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しおりを挟む「ただいまー」
21時の閉店と共に勤務を終えた私は、今日もまた余った惣菜を抱えて帰宅した。
「お帰り、ひな子。
仕事お疲れ様」
そんな私をあたたかく出迎えたのは、私のたった1人の家族であるお母さんだ。
「いつもご飯用意しなくていいって言うけど、何か作ろうか?」
「いらないって。
ほら、今日の残り物もこんなにあるんだよ」
そう言って、お店のレジ袋いっぱいに入ったたくさんの惣菜を目の前の高さまで上げて見せた。
…と言っても目の不自由なお母さんには、何となくしか見えていないんだろうけど。
「毎日似たようなものばかりなんでしょ?
いい加減飽きるんじゃない?
栄養バランスも悪くなりそうだし…」
「大丈夫だって」
実際日飽きもせず、毎日うちの店で惣菜買って食べてる人だっているのに。
それ考えたらタダでもらって帰る私なんて、ずっとマシな生活かもしれないよ。
「お母さんこそ、ちゃんとご飯食べた?」
「あぁ、お母さんは漬け物と昨日の残り物があったからね」
「昨日の残り物って!
私が持って帰った余り物の惣菜じゃない!」
「わざわざ作る程じゃないからねぇ」
「……………………」
うちのお母さんは先天性の視覚障害を持っていて、同じく視覚障害のお父さんとお見合いして結婚した。
だけど私が中学の時に離婚してしまい、以来兄弟もいない私はお母さんと2人で暮らしている。
そんな視覚障害者であるお母さんが就ける仕事は限られていて、自宅に仕事部屋を設けて指圧師をやっていたのも一昨年までの話。
晩婚だったお母さんも60を過ぎ、私も定職についてる事から今は隠居して年金生活を送っているわけだ。
ちなみに視覚障害と言っても全盲ではなく、本人曰わく「長年の勘」で自炊なんかもこなしてはいる。
そんな視覚障害の両親から生まれた私なのだが、幸い遺伝はしていない。
なので、私はこうして普通の仕事ができるわけだ。
私はダイニングの食卓に持って帰った惣菜を並べると、お母さんはお茶を入れてくれた。
「とは言え、こうやって毎日毎日おかずがもらえるんだから、私も帰って料理しなくて済むからラッキーだよね」
「またあんたは子どもみたいな事を言って」
それから白飯をついでくれたお茶碗を「ありがと」と言ってお母さんから受け取ると、私は手を合わせていただきますをしてから箸を取った。
「だってそうじゃない。
献立考えて食材から買い物して料理してたら、結構な手間だよ」
「何言ってんの。それが当たり前なのよ。
そんな事言ってたら、結婚してから料理できなくて困るんだから」
「料理なら仕事でやってるから、できるもーん」
やれやれと鼻でため息をつきながら、一緒に入れたお茶を啜るお母さんだけど。
実はお母さんは私を子ども扱いしない、唯一貴重な人物だったりする。
それは目が悪くて私の童顔がよく見えていないから、結局私を28才という数字で判断しているだけなんだろうけども。
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