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「っ」



目が合うや否や、案の定私に何か言おうとおっさんの口が動いたのと同時に、もう私は目を反らして思い切り早歩きで通り過ぎた。


ヤバい!
ヤバい!ヤバい!ヤバい!


早く行かなきゃ!
絶対に声をかけられるー!!



顔を伏せながら私は、全速力で早歩きを…ううん、もう駆け出していた。



早く家に帰ってしまおう。
帰ってしまえば…

や、待てよ?
それで私の家まで後をつけられたら、家がバレちゃうじゃん!


わわわっ
どうしよう!



だけど足を止めるわけにもいかない私は、そのまま顔を伏せてまっすぐに突き進んだ。


とにかく、今は早くこの場を離れなきゃ───っ













「ぅわっと!」

「ひゃあっ!」



暗い夜道を顔を伏せながら駆けっている私は当然前なんか見てもなく。


そんな不注意から、私はドンっと思い切り誰かとぶつかってしまった。



「す すみませんっ
よく見てなくって…っ」



結構な勢いだったけど突き飛ばしてしまったわけではなく、どちらかと言うと相手の懐に私が飛び込んでしまった感じだった。


がっしりした体型だったから女の人ではないな。


私はすぐに懐から離れて、相手の顔を見上げながら謝った。



「いえ、僕は大丈夫ですが………あれ?」

「すみませんでした、ホントに………あっ」



一歩ほど距離を空け、お互いの顔を見合わせた時、それが知らない相手同士ではない事に気が付いた。



「あの、おかず屋さんの…」

「お客さま!?」



相手の男性が私の顔を知ってる通り、ぶつかったその人はうちの“デリカ popo”の常連さんだったのだ。


毎晩残業上がりで「ここで惣菜選んでる時がホッとする」って言ってくれた人なんだけど、最近はずっと顔を見せなかったなぁ。


うちの惣菜に飽きて他の店に行ってるんじゃないかとか、過労死したんじゃないかとか。

ついさっき厨房で噂したかと思ったら、まさかこんな所で会えちゃうなんてね。


て言うか、ちゃんと普通に生きてますよ、小山さん!!

勝手にお客さんを殺さないで下さーいっ



「今仕事の帰り?
いつも遅くまで頑張るね」



そう言うお客さんもスーツ姿に、仕事カバンを持っている。

1日仕事で疲れているだろう、スーツだけじゃない、顔だってくたびれているようだ。



「あ、いえっ
でもお客さまも、今お帰りってとこですかね」


「あぁ。
ちょっと前からプロジェクトに参加してて、帰りがまた遅くなってるんだよ。
もうお腹と背中が、くっつきそうだ」



あぁ、なるほど。

今が仕事の帰りなら、もう既に閉店しちゃってるうちの店では買い物なんてできないわけだ。


予想が外れたね、小山さん。



「だけど、じゃあ今から晩ご飯ですか?
うちのお店は9時で閉まっちゃうから、どこかコンビニに行かれるとか?」


「いやいや。
それなら、最近は子どもに買いに行ってもらってるので、今夜もそちらのおかずを戴きますよ」


「…あぁ、そうなんですか!
それは何よりですね」



子ども!?
このお客さん、子どもがいるんだ!!

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