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「そういえば…」
ふと、思い出したように田原さんが言ってきた。
「最近来なくなったと思わない?
毎日1人で5つくらい買って行く、サラリーマン風の男の人」
「あぁ…!」
晩ご飯のピークも過ぎて仕事帰りの会社員がやって来るこの時間帯に、毎日来ていたスーツ姿の男性がいた。
人も良さそうなので、つい一言「お疲れ様です」って話しかけてから、以来少し話をするようになったお客さんだ。
毎日残業あがりで、うちで晩ご飯のおかずを選んでる時が一番ホッとするって言ってくれて、ちょっぴり嬉しかったなぁ。
「あれだけ毎日たくさん買いに来てたのに来なくなったって事は、あの人もとうとうお嫁さんもらったのかしらね」
「まぁ、そりゃ良かった事!
奥さんの手作り料理にゃ、うちらは勝てないものねぇ」
次にそんな話に乗ってきたのは、パート主任の小山さん。
さぁ出たぞ、お客さんの詮索や噂話が大好きなおばちゃんが!
「だけどわからないわよ?
単にうちで買わなくなっただけで、よそで買ってるだけかもしれないし」
「そうよねぇ。
毎日毎日うちばかりじゃ、食べる方も飽きるのよ」
「だけどあれだけ毎日うちに来てたのに、急に変えたりするかしら。
むしろ…夜遅くまで働かされて、とうとう…」
あわわわわっ
いくらおばちゃん属性でも、ドンダケ好き勝手に言ってるんですかーっ!
勝手にお客さんを殺さないで下さいっ
「小山に田原!
アホな事を言ってないで、さっさと片付けをしろ!」
「あぁ、はいはーい」
ほらっ
あまりの勝手な話に、とうとう久保店長の雷がドーンだ。
いくらなんでも、言い過ぎですよっ
「お客さんに逃げられない為にも、お前たちはグッと胃袋を掴めるものを作る事に努力すればいいだろ!」
「はいはいーっ」
さすがの口が達者な小山さんも、久保店長には適わないよね。
ペロッと舌を出して見せた小山さんに、私は声を出さないようにして笑った。
だけど…
でもホント、あのお客さんどうして来なくなったのかなぁ?
その日の夜──
「お疲れ様でした。
お先失礼しまーす」
「お疲れさんひな坊、気を付けて帰れよ」
「はぁい」
21時の閉店後にレジ精算をすると、ようやくこの日の仕事も終わった。
今日もまた余った惣菜をスタッフと分け合うと、レジ袋に入れて私は職場を後にしたわけだ。
「うーん、夏の夜風って気持ちいいっ」
21時も過ぎれば、外は真っ暗。
若い女性が歩くにはちょっぴり危ないけど、家も近いし街灯のある道だからそんなに怖くない。
「お腹すいたぁ。
今日は小山さんの炊いたお煮しめをもらっちゃった。早く食べたいなぁ」
開店中の飲食店やコンビニなんかの明かりも頼りに夜道を歩き、私は半ば急ぎ足で家に向かっていた。
お母さんも起きて待っててくれてるし、心配かけたくないからね。
それに、あんまり寝る直前に食べると太るだけだから晩ご飯は早めに……
「─────…っ!!」
帰る道をまっすぐ歩いている向かいにいた人物に、私はドキリとして足を止めた。
すぐそこのコンビニに行く為に側に車を停めていたようで、ちょうど出て来て車に乗ろうとしていた中年の男性だ。
あれは、私を何度もカラオケに誘ってきてるあのおっさん系のお客さんだよ…。
ふと、思い出したように田原さんが言ってきた。
「最近来なくなったと思わない?
毎日1人で5つくらい買って行く、サラリーマン風の男の人」
「あぁ…!」
晩ご飯のピークも過ぎて仕事帰りの会社員がやって来るこの時間帯に、毎日来ていたスーツ姿の男性がいた。
人も良さそうなので、つい一言「お疲れ様です」って話しかけてから、以来少し話をするようになったお客さんだ。
毎日残業あがりで、うちで晩ご飯のおかずを選んでる時が一番ホッとするって言ってくれて、ちょっぴり嬉しかったなぁ。
「あれだけ毎日たくさん買いに来てたのに来なくなったって事は、あの人もとうとうお嫁さんもらったのかしらね」
「まぁ、そりゃ良かった事!
奥さんの手作り料理にゃ、うちらは勝てないものねぇ」
次にそんな話に乗ってきたのは、パート主任の小山さん。
さぁ出たぞ、お客さんの詮索や噂話が大好きなおばちゃんが!
「だけどわからないわよ?
単にうちで買わなくなっただけで、よそで買ってるだけかもしれないし」
「そうよねぇ。
毎日毎日うちばかりじゃ、食べる方も飽きるのよ」
「だけどあれだけ毎日うちに来てたのに、急に変えたりするかしら。
むしろ…夜遅くまで働かされて、とうとう…」
あわわわわっ
いくらおばちゃん属性でも、ドンダケ好き勝手に言ってるんですかーっ!
勝手にお客さんを殺さないで下さいっ
「小山に田原!
アホな事を言ってないで、さっさと片付けをしろ!」
「あぁ、はいはーい」
ほらっ
あまりの勝手な話に、とうとう久保店長の雷がドーンだ。
いくらなんでも、言い過ぎですよっ
「お客さんに逃げられない為にも、お前たちはグッと胃袋を掴めるものを作る事に努力すればいいだろ!」
「はいはいーっ」
さすがの口が達者な小山さんも、久保店長には適わないよね。
ペロッと舌を出して見せた小山さんに、私は声を出さないようにして笑った。
だけど…
でもホント、あのお客さんどうして来なくなったのかなぁ?
その日の夜──
「お疲れ様でした。
お先失礼しまーす」
「お疲れさんひな坊、気を付けて帰れよ」
「はぁい」
21時の閉店後にレジ精算をすると、ようやくこの日の仕事も終わった。
今日もまた余った惣菜をスタッフと分け合うと、レジ袋に入れて私は職場を後にしたわけだ。
「うーん、夏の夜風って気持ちいいっ」
21時も過ぎれば、外は真っ暗。
若い女性が歩くにはちょっぴり危ないけど、家も近いし街灯のある道だからそんなに怖くない。
「お腹すいたぁ。
今日は小山さんの炊いたお煮しめをもらっちゃった。早く食べたいなぁ」
開店中の飲食店やコンビニなんかの明かりも頼りに夜道を歩き、私は半ば急ぎ足で家に向かっていた。
お母さんも起きて待っててくれてるし、心配かけたくないからね。
それに、あんまり寝る直前に食べると太るだけだから晩ご飯は早めに……
「─────…っ!!」
帰る道をまっすぐ歩いている向かいにいた人物に、私はドキリとして足を止めた。
すぐそこのコンビニに行く為に側に車を停めていたようで、ちょうど出て来て車に乗ろうとしていた中年の男性だ。
あれは、私を何度もカラオケに誘ってきてるあのおっさん系のお客さんだよ…。
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