上 下
27 / 35

27(ヒロキサイド)

しおりを挟む


「あれ?
ひとみ、いないの?」



学校が終わると、オレはどこにも寄らずにまっすぐ自宅に直行した。


それはやっぱり、昨夜あんな事があったばかりだからな。ひとみの事が心配だったのもあるし、何よりも………アレだ。

お互いの気持ちが通じ合った事が嬉しくて、少しでも早くひとみの顔が見たいと思ったからだ。


戸籍上は、オレたちは兄妹。

だから決して、将来は結婚だなんて考えてないけどさ。
でも実際はいとこだと思うと、この気持ちを無理やり抑える必要はないんだと決めたんだ。


どんな形であれ、ひとみを守っていく事には変わらない。

だからソッコーで帰ってきたのに、ひとみがいないと知ってオレは若干ショックを隠せなかったみたいだ。



「お帰り、ヒロキ。
ひとみなら、佐伯先生の病院に行ったわよ」



「アイツの病院?」



奥から出迎えてそう説明した母さんに、オレは眉を寄せて聞き返した。

あの先生はひとみにとって大事な医者なんだけど、オレからすればどこか気に入らない。


何より、昨夜はオレの事をまるで子ども扱いされたようで、かなりプライドを傷つけられた気持ちだった。



「何だよ。薬ならもらったばっかだし、今日だって調子良かったろ?
…まさか、また具合が…?」



「そうじゃないんだけどね。ただ、さっき佐伯先生から大事な薬を渡したいって電話があったの」



「大事な薬?
何なんだよ、それ」



「それは聞いてないんだけど。でも、ひとみに直接説明するんじゃないかしら?」



…母さんの話を聞いて、何だかわからない不安が胸の奥をゾワゾワさせた。


ひとみ、無事だよな………っ?








「臨時休診!?」



不安が高ぶって仕方なかったオレは、もう思うよりも先に身体が動いていた。


すぐに家を飛び出して、あの精神病院へと駆けつける。

あの医者もいけ好かないが、何より本当に大事な薬というものが必要ならば、ひとみの身体が心配でならなかった。


なのにいざ病院に来てみると、入り口には平日の診療時間中にも関わらず、“臨時休診”と書かれた小さな看板がぶら下がっていたのだ。



「…くっ! ドアも開かねぇ。当たり前かぁ。
だけど、じゃあひとみは何で帰って来ないんだ?」



入り口のドアの向こうにはスクリーンがかけられ、中の様子はわからない。

電気とかは消えてるから、きっと中には誰もいないとは思うんだけど……


「いやぁっ、やめて!!」



「──────っ!!」



明らかに病院内から聞こえた女の悲鳴に、オレはハッとして顔を上げた。


今のは、ひとみの声だ!

ひとみは、この中にいるっ



閉められたドアの向こうで聞こえたひとみの悲鳴に、オレの予感は当たったと確信した。

だが、まずは何よりも早くひとみを助け出さないと!



「どこか、他に入れる所はないのか!?」



オレは建物のまわりを歩きながら、侵入できそうな入り口を探した。



いけ好かない医者だとは思ったけど、まさか頭のおかしい奴だとは思わなかった。


早く、ひとみを助けに行かないと─────っ!







ここの病院は、平屋のような、こぢんまりした造りの建物だった。


正面の入り口はしっかり鍵が掛かっていたが、中に人がいるのなら、他の施錠は甘いんじゃないかと思ったオレは、片っ端から窓や裏口なんかを探った。


廊下とか、待合室とか、トイレとか。
どっかの窓1つだけでもいい、そこが開いてたら────







「──やっぱり、あった!
ここから入れる!!」



泥棒みたいな真似事だけど、今はそんな事を言ってる場合じゃあない。


ほんの数センチ開いてる窓を見つけると、オレは躊躇いもなく全開にし、壁に足をかけて中に入った。


幸い夕方の空が通行人の視界を鈍らせる。
ここは狭い裏道だし、よっぽど運が悪くない限り見つかりっこないっ




「─────いてっ」



勢いよく窓から飛び込み、そこがどこかもわからないままオレは尻餅を着いた。


だけどモタモタしてる暇はない、早く行かないと!





壁沿いに並ぶロッカーが、目の前に映る。
どうやらここは、ここの看護師たちの更衣室だな。



小さな個人病院だけあって、出入りのドアはすぐにわかった。


オレは廊下に出ると、ひとみがどこにいるかを耳を澄ませて聞いた。



「……こっちから物音がする。
ひとみはこっちか!?」


あちこちにドアがあるけれど、数はそんなに多くない。



やがて見覚えのある廊下に着くと、その先にある診察室のドアを力いっぱい開けた。




「ひとみ!!」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『海色の町』シリーズ3部作

紬 祥子(まつやちかこ)
ライト文芸
海が見えるどこかの町で起こる、少し不思議な、ひととひとの想いの物語。 夏休みに入った7月のある日、小学生の夏実は、引っ越してきたばかりという若い男性と知り合う。 誠広と名乗った、優しくハンサムな、それでいて少し寂しげな青年が、夏実は気になり…… (第1話:~波のうた~) 事情があって急な里帰りをした映見子は、顔見知りの少女に再会する。 今年12歳になるはずの陽南。だがどう見てもその姿は、小学校低学年ぐらいだった。慕っていた兄を亡くしてから外見が変わらないのだという…… (第2話:~風のこえ~) 職場でのストレスから鬱病になり、実家に戻った良行。 通院帰りに立ち寄った図書館で、中学の同級生だった繭子と再会する。もうすぐ結婚するという彼女は見るからに幸せそうだ。 しかし、会話する二人を見つめる周囲の目は、なにか妙な雰囲気をはらんでいて…… (第3話:~空のおと~)

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

となりのソータロー

daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。 彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた… という噂を聞く。 そこは、ある事件のあった廃屋だった~

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

結城 隆一郎 の事件簿 Seazon 1

一宮 沙耶
大衆娯楽
精神を病む凶悪犯罪者を刑務所で治療するカウンセラー 犯罪者は、何を語るのか?

あのとき、あなたがいたから

清谷ロジィ
ライト文芸
主人公の深山莉愛(みやま・りあ)は、悪いことを見過ごせない性格が原因で中学時代いじめのターゲットになってしまう。そのため、家族は莉愛の高校進学のタイミングで引越した。 高校で莉愛は、運よく一軍女子の久住紗英(くずみ・さえ)と真島みちる(まじま・みちる)と友達になることができた。その二人から嫌われないようにと自分の意見は押し殺していた莉愛だったが、ある事件の濡れ衣を着せられそうになってしまう。 そのとき、莉愛を助けてくれたのは誰にでも優しいクラスの人気男子、柴崎悠太(しばさき・ゆうた)だった。 悠太は莉愛に「変わる必要なんかない。俺が全部守るから」と言ってくれる。 その言葉に励まされた莉愛だったが、悠太には「優しい人」になった理由があると知って……。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

処理中です...