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「キミは…!」
「ほらほら、早く仕事仕事。
いくらですかー?」
どうやらさっきのお客さんとのやり取りを見ていたようで、ニマニマ笑みを浮かべながらわざとそんな事を言ってきた彼。
ちょっ!
からかってる!?
「お、お会計失礼します!!」
とは言え、一応お客さんであるコイツに失礼な真似はできないので、私はいつも通り手際よく、持ってきた惣菜のバーコードをリーダーに通した。
「合計4点、1290円になりますっ!!」
「ほーい」
ズボンの尻ポケットから取り出した財布を開け、彼は2000円を私に手渡した。
だけどコイツ、私が店員だと思って余計にナメてるんだわ!
でなきゃ、普通こんな馴れ馴れしい態度とったりしないものっ
「はい、2000円お預かりしま…」
「あ、ちょっと待って。
ね、今日はあのサラダはもうないの?
卵とかハムとかきゅうりが入った奴」
卵にハムやきゅうりの入ったサラダと言えば、それは私の十八番のサラダしかない。
人気のおかずだから多めに作ってはいるんだけど、閉店前には売り切れてしまう事だって当然ある。
一応陳列棚の方をサッと見てみたけれど、確かにあのサラダはもう売り切れてしまっていたようだ。
「あー…今日は売り切れですね。
すみませんっ」
「なんだぁ。あれ美味かったから、また食いたかったのになぁ」
残念そうに言う彼に、私は仕方なくお釣りの710円をレシートと一緒に返した。
昨日レジをした田原さんが、サラダも買って行ったようだけど誰が食べてんだろうねって話を、昼間したんだっけ。
でもいま彼の言った事を聞くと、どうやら彼本人が食べたようだ。
「サラダとか…食べるんですね」
別にそんな事なんて言う必要はなかったんだけどね。
ただせっかく食べたいって言ってくれたものを提供できなかったのは、作った本人としてもちょっと悔しくも思えてきたのだ。
せめてもう少し多めに作っとけば良かったかなぁ。
でもあまり多く作って残ってしまうと、お店のロスになってしまうからさじ加減は難しい。
特にこのサラダはすぐには作れないから、追加陳列もなかなかできないのだ。
「え?俺何でも食うよ?
それにここのサラダ、めっちゃ好きだから」
“めっちゃ好きだから”
うわ…!
そんな風に言われると、ますます今日食べさせてあげれなかったのが悔しいなぁ。
「ま、ないもんは仕方ないや。
じゃ、またね」
お釣りをそのままポケットにしまい込んだ彼は買った惣菜の入ったレジ袋を持つと、私に反対の手を軽く挙げて見せた。
「あ…ありがとう、ございます………っ」
うちの店を離れ家へと帰って行く彼。
そんな彼の背を、私はしばらくの間ずっと見送っていた。
「…って、あっ!
傘の事、何も話さなかったぁ!」
お礼はもう何度も言ったわけだし、モノは田原さんからちゃんと手渡してくれたわけだから別に問題ないんだけどね。
あーん、何か今日はいろいろやるせなかったなぁ。
何より、サラダの件は特に悔しいや。
せっかく私が作ったのになぁ。
「……………………」
アイツ、また明日も来るかなぁ。
明日はアイツ用に、サラダを1つキープしといてやろうかしら。
そうしたら、私の作ったサラダを…………
「……………………」
アイツ、また明日も来るかなぁ。
明日はアイツ用に、サラダを1つキープしといてやろうかしら。
そうしたら、私の作ったサラダを…………
「ひな坊!
お客さんおらんのやったら、中入って片付け手伝えー!」
「ひゃあ!
ただいまーっ」
久保店長のかけ声に、私は慌てて厨房の方へと駆け込んだ。
もぉ!
ビックリしたよー!
だけどこの時にはもう、昨日散々待ちぼうけを食らった事や腹が立ってた事は、すっかり忘れていた。
「ほらほら、早く仕事仕事。
いくらですかー?」
どうやらさっきのお客さんとのやり取りを見ていたようで、ニマニマ笑みを浮かべながらわざとそんな事を言ってきた彼。
ちょっ!
からかってる!?
「お、お会計失礼します!!」
とは言え、一応お客さんであるコイツに失礼な真似はできないので、私はいつも通り手際よく、持ってきた惣菜のバーコードをリーダーに通した。
「合計4点、1290円になりますっ!!」
「ほーい」
ズボンの尻ポケットから取り出した財布を開け、彼は2000円を私に手渡した。
だけどコイツ、私が店員だと思って余計にナメてるんだわ!
でなきゃ、普通こんな馴れ馴れしい態度とったりしないものっ
「はい、2000円お預かりしま…」
「あ、ちょっと待って。
ね、今日はあのサラダはもうないの?
卵とかハムとかきゅうりが入った奴」
卵にハムやきゅうりの入ったサラダと言えば、それは私の十八番のサラダしかない。
人気のおかずだから多めに作ってはいるんだけど、閉店前には売り切れてしまう事だって当然ある。
一応陳列棚の方をサッと見てみたけれど、確かにあのサラダはもう売り切れてしまっていたようだ。
「あー…今日は売り切れですね。
すみませんっ」
「なんだぁ。あれ美味かったから、また食いたかったのになぁ」
残念そうに言う彼に、私は仕方なくお釣りの710円をレシートと一緒に返した。
昨日レジをした田原さんが、サラダも買って行ったようだけど誰が食べてんだろうねって話を、昼間したんだっけ。
でもいま彼の言った事を聞くと、どうやら彼本人が食べたようだ。
「サラダとか…食べるんですね」
別にそんな事なんて言う必要はなかったんだけどね。
ただせっかく食べたいって言ってくれたものを提供できなかったのは、作った本人としてもちょっと悔しくも思えてきたのだ。
せめてもう少し多めに作っとけば良かったかなぁ。
でもあまり多く作って残ってしまうと、お店のロスになってしまうからさじ加減は難しい。
特にこのサラダはすぐには作れないから、追加陳列もなかなかできないのだ。
「え?俺何でも食うよ?
それにここのサラダ、めっちゃ好きだから」
“めっちゃ好きだから”
うわ…!
そんな風に言われると、ますます今日食べさせてあげれなかったのが悔しいなぁ。
「ま、ないもんは仕方ないや。
じゃ、またね」
お釣りをそのままポケットにしまい込んだ彼は買った惣菜の入ったレジ袋を持つと、私に反対の手を軽く挙げて見せた。
「あ…ありがとう、ございます………っ」
うちの店を離れ家へと帰って行く彼。
そんな彼の背を、私はしばらくの間ずっと見送っていた。
「…って、あっ!
傘の事、何も話さなかったぁ!」
お礼はもう何度も言ったわけだし、モノは田原さんからちゃんと手渡してくれたわけだから別に問題ないんだけどね。
あーん、何か今日はいろいろやるせなかったなぁ。
何より、サラダの件は特に悔しいや。
せっかく私が作ったのになぁ。
「……………………」
アイツ、また明日も来るかなぁ。
明日はアイツ用に、サラダを1つキープしといてやろうかしら。
そうしたら、私の作ったサラダを…………
「……………………」
アイツ、また明日も来るかなぁ。
明日はアイツ用に、サラダを1つキープしといてやろうかしら。
そうしたら、私の作ったサラダを…………
「ひな坊!
お客さんおらんのやったら、中入って片付け手伝えー!」
「ひゃあ!
ただいまーっ」
久保店長のかけ声に、私は慌てて厨房の方へと駆け込んだ。
もぉ!
ビックリしたよー!
だけどこの時にはもう、昨日散々待ちぼうけを食らった事や腹が立ってた事は、すっかり忘れていた。
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