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「…だけど、そろそろいい加減本気で考えなきゃだめよ」


「んー?」



余り物のコロッケにソースを垂らして箸で一口大に割ると、それをわざと上の空で聞くような返事をした。


だってお母さんが何を言おうとしているか、もうわかっているから。



「あんたももう29になるでしょ!
早くお婿さんを見つけて、お母さんを安心させてちょうだいよ」


「ん…」



お母さんと話をするのは好き。
時折ジョークなんかも交えて笑ったりなんかも、実の母娘だからできるんだとさえ思っている。


だけど、こういう話だけは苦手。

何て言うか、恥ずかしいって言うか反応に困るって言うか…。


28なんて立派な大人な年齢だけど、どうしても鏡に映る自分を見るとまだまだ子どもな気がして、結婚なんてありえないって思ってしまうの。


実際、男の子と付き合った事すら一度もない。
だからもちろん、この28年間恋愛経験は全くの皆無なんですけどねっ。



「そうだ、あんたの成人式で撮った写真。
あれをお見合い写真にしてみようかしら」


「ブッ!」



お母さんの急な発言に、私は口に入れたコロッケを吹き出しそうになった。



「い いきなり何て事を言うのよ、お母さんはぁ!」


「あぁ、もう古すぎて無理があるわよねぇ。
せっかくの晴れ着姿が勿体ない気もするんだけど」



…いやいや。
今も二十歳の時も、さほど変わらない顔をしてますよ。

むしろそれを見たお見合い相手の人が、聞いていた年齢と写真の顔が違うじゃないかと文句を言いそうだわ。

…で実際の本人は写真と変わらなくて、逆年齢詐欺だって言われるのよ。



あーあ。
童顔なだけでこんなにも自虐れるんだから、ホント笑うしかないって感じよ。


なんで私は年相応に老ける事ができなかったんだろう。


一度でいいから、「おばちゃん」って呼ばれてみたいわ。

…いや逆に、一度しか呼ばなくてもいいんだけど。




「ごちそーさま。
お風呂入るね」



箸を置いて手を合わせると、私は逃げるように食卓から離れた。



「着替えとタオルは用意してるから」


「はーい、ありがと」



だけどこんな私でも、いつか結婚できる日が本当に来るのかなぁ…。



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