ




「あぁ、そうだな。
小山の場合は襲われないって言うより、逆に襲う側だろうからな」


「んまぁ!!」



そんな私たちの…いや、むしろ小山さんの話に首を突っ込んできたのは、久保店長だった。



「久保店長ったら!
あたしが襲うだなんて!」


「おお怖い。
本気になったババァは、誰を襲ってくるかわからんからのぅ」



相変わらずこの久保店長と小山さんのやり取りで、話は冗談で終わる事が多い。

いや、別に楽しいからいいんだけどさ。



だけどあの時あの会社員のお客さんがいなかったら、私ってばあのおっさんに襲われてたのかしら…。


うぁーっ、鳥肌立ってきたぁ!


変な事を考えるのは、もうやめとこ…っ

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

【完結】あなただけが特別ではない

仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。 目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。 王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

同期の御曹司様は浮気がお嫌い

秋葉なな
恋愛
付き合っている恋人が他の女と結婚して、相手がまさかの妊娠!? 不倫扱いされて会社に居場所がなくなり、ボロボロになった私を助けてくれたのは同期入社の御曹司様。 「君が辛そうなのは見ていられない。俺が守るから、そばで笑ってほしい」 強引に同居が始まって甘やかされています。 人生ボロボロOL × 財閥御曹司 甘い生活に突然元カレ不倫男が現れて心が乱される生活に逆戻り。 「俺と浮気して。二番目の男でもいいから君が欲しい」 表紙イラスト ノーコピーライトガール様 @nocopyrightgirl

処理中です...